ダリア、夏期講習に出ます。4
「考えが及ばず申し訳ありません」
深々と頭を下げるメイドさん。
「何かありましたらお呼び下さい。直ぐに駆け付けますので。では失礼します」
メイドさんの退室と入れ替わる様に、面倒な奴が教室に現れた。
「あっははー!! 黒江ダリアじゃん? なんで学校にいんの?」
教室の隅にまで響く声で歩み寄って来るそいつは、同じクラスの同級生。確か……渡辺カルレ。陰湿な苛めを得意とする。因みに、金をせびってきた奴の一人だ。
「なんか用かよ」
「つれないじゃないの~!」
渡辺カルレは身を低くし、声のトーンを落として呟く。
「来週のアレ、明後日にしてくんね? 急に必要になったんだよね」
「は?」
「なんだそよその口は。不服か?」
「い、いや……分かった……」
「ならいいんだ」
渡辺カルレは背筋を伸ばし、爽やかな笑顔で握手を求めてきた。
「じゃあ頼むよ。黒江ダリア君」
この握手には何かあるな。考えられるとすれば、俺の手を握り潰す、だな。
「どうした? 友情の握手だぞ? 握れよ」
逆らえる訳もなく手を出そうとすると、俺より先に白い華奢な手が渡辺カルレの握手に応じた。
「始めまして。わたくしの名はメイドさん。主人に何かご用でしょうか?」
いきなり現れたメイドさんに呆気に取られる俺と渡辺カルレ。
そして、渡辺カルレの顔が悲痛に歪み始める。メイドさんの握力が効いているようだ。
「ご用が無いのでしたら、お帰り願えますか? 二度とお近づきにならぬようお願いいたします。でなければ───」
メイドさんは渡辺カルレを無理矢理引き寄せ、耳を乱暴に掴み、口を近付けて、言った。
「殺すぞ」
渡辺カルレが逃げ出すのに、10秒も掛からなかった。
「申し訳ありませんダリア様! 出過ぎた真似を……」
メイドさんが眼前でひざまづく。
「い、いや……そうだな、なんと言うか……」
迷惑だったと言えば、嘘になる。正直スッキリした。渡辺カルレのあの顔は爆笑だった。
そう言えば、長らく使ってない言葉があるな。
「メイドさん。ありがとう」
メイドさんが鼻血を吹き出した。
☆
現在12時。
進路説明会は何事もなく終わった。夏休みの初日に開催された理由は、夏休み中に進路を決めなければならないからである。
で、進路説明会中に思った。
俺自身が魔法を使えない。
召喚魔法は成功したから魔力の存在の証明は出来たが、俺が魔法を使えない事に変わりはない。
魔物や聖獣は契約によって召喚が出来るようになり、身体のどこかに印が刻まれ、それを見せれば証拠になる。
だが、メイドさんとマックロネコ達は違う。証明する手段がない。還らせる事で証明が出来るが、永住権を与えてしまってはそうはいかない。その上、俺の魔力は空に近くなり、寧ろ悪化した。
よく考えたら、召喚士が色の無い魔力を持っている訳じゃないんだよな。みんな魔法が使える上で、召喚魔法を使ってるんだ。
……悪口を叩いた生徒の言う通り、確かに進路説明会に来たってなんの意味も無かった。
俺の進路は決まった。地元で静かに働こうと思う。
教室を出ると、直ぐにメイドさんが出迎えてくれた。まだ鼻血の後が残ってる。
「お疲れ様でした」
「ずっとそこに居たの?」
「いえ、申し訳ありません。勝手ながら少々外出を……」
「学校探検って事?」
「いえ。先程のワイバーンから剥ぎ取った角を質屋に売却致しました。その後、精肉店や魚一番等を周り……」
そこで言葉を切り、手に持っていた謎の包みを顔まで持ち上げる。
「お昼、でしたので。ご用意致しました」
行動力凄いな。
☆
さて、夏期講習である。
夏期講習と聞くと椅子に座って講義を受けるイメージだが、俺の通うこの学校───“王国東宮魔法学院”には魔法実技学も含まれている。
今日はその学科が午後一番にあるのだ。これに参加しようと思う。
よくよく考えたら、もう内申書が決定してしまっているので、勉強してもあり意味の無い事に気付いた。
この学校では、3年は夏休みまでの成績で評定が決定し、それを元に進路を決めていく仕組みだ。何故、夏休みまでの成績しか影響しないのかと言うと、本格的な就活がこの時期から始まるからだ。
まあなんにせよ、代行者達の力を見る為に参加しようと思う。メイドさんはワイバーンを一捻りにしたから、今度はマックロネコの番だな。
「……ダリア様、あの教師の処分はいかほどに?」
第三戦闘場に向かう道中、メイドさんが物騒な事を言っている。
「やらないやらない」
今、担当教師に参加を取り付けて来たところだ。その教師が俺に対して偉そうな態度を取っていた為に、メイドさんはプンスカしているのである。
メイドさんは廊下で待機させていたのだが、丸聞こえだったらしい。地獄耳だな。




