うさぎのぬいぐるみ
──どうしたの?
大事なぬいぐるみをおとしたの? それはかなしかったね。ああ、泣かないで。
そんなに大事だったんだね。え? いっしゅうかんずっとさがしているの? そう。
わかったわ。じゃあ目をとじて、そのぬいぐるみのことを強く思ってみて。
そして、目をあけたら、この道をまっすぐ歩いて、そしてふたつめの角を曲がるの。
そうすると赤い屋根と赤いドアのお店がきっとあるから、そこでぬいぐるみのことを聞いてごらんなさい。
【おとしものあずかり屋】
女の子が赤いドアをあけました。
「いらっしゃいませ」
そう言って座っていたいすから立ちあがったのは少年でした。
そのお店は小さくて、正面にカウンターがひとつあり、その向こうに少年がいます。耳の長い大きい犬がカウンターの前のわきにおとなしそうにふせっていて、あとはお客さま用の小さいテーブルといすがあり、壁に絵が2つばかりかかっているだけのがらんとしたようすです。そして少年の後ろにもうひとつ、ドアがありました。
女の子はたずねました。
「あの、わたし、いっしゅうかん前に、だいじなぬいぐるみをおとしてしまって。とってもとってもだいじなぬいぐるみで、どうしても見つけたくて。まいにちまいにちずっとあたりをさがしていたんだけど見つからなくて。泣いていたら、このお店にきいてみてごらんと言われて……」
そう言っているそばから女の子の目から涙がぽろぽろこぼれます。
少年はそのようすをじっと見ていて、それから「それはどんなぬいぐるみですか?」と聞きました。
「これぐらいの大きさで、いちごミルクのようなピンク色をしていて、目は色ちがいのボタンになっているうさぎのぬいぐるみです」
男の子はふむふむとメモをとると、後ろのドアに向かって「アナ」と声をかけました。
出てきたのは少年より少し年下に見える少女でした。頭に黄色い小鳥を乗せています。
「なあに、ユッカ」
「おきゃくさんだよ。これ、さがしてきてくれる?」
「はあい」
アナはユッカからさっきのメモを受け取ると、またドアの中へきえていきました。
ユッカは女の子をいすにすわらせて、あたたかいココアをテーブルにおきました。そして女の子に話しかけます。
「だいじなぬいぐるみなんだね」
「そうなの。となりのいえにすんでいた男の子がたんじょうびにプレゼントしてくれたものなの。半年前にとおくにひっこしてしまってもうあえない……」
「なかがよかったんだね」
「うん。いまでもだいすき……」
そんな話をしているとドアを開けてアナが出てきました。
「はい、おさがしもの、あったよ。この子、ピアが見つけてヴァロが拾ってきた子だね」
アナが手にもっているのは、まさに女の子がなくした、うさぎのぬいぐるみでした。
女の子はぬいぐるみを受け取ると、言葉もなくぎゅうとだきしめました。
「でも……どうしてここに?」
しばらくぬいぐるみをだきしめておちついてきた女の子はユッカにたずねました。
「だいじなだいじな、とーってもだいじなおとしものは、みんなここに集まるんだよ。ここは『おとしものあずかり屋』だからね」
ユッカがそう答えたあとに、アナがつづけて言いました。
「その男の子ともうあえないってことはないと思うよ。いつかあえるときがあるかもしれない。だから今度はもうその子をおとさないようにきをつけてね」
女の子はうなずきました。そうです。いつかあえるかもしれないのです。
女の子はお礼を言ってお店を出ました。
しばらく歩いてから、ふとふりかえると、もうそのお店は見あたりませんでした。