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噂<結城翼>

外は一面雪景色。雪が降るのはいい事だ。綺麗だしな。

ただし寒さ、お前はいらない。

外と内の温度差による水滴で、教室の窓ガラスは曇ってしまっている。

雪が降る日は決まってこうだ。


寒い。


スーパー寒がりな俺にとって寒さは天敵だ。

おかげで俺は室内でもマフラーをしなければならない。

本当は室内でのマフラーは禁止だと言うのに。


ああ、何と悲しい事だろう。



「おーい、結城。マフラー取れー」



先生から軽く注意された。そうして俺は、マフラーをほどく。

注意されれば取る。

それが規則で俺は比較的真面目君だからな。


ちなみに結城が俺の名前である。


結城翼ゆうき つばさ

親しい連中からは『つばっち』と呼ばれている。



「なあ、つばっち」


「はいほい」



後ろの席の陸斗から声をかけられる。

三船陸斗みふね りくとは昔からの悪友だ。小学生の頃から仲がいい。

陸斗とはよく一緒にイタズラしていた記憶がある。


あくまでも小学生の頃の話だ。

今はさすがにやらない。



「アゴ沢の授業、超つまんね」


「柄沢先生と呼んであげなさい」



保健体育教師の柄沢省三からさわ しょうぞう

通称、アゴ沢。


通称の由来は言うまでも無く外見にある。

さらに言うなら顔面、そのケツアゴにある。



「まぁ保健だからな。面白くしようにもムズいだろ」


「そかねー? 俺ならもっと面白くあれをああしてこう・・・まぁいいや」



まぁいいのか。



「それよりさ、知っとる?」


「何を?」



何の脈絡も無いフリだ。こいつがこうやって話をふる時は大抵素晴らしく、ろくな話じゃない。

俺は、自分史上最高につまらなそうな顔を浮かべる事に成功した。



「なんとかゲーム」


「なんとか?」


「あ、思い出した。神様。うん、神様だ」



字にして二文字。



「それくらい覚えたら?」

「でさ・・・」



うん、聴いてない。

聴いてないよな、コイツ。



「その神様ゲームがすっげーんすよ」


「どう言う風にすっげーんだ」


「神様になれちゃうの。しかも誰でも」


「何だよ、それ」



怪しい。

具体的に言うと、街中に現れたおじさんが突如としてボサノバを踊り出すくらいに。



「君達は力を持つべき存在だ。それは君達自身が知っている」


「何、その胡散臭いセリフは…」


「だから、私は君達に相応の力を得る機会を与えようと思う」


「聞いてないんだな」



むしろ聞かないんだな。



「この神様ゲームは勝者だけでなく、全てのものに力が与えられる」



珍しいな。

いや、ただの口上か。



「だが全てのゲームの勝者となれば、それを遥かに凌駕する力を得る事が出来る。大事な人を生き返らせる事も…」



全くこちらの言う事を聞かないし、この胡散臭い話よりは授業の方がマシか。

よし、授業やろう。俄然、やる気が出て来た。



「…憎い奴を殺す事も」



俺は授業に戻りかけた目線を、再び陸斗に戻す。



「お、つばっち。いんの?」


「何が?」



陸斗は不敵な笑顔を浮かべた。



「…殺したいヤツがさ」



俺は一瞬、ほんの一瞬ではあったが言葉を失ってしまった。

我に返り、続ける言葉を探す。



「陸斗………」


「何だよ、つばっち。まさか…」


「三船ェエ!」



柄沢の叫び声に三船が驚く。



「はい先生!」


「ここ読んでみろ!」


「はい!」



陸斗は青い顔で教科書をパラパラとめくっていく。あいつ、今どこやってんのか分かってないな。



「…12ページ」


「ないすっ! 南ちゃん!」



南はクスッと笑った。

彼女、如月南きさらぎ みなみとは高校に入ってから仲良くなったクラスメイト。


それ以上でも以下でも無い。スラっとした高い背格好、キリっとした目元の美人であり、クラスの男子が踏まれたい女子ナンバー1を誇る。


神様ゲームか。全くなんてゲームだ。

憎い奴。一人だけ思い当たる男が俺にはいるのだ。

全く、なんてゲームだ。





----------------------------------





チャイムが鳴り、柄沢の授業はようやく終わった。

あとは早く帰れれば文句なし。世は事も無し。

だが、そうはいかない。



「やっと授業終わったー! あぁ、そうそう。さっきの話のサイトなんだけどさー」



こいつがいるからな。



「本当にすっげーんすよ。こんなうさんくさ…中二病…えっと」



おいおい、すっげーんじゃなかったのか。



「とりあえず、こんな怪すぃサイトに登録した神様候補がただいま1万人超え!」


「怪しいのか…」


「うちのクラスメイトもほぼ全員登録済み!」


「それはお前の気になってる詩織しおりちゃんも含まれるのか?」


「もち!」



なるほど、何がすっげーんのか分かってきたぞ。



「つまり、お前は詩織ちゃんの興味を惹きたいがためにまた胡散臭いものに手を出したのな」


「サイテーね」



南ちゃんの痛恨の一撃。



「いやあ、何というか…俺、彼女の為ならうふぉーも信じられる気がするんだよね」


「ユーフォーね、UFO」


「さっすが南ちゃん、いいツッコミ」



確かに。お陰で陸斗のウザさも少しは半減した気がする。

ここで一応、俺はありていな質問を投げ掛けることにした。



「で、なんで、いきなりそんな怪しいゲームの勧誘を始めたのか」



こいつのことだから大体予想はつくが。



「どうせならみんなでやろうって思うのよ。親友も含め」


「本音は?」


「いや、本音なんて今言った通りで…」


「ほんねは?」



出た―! 南ちゃんの超絶スマイル。

見たものは死ぬ。



「ゲームって協力プレイとか情報交換が大事じゃね?」



今までに見たことがないほどキリッとした顔だ。

殴りたい。



「…つまり、身近にゲーム仲間が欲しいと」


「うん」


「それこそ詩織ちゃんを誘えばいいじゃないの」


「俺にそんな勇気があるとでも? なあ」



俺に同意を求めるな。南からジットリした目で睨まれてるだろうが。



「このゲームをマスターして、色々詩織ちゃんに教えてあげたい。そう、色々」


「ゲスいわ」



ああ、これはゴミを見る目だ。そこで、陸斗が一言。



「目覚めそう」

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