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ダリア、夏期講習に出ます。6

「ああ。別に構わんぞ。グループを作って倒してしまっても構わん。だが、このあとにある講習を受ける生徒は、体力を使い過ぎて講習に集中出来ない、なんて事の無いように!」


ジョウジ先生はそう釘を刺し、パチンと手を叩く。


「5分後に魔獣を放つ。───では行動開始!」



生徒達が一斉に走り去った。



 ☆



さて、初の実技授業である。……いや、夏期講習は学校の成績に関係無いので、正式な授業では無いが。


既にメイドさんは場外で待機している。今はマックロネコと2人……ではなく、1人と1匹でスピードラビットの捜索中だ。


「さて、ダリア様。どうされる? さっさとスピードラビットを捕まえてしまおうか?」


「そんな簡単に見つかるかな」


「俺の目はスピードラビットの影を2つ、捉えているぞ」


マジかよ。猫って凄いな。


「それにまだ、ジョウジとやらにスピードラビットを捕獲したという報告者も出てないから、今なら一番乗りだ」


いやさ、だってまだ15分しか経ってないぜ? あの魔獣だって森の中を彷徨いてんだから簡単には……ねぇ?


てか、


「……まさか君さ、結構な範囲で透視出来たりとかする?」


「透視は出来ないな。俺なんかより、竜王ウロオボエの方が探索の能力は長けている」


あの長い角を生やした娘か。……んー、それぐらいしか印象に残ってないな。


まさにウロオボエ、的な。


召喚しといてそれは可哀想だ。よく顔を見ときたい。みんな何処に居るんだろう? 会いに行かないとな。


「ふむ……」とマックロネコは長い尻尾で顎をさする。


「ダリア様、誰か近付いて来ているな。どうも慌ててるみたいだ」


「誰かって……誰?」


その俺の問いに答えたのはマックロネコではなく、


「お、丁度良いところに!」


木陰から現れた渡辺カルレ本人だった。


息を切らし冷や汗を大量に流した渡辺カルレは濁った目に輝きを戻し、俺に駆け寄ってくる。


「なあお前! ジョウジの奴が言ってたけど、召喚魔法使えんだよな!? 俺、この講習クリア出来なかったらジョウジのクソ野郎にどやされんよ! じゃあ頼むわ!」


嵐の様に現れた渡辺カルレは、嵐の様に去って行った。


そして直ぐ、渡辺カルレ慌てふためいていた理由が分かった。



『ギルルルルル……』



この、巨木を軽くへし折り、歩く度に地響きを鳴らす巨獣、“キリングバブーン”に追われていたのである。



おいふざけんなコノヤロー。勘弁して下さい。



 ☆



(……さて、どうするか)


地面から顔を出している根っ子の上で、顔を洗いながらマックロネコは考える。


今逃げていった生徒は確か、先程ダリア様に金をせびった身の程を弁えない男だ。


あの様子から見て、メイドさんの一言は効いていなかったと見える。今メイドさんが居ない為にあの態度を取ったとも取れるが。


ダリア様絡みで、メイドさんは代行者達の中でも血が上りやすい。早い話、手が出やすいのだ。


そのメイドさんが穏便に済ませたから俺もそれに免じて逃がしやったが、2度も見逃すほど俺も穏やかではない。


寧ろ痛い目を見た方が良いだろ。しかも、どうもあの男は、ダリア様に危害を加えるクズだと言うじゃないか。


足で耳の裏を掻きながら、今にも襲い掛かって来そうなキリングバブーンを見据える。


こいつを使ってあの男にお灸でも据えてやるか。


ダリア様に怪我でもされたらたまらんし、さっさと済まそう。


欠伸を一つかき、尻尾を奇妙にくねらせ、自分の影に突き刺す。



───“影弄り”



影とは、物体が光を遮って出来る暗い部分を言う。それは影と物体の動きが連動する事を意味する。


この技は対象者の影を弄る事が出来る。


これ即ち───


「あ、あれ……み、見ろよマックロネコ!」



腕を振り上げ攻撃態勢に入っていたキリングバブーン。が、急にそっぽを向き、俺らを無視して渡辺カルレとやらの逃げて行った方へと歩き出した。



「……行っちゃったな」とダリア様が呟く。


「渡辺カルレとやらが標的だったのではないか?」



即ち、俺が影を動かせば、その通りに対象者は動かざるを得なくなる。



 ☆



(な、なんだってんだよ!)


渡辺カルレが心の中で吠える。


(なんで身体が動かねーんだよ! なんでだよ!)


そう。渡辺カルレは身体を指一本も動かせないのだ。それどころか、瞬きも出来ない、口も動かない、風で髪もなびかない。


恐怖に染まった二つの瞳を、眼前のキリングバブーンから反らす事すら出来ない。


(ありえねぇ! ありえねぇ! ありえねぇ!!)


キリングバブーンの太い腕が振り上がる。


(くそ! くそ! くそ!)


隕石が堕ちてくる様な感覚に見舞われながら、渡辺カルレは意識を手放した。



その様子を遠くから眺めていた赤と黒の瞳を持つ黒猫は、一つほくそ笑むと、主人の下に帰るために木の影に溶け込んで消えた。

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