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勇者のスキル

 ローブの集団の後を皆でついて行く途中、服の裾を引っ張られたので其方へ視線を移してみると一人の少女が不安そうな表情で此方を見つめていた。


 肩につくかつかないかぐらいの茶色がかった髪の毛にクリッとした大きな瞳。整った小さな鼻に口。まさしく美少女と呼んでも可笑しくはないこの少女は、どういう事か俺の幼馴染である。


 今思ってもこいつとは違う学校にも、違うクラスにもなった事がない。もはや此処まで一緒に居れば家族、と言っても過言ではない気がする。只、それをこの少女ー相川 千歳に言うと不機嫌になるが。


「ねぇ海人。私達これからどうなるの?」


 何時もの元気な姿とは間反対の千歳を見ると俺も少し不安を煽がれる。が、今此処で不安を表に出す訳にもいかない。少しでも千歳の不安を取り除いてやるのが…俺の役目だろう。そう考え、千歳の小さな頭の上に手のひらを置き、少し強めに撫でてやる。


「心配すんな。お前には俺がいる。お前は何時も通りにしてればいい」


「…うん!」


 その後特に千歳と会話を交える事なく、他のクラスメイトも口を閉ざす中、石造りの殺風景な光景は消え去り、代わりに目を見張るほどに煌びやかな空間に足を踏み入れた。


 大きな扉を開いた先はまさしく絵本に出てくるかのような世界だったのだから、クラスメイトや俺の口が開きっぱなしになるのも仕方のない事だと思う。陸に上げられた魚のように口をパクパクしているも者もいる。


 その圧倒的な光景を前にし、俺達の歩みは一旦止まるが、前方を歩くローブの集団の歩みは止まらない。それを見た俺達は細部を見たい気持ちに駆られるが、置いてけぼりになるのも困るので急ぎ足でローブの集団の後を追う。


「すごい…本当に私達違う世界に来ちゃったんだね」


 後ろで未だに俺の裾をつかんでいる千歳がそう呟く。確かにこれだけの光景、あのローブの集団や、その時足元に書かれていた魔方陣らしきものを見れば嫌でも実感しないといけないだろう。


「そうだな」


「私達帰れるのかな…」


「…」


 正直な所、俺は此処に居る全員が帰れるとは思えない。それには幾つかの考えがあるが…一番の理由としては、やはりこれから俺達が駆り出される状況、と言う奴だろう。


 …あまり言いたくはないが友達の少ない俺はライトノベルやネットの小説を時間潰しの為によく読んでいる。その中に今の俺達のように召喚された、と言うパターンは数多く存在し、そしてその理由の殆どが魔王を倒して欲しい、と言う理由だ。


 ネットでは天馬のような正義感にあふれる奴が王の頼みをその場で承諾し、魔王との戦争に備え、力を蓄えるの言うものだが…そう、まさしくこのクラスには天馬が居る。


 既にお気付きになられただろうか?既に俺はこの後の未来が見えていると言っても過言ではないだろう。現に今でも天馬は先頭を歩き、皆をまとめている存在。それは今だけでなく、現世でも、常に天馬は皆の中心に存在し、皆を纏めて来た。クラスの皆もそれに反対する事なく、どころか完全に天馬に依存して言える所がある。


 そんな存在である天馬がこのまま王とやらと話し、本当に魔王と闘ってくれ、なんて言われたら間を空ける事なく、俺達は勇者とやらに祭り上げられるだろう。


 素直に言わせてもらいたい。それだけは勘弁して欲しい。


 勇者?興味ない。この国の民?いや、俺そいつら知らないし。この世界の安寧?元の世界に返せ。


 まさしく俺の感想としては上記に尽きる。


 確かに冷たい、と思われるかもしれないが、俺は他人なんてどうでもいい、と思える人間だ。特に家庭環境は普通だが、何故か俺は他人の為に自分の命を掛けてまで助けようとは思えない人間になってしまった。捻くれている?黙れ。


 それに魔王、なんてファンタジーな存在と戦うと言う事はそれだけ自分の身を危険に晒す原因にもなる。間違いなく、魔王、またはそれに匹敵するだけの力を持った存在と戦う事になった場合、今この場にいる誰かは命を落とすことになるだろう。これは小説の中ではなく、ゲームの中でもなく、現実なのだから。


 何はともあれ、本当に俺達が魔王、またはそれに匹敵する敵と戦う事になった場合は、俺はどうにかして退避しないといけない。そして今も後ろで少し怯えている千歳を守らないといけない。


「絶対俺達は元の世界に帰る。その目標を忘れなきゃいつか帰れるさ」


 なんとも根拠のない言葉ではるが、今はこう言うしかあるまい。


 そのまま会話が続く事はなく、静かな空気が周りを満たす中、遂に俺達は謁見の間とやらの前に到着する。


「皆様、この扉の奥には我等の王であるウィリップ様がおります。見た所学生のように見えますが…なるべく粗相のないようにお願い致します」


 ローブの男の言葉に誰も返事はしない。当然だ。誰もそんな礼儀など弁えていないのだから。


「それでは行きます」


 俺達の返事を待つことなく、ローブの男は扉を開き、謁見の間へと俺達含め、足を踏み入れる。


「よくぞ来てくれた!異世界からの勇者達よ!」


 そう言葉を発したのは王座に座る絵にかいたような王様。金色が散りばめられた服に赤色のマント。そして金色の王冠。それらの衣服と纏う王は壮年の髭を生やした男性であり、まさしく王、と言った風貌だ。


「そなた達にも思う所は多々あるだろう。何故自分達はこのような場にいるのか、元の世界に返れるのか、自分達はどうなるのか、と。だが、その質問に答える前にどうか我の話を聞いてはくれぬか?」


 いや…俺達の疑問に先ずは答えろよ、と思ったのは俺だけではない筈だ。


「はい。お話をお聞かせください」


 が、そう答えたのは天馬。まぁあの場で俺達の疑問に先に答えろなどと口が裂けても言えないのは理解しているが。


「おお!有難い。では早速簡単にだが今我らが置かれている状況を説明しようと思う。少し長くなるが構わないな?」


「はい」


----------


「以上が我らの置かれている状況であり、この国の、この世界の行く末だ。そして、君らがこの世界に呼ばれた理由はその魔族と戦いこの世界を救って貰う為に呼ばせてもらった」


 魔族、魔王が本当に来た。いや、もう話の途中から既に答えは見えていたが、いざ本当に魔王と戦ってくれと言われると、こう…体の奥底から込み上げて来るもがある。主に闘争しんなどではなく失笑の類だが。


 が、当人達からすればかなり真剣な話なので表情に出すことはしない。ポーカーフェイスを保つのは俺の得意技でもある。


「どうかこの国を、この世界を救う為にそなた達の力を貸してはくれぬか?当然そなた達の衣食住は全て此方で用意し、そなた達が望むものも可能な限り用意しよう。金も、女も、食べ物も、土地も、権力も、可能な限り全てを用意すると約束しよう」


 女、のワードで少し反応してしまったのは男として仕方のない事だと思う。回りにも「女…」などと呟きつつゴクリと咽を鳴らす男が多数居た。只俺の後ろには千歳が居たため、少し俺も反応した時思いっきり尻を抓られた。痛い。


「王様。僕としては王様の助けになりたい。ですが、私達には何かと戦った経験などなく、ましてやそのような存在と真正面から戦えるとは到底思えません」


 最もな意見ではある。が、この場合召喚されたものには何かしろの特典が付いているのだろう。この手の小説を読んで毎度思うが、何故異世界に召喚されるとそのような特典が付いてくるのだろうか。不思議なものである。まぁ、こうして現実になってしまった以上、その特典がないと困るのも事実ではある。


「それについては心配いらない。異世界から呼ばれた勇者達には一騎当千とも呼べる力がある事は既に判明している。皆脳内でオープン、と念じてはくれぬか?」


 これあれだ。脳内でステータスが表示されるタイプのあれだ。


 結構この状況にわくわくしつつある少年心を持つ俺だが、大抵クラスで召喚された場合一人落ちこぼれ、などと言った悲しいスキルを持つ存在が一人はいる。まぁ31人と言う数の生徒がいるのだから当たり前だと言えば当たり前なのだが…俺ではない事を祈ろう。


 そんな事を考えている内に周りの生徒は脳内でオープンと念じたようで、皆驚きの表情を浮かべている。その光景を見て俺も脳内でオープンと念じる。


 すると目の前にゲームの画面などで見慣れた画面が飛び出てきた。


「まじか…」


 さすが異世界、としか感想が出ないが、それよりも俺は自分のステータスに目を向ける。


-不知火 海人-

-称号-

 異世界の勇者

 傍観者

-スキル-

 脳創造-ブレインクリエイト-


 と簡易的に表記されていた。


 最初はHPなどの表記はないものかと思っていたが、右下の詳細を選択すればどうやら表示されるようだ。そう右前の男子が興奮気味に隣の男子と話していた。


 まぁ、それも当然気になる所ではあるが、今はいい。それよりもスキルだ。


 脳創造って何だ。


 並行思考とかではなく、脳創造ってなんだ。脳みそ造るのか?いやいや如何にも白衣が似合いそうなスキルですね、ってか?ふざけるなよ?脳みそ作って何の得になるんだよ!


 自分のスキルがいまいち理解できず、そう愚痴を零すが、後ろに居た千歳がボソッと呟いた言葉を俺は聞いてしまった。


「神の万能手ってなんだろう?」


 …?あれこいつすげぇやばいスキル持ってる感じか?もう神って名称が付いてる時点でかなりやばそうなスキルじゃないか?…俺千歳を守るんじゃなくて、守られそうだなこれ。


 そんな情けない考えを頭の片隅で考えながら視界に写る脳創造と言う謎のスキルについて頭を痛める。





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