ダリア、夏期講習に出ます。8
「理解が無いのはわたくしの方でございました。申し訳ありません」
再びメイドさんが膝をつき頭を下げる。俺の好物を言い外したくらいでそんな大袈裟な。
「この失態は必ずや巻き返してみせます。どうかわたくしめに機会のほどを……」
「そ、そうね。じ、じゃあとりあえず……一緒に買い出し行く?」
「は、はい!」
凄く眩しい笑顔で攻撃された。
やめて。暗闇で生きてきた俺に、その光は痛すぎるわ。まあ悪い気はしないけど。
───昼下がりの夏休み初日。アパート近くにあるスーパーに向かっている俺は、既に今日を終えている気分だ。今日は内容が濃くて長い気がする。
……いや。昨日、召喚魔法を成功させる、と意気込んで自転車に跨がった辺りから長いな。
今日はメイドさんがずっとヘコヘコしている印象しかない1日だった。あとワイバーン葬ったっけな。
マックロネコは可愛い。
ふと思い出したが、他の4人は何をしているのだろうか? メイドさんの謙虚過ぎる姿勢に、俺は終始戸惑っていたから考えてる暇がなかった。
聞いてみるか。
「なあ、2人とも。他の4人にも会いたいんだけど、どこにいる?」
☆
夜。その廃城は月明かりにのみ照らされ、不気味に佇んでいた。
周りが深い湖に囲まれたその廃城は、ダリアが住む“王都アイテール”から少し離れた“カルゼン大河”を挟んだ先、鬱然たる森林の中で異様な雰囲気を放っている。
幾年もの浸食被害を受け、廃城の外壁と屋根は崩れ落ち、内部が露になっている。当時であればどれ程の値段だったのだろう、壊れた家具が投げ出されている。
とある権力者の象徴であったろうその城は、全盛期の輝きを失ってい、栄光の墓場と化していた。
廃城内部の月明かりの差し込む散らかった大広間で、6枚の翼を持つ男性が内観をひたすら眺めている。
「……おい、ルシファー」
そこへ、散らかった瓦礫の影から黒い猫が姿を現す。
「どうした、マックロネコ?」
「明日、ダリア様が来られる」
「……どこに?」
「この廃城に」
「いや不味いだろ。まだここに居た魔物を消したばっかなんだぜ?」
ルシファーが大袈裟に両手を上げる。
「あ、ダリア様を別の場所に招待するってのはどうよ?」
「ここでも別に良いだろ。人目にも付かない。それに、我等の……否、我等が主の住む場所になるのだから」
「───ダリアが、来るの……?」
不意に、か細い声が発っせられた。ルシファーとマックロネコが声の方に顔を向ける。
大広間の隅、積み上がった瓦礫の隙間から、膝を抱えて丸くなった少女が転がって出て来た。そしてゆっくりと立ち上がり、のんびりと歩み寄ってくる。
「なんだ居たのか。竜王ウロオボエ、喜べ。明日、ダリア様がいらっしゃるみたいだぜ?」
「本当……?」
サムズアップするルシファーに、銀の髪を持つ少女はガッツポーズで喜びを示すも、瓦礫に足が引っ掛かり、盛大に転んだ。
「大丈夫か?」
「……大丈夫、だよ、マックロネコ。明日ダリアが来るなら、ボク……頑張るよ」
顔を叩いて気合いを入れる銀髪の少女。
「いや、転んだくらいで大袈裟じゃねーの? まあいいや。頑張れ。スゲー頑張れ。立ち上がれなきゃ明日ダリア様に会えないぞ?」
「が、頑張るよルシファー……!」
銀髪の少女はプルプルと身体を震わせ、気を抜けば今にも崩れそうな細い腕で必死に立ち上がった。
「よっし良くやった! 褒めやる!」
「……うん。ありがとう、ルシファー。でも今の頑張りで疲れたちゃったよ、ボク……。寝るね……」
小さい欠伸をかき、隅っこの瓦礫の山の隙間に戻って行った。少女を見届けたあと、ルシファーが背伸びをする。
「さて、と。じゃあ少しは片付けておくかな」
「ああ。そうだな」




