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頑張れ魔剣! 禍の剣さん!

作者: 棘田 清棘

5000字程度のはずがいつの間にか1万字に……

どうしてこうなった……?

 不義ふぎまもるは聖剣、魔剣対戦が始まるまでは辺り一帯の不良どもの元締めであった。

 この町では不良以上に強い一般人も多い。先日も不義が100人近くでたった二人の少女を倒そうとして見事に返り討ちにあったところだ。

 その後謎の人物により舎弟が豹変。そしてこちらが二人を敵視していたにもかかわらず助けてくれたその二人の少女。それからは幸田姉妹を姐御と慕い、一生仕えることを決めたのだ。

 そんな不義の朝は早い。


「おい、姐さんに用があるなら俺が聞くぞ?」


 目の前にいるのは不意打ちをしようとしていた魔剣使い。そいつが持つ剣は名前すらないものであったが、使い手は体を相当鍛えられていると思われた。


「ふん。少女を怪我をさせるにはいかないから不意打ちで一瞬で気を失わせようと思ったでマッスルが、男ならその遠慮はいらないでマッスルな」


 なぜか男はボーディービルのような筋肉を強調させるポーズではなく、両手と片足を上げるクジャクのポーズをしていた。


「いくぜ! 禍の剣」


 シーガルスホルム島にあったとされる名剣の一振りである禍の剣。それが不義と契約した魔剣であった。

 シーガルスホルム島には名剣が禍の剣を合わせて46本あったとされるが、今は幸田姉妹との戦闘を経て5本まで数を減らしていた。

 

「いくでマッスル。食らうがいい。我がマッスルを!」


 力任せに振り下ろされる剣。しかし、単純でありながらも元々の筋力と魔剣と契約し、身体能力が上がったその一撃はとても恐ろしいものであった。


「まともに受ければだがな」


 その一撃に一切臆さず最速で男の懐に向かう。そして、男が振り下ろすよりも不義の放った攻撃が早く届く。

 男は吹き飛び、塀にぶつかって動きを停止した。

 僅かながら意識を残してる男に向けて不義は口を開く。


「俺程度に勝てないなら姐御と闘う資格すらない。出直してきな」


 その後舎弟たちと共に幸田姉妹が通学に使う道を清掃する。


「まったく。タバコはやめてほしいよなぁ」


 などと不良のくせに煙草を吸う人を批難しながら吸殻を広い。


「ガムかよ! こびりついてるから面倒で嫌なんだよなぁ。ガムはちゃんと包み紙に包んでごみ箱に捨てやがれ」


 などと言って持参してきたへらで取る。


「ふふふ。幸田姉妹は我らが殺r……ひでぶっ!!」


 他にも幸田姉妹を狙う魔剣使いを掃除していた。

 そして実はこの不良たちは不良でありながら煙草は吸わない。道にごみを捨てない。酒も飲まない。万引きも犯罪もしないという本当に不良か? と疑問に思程度には善人であった。




「姐さん方おはようございます」

「私とお姉さまのためにお勤めご苦労様です」

「百合の姉御のその言葉だけで報われます」


 舎弟と共に出てきた幸田姉妹に挨拶をする。

 二人も自分たち二人のために頑張ってくれてるとわかっているので満更でもない。


「そう言えば不義」

「はい。なんでしょうか?」

「これを上げましょう。お姉さまの持つガラスの能力を解析したついでにできたものですが、この装置を付けた魔剣の能力を一つに集約させることができます。あなた方向けの能力になりましたので折角ですしあなたに渡しましょう。ちょうど5本分。あなた方の魔剣の数と同じですよ」

「ありがてぇ。大事に致します」


 実際のところ幸田姉妹の姉、翼が持つ聖剣であるガラスことガラティーンの能力を解析してる途中に生まれたものだが、能力を集約、そして数がちょうど5本などという偶然などない。

 それは不義たちのおかげで邪魔者が入らず姉と一緒にいられる百合なりのお礼であった。

 もちろんあまりもので作ったものなので姉に渡すような物とは性能が圧倒的に劣る。しかし、天才の百合が作ったもので現代の科学力では今は無き萱葺かやぶきファウンデーションぐらいであろう。


「不義。最近物騒だからやられそうになったら俺に言えよ。大事な弟分だから守ってやる」

「ヘイ!」


 不義たちの努力は幸田姉妹に認められるまでになった。それは不義たちのさらなる励みとなり、幸田姉妹に付き従うことを決めるのだった。




 学校が終了し、幸田姉妹がゆっくりと帰れるように掃除をしている途中だった。


「お前ら魔剣使いだな? 『英雄殺し』こいつに聞き覚えがあるか?」


 そんな風に聞かれる。

 聞かれるといってもその手には剣が握られ、さらには本当の命のやり取りなどしたことがない不義たちにも感じられるほどの殺気が放たれていた。


「知らねぇよ!! テメェらも距離をとれ!」


 そう叫びながら魔剣使いとなり、強化された身体能力を最大限まで振り絞り、後ろに飛ぶ。

 それは地面にひびを入れ、車よりも早く動くことに成功したが目の前の人物にはその程度の距離は関係なかった。


「そうか……。ならダーインスレイヴ。……皆殺しだ」

『殺っちゃう? 殺ちゃうよ!』

「禍の剣ゥ!!」


 それは本能的な行動だった。

 一瞬にして禍の剣を剣の形態にすると、顔の前に構える。


 キィィィン。


 そんな金属音のもと、不義は数メートルほど吹き飛ばされ、地面に転がる。


「「「護の兄貴!!」」」


 それを見ていた舎弟が一斉に声を上げる。

 彼らにはあまりの速度で放たれた一撃の残像すら見ることが叶わなかった。


「こいつは殺し慣れてやがる! お前らは急いで逃げて翼の姉御に保護してもらえ。時間は俺が稼ぐ」


『やれやれ。儂ではあ奴の攻撃を何度も受け止められないぞ?』


「禍の剣よ。貧乏くじ悪いな」


『なに、こういうのは老いぼれの役目じゃ』


 自らでは到底敵う気がしない。しかし、やらなければ舎弟達が殺されてしまう。

 大事な舎弟を殺させるわけにはいかず、ここで目の前の人物を文字通り命がけで止めるつもりだった。

 しかし……。


「護さんが生き残ってください」

「ここで死ぬのは俺ら下っ端だけでいいっす」

「直接助けてくれたのは翼の姉御や百合の姉御だが、そうやって頼み込んでくれたのは護の兄貴なんだぜ?」


 そう言って鉄の鎖や、掃除用に持っていたへら、武器は持っていない者も自らが盾になって時間を稼ぐつもりであった。


「お前ら……」


 ほとんどのものは魔剣を失った一般人と変わらぬ身体能力しかない。

 だからこそ命そのもので一秒でも時間を稼ごうというのだ。


「っち、興が冷めた。このあたりに邪悪で強大な力があるが気を付けることだな」


 そう言って男は去っていく。

 この時は知らない。邪悪で強大な力を持つ者にすでに会っていた人物だということを……。

 そして再び会うことになることを……。




「お勤めご苦労」


 先ほどのことを悟られることなく幸田姉妹を家に送り届けていた。

 実際には気づいていたが、本人のプライドを傷つけないために口にしていないだけだ。

 何枚も幸田姉妹の方が上手であった。


『オッス。電話だ! オッス。電話だ!』


 不義の携帯から独特な着メロが流れる。

 それはあることを調べさせていた一人の舎弟からだった。


『見つかったぜ! あの黒いオーラの男を!』


 それは幸田姉妹の舎弟になることが決まった日。不義たちは一人の男に会った。

 男は黒いオーラを放ち、そのオーラに包みこまれた魔剣は次々と使用者の意識を乗っ取り、暴走を始めた。

 その際に47本あった魔剣は42本までが奴によって暴走させられ、幸田姉妹によって破壊された。そのおかげで舎弟は正気を取り戻すことができた。

 あの二人なら剣を壊さずに正気に戻せていたかもしれない。しかしその時は敵であったものにそれを求めるのは贅沢であったであろう。

 そして、黒いオーラを纏う奴にお礼参りをしようと自らを鍛えるとともに舎弟に探させていた。


「おめぇら。力を貸してくれ」

「当り前っすよ」

「もとより俺らのための仇討だ! 兄貴ひとりではやらせないっすよ」


 男たちはやられていった剣のためにも連絡のあった場所に向かう。

 5人の魔剣使いの手にある剣には百合から貰った装置、そして前回の襲撃を生き残った精鋭はさらなる筋力トレーニングと、スプレーなどの目つぶしや、魔剣以外の武器を携えて決戦に挑む。

 準備は十分。

 奴は先ほどのダーインスレイヴの使い手や翼達と同じように不義たちでは力の底も分からない。しかしだ。不義たちにとってそれが戦いを挑まない理由にはなりえなかった。




 お気に入りの特攻服を着て、5人は奴が拠点としている教会へと乗り込んだ。

 他の舎弟は魔剣を持っていないので役に立てないどころか、足をひっぱてしまうと泣く泣く外で待機している。


「さて、ようやく見つけたぜ。前は世話になったなぁ」

『何ノ事ダ? 私ハオ前ナンカ知ラナイ』


 こちらを振り返ることなく黒いフードを被った男は言う。いや、男ではなく、男の持つ魔剣がだ……。


「そうかもな、そうだろうよ。だが俺の弟分を苦しめてくれたお礼はたっぷりするぜ?」


 そう言うと隣に待機してた4人がフードの男を囲うように動く。


「な、なんだよこいつ!!」


 フード男の前に回り込んだ浅田が言う。

 浅田が見たフード男の顔には一切の表情はなく。目は白く濁り、瞬きを一切していなかった。


『アア、コイツカ……。私ノ悪意ヲ直接受ケ続ケテイタラ壊レテシマッテナ。折角ダカラ体ヲ操ラセテ貰ッテルヨ』


 担い手が剣を操るのではなく、剣が担い手を操るなど聞いたこともなかった。

 それに剣によって担い手が壊れることも……。


『コレヲ利用シテ配下ヲ作レナイカ試シテミタガ無理ダッタヨ。アア、思イ出シタ。オ前ラハアノ時ノ実験体カ』


 その実験体と言う言葉に不義は切れる。

 命がけで自らを守ってくれるような弟分達を侮辱するような言葉が不義にはなかった。


「能力、井上に譲渡!」


 その叫びと共に全員が一斉に飛び出す。

 その速度は魔剣使いとすればかなり遅かった。

 しかし、一人は他の人と比べ物にならない速さで駆けていく。

 フードの男はそのスピードでも余裕でついていけるのか大して慌てる様子を見せずに対処する。

 だが、それぐらいは想定済み。幸田姉妹の後ろで何人もの強者同士の戦いを見てきたのだ。これぐらいでは驚かない。


「次、上原!」


 急に井上の動きが鈍るとその後ろにいた上原の動きがよくなる。


『ッチ……妙ナ能力ヲ……』


 急な動きに対応しきれなかったのか、浅くではあるが傷を与えることができた。


「次は俺だァ!!」


 不義の動きがよくなるとともに最大限の力で振り下ろす。

 先ほどの攻撃を受けて体勢が整ってないのか、不安定な状態で攻撃を受けとめる。

 フードの男の足元が崩れ、地面にひびが広がる。


『鍔迫リアイカ? 面白イ』

「と言って黒いオーラで禍の剣を乗っ取るつもりだろ? 相本、江坂ァ!!」


 黒いオーラが禍の剣を包み込もうとしてる所で二人が突っ込む。

 二人を躱すためにフードの男が飛びのく。そして、黒いオーラも禍の剣を包み込む前にフードの男と共に離れていった。


『まったく、ひやひやするわい』

「すまんな。だがこの戦いまでは耐えてくれよ」

『もちろんじゃ。我が同郷の者達の無念を晴らさずにいられるわけがなかろう』


 次から次へと移動する力。それには大きな弱点があった。力を移動させるとその分本来の持ち主の力がなくなる。つまりは一つの剣を有名な剣と同等の力を持たせられるが、その力を与えている側は一般人まで身体能力が下がる。

 この戦いはいかに翻弄し、狙いを定めさせずに攻撃を加えるかと言うことになる。


『ヤレヤレ面倒ダ。私ノ、コノグザヴァンノ本気ヲ見セテヤロウ』

「グザヴァンなんて剣聞いたことねぇのになんでこんなに強いんだよ!」


 井上がそのような弱音を吐く。

 それを聞いたグザヴァンはおもしろそうにクツクツと嗤う。


『当タリ前ダ。人間ニヨッテ私はデハナク堕天使サレテルカラナ。ソレダケ私ノ強大ナ力ヲ恐レ、天ノ使イタル天使トシ、神二与エラレタ力トスルコトデ私ガ強大ナ力ヲ持ツ理由ヅケデモシタカッタンダロウナ。実二滑稽ナコトダ』

「急に饒舌になりやがって……」

『ソレハソウダロウ。理解デキナイモノヲ、理解デキルモノニ落トシ込ム。コンナ愉快ナコトガアルカ? マァ、神剣タル私ガ魔剣並ミニ力ヲ落トシテシマッタノハ屈辱ダガナ……』


「へ、魔剣並みにまで力を落としてるだって? それなら『俺達ニモチャンスガアル……カ?』ーー俺たちにもチャンスがある!! ッ!?」


 言葉を予想され、背中に冷たいものが走る。

 今まで翼やダーインスレイヴの使い手と同じように考えてきた。しかし根本的に違うのだ。

 あくまでも二人は超人であり、人の域であった。しかしだ。グザヴァンは人をはるかに超越している。

 剣だから元から人ではないとかいうことではない。単純に能力、力、それらが人の理解を超えている。つまりは人知を超えていると言うことである。


 グザヴァンが何もない空中に勢いよく振り下ろされる。

 たったそれだけの行動。別に魔剣の能力ではなく、ただ単純に勢い任せに振り下ろしただけ。

 教会を切り裂き、大地を切り裂く。

 そしてその斬撃は先は町の方にまで続いていた。


「て、テメー!! 町には一般人がいるんだぞ! パンピーまで巻き込むつもりか!」

『ダカラ何ダ? ソレガ私二ドウ関係アル』


 全てを悟る。こいつにとって人間は石ころと変わらないと……たくさん落ちてて邪魔だがただそれだけの存在。

 その程度の存在にしか思われてないのはそれだけの力の差があるから。そして先ほどの件も含めてグザヴァンとの力の差が分かってしまう。


「もう無理だ……。こんな化物…………」


 井上が弱音をこぼす。

 仕方がないことであろう。不良と言えどもただの人間。人間を超えるような存在に対抗するための力などないのだから。


「井上。無理はすることはねぇ。逃げな。お前らもだ。こいつは俺がどうやってでも倒すからよ。できれば安全なところまで逃げたら俺に力を渡してくれねぇか?」


 不義は本気であった。

 ここで引けば確実に周りに被害が及ぶ。そして舎弟達にももだ。

 だからこそ倒す。倒さなければならない。


「兄貴を置いて逃げられるっかよ」

「兄を置いて逃げたら弟とは言えねぇ」

「そして兄貴を一人なんかにはさせられねぇよ」

「俺たちは生まれた時は違えども死すときは同じだ!」


 一度は弱音を吐いた井上も不義の思いを感じ、立ち上がる。

 勝てない、勝てるではない。もとより勝てる可能性の方が少なかったのだ。それがさらに低くなったどころでどうってことない。

 だからこそ勝つ。それ以外の道は残されてない。


「行くぜ! 野郎共!! 根性見せやがれ、こいつに一泡吹かせようぜ! 兄弟たち、それにこの魔剣たちの敵討ちと行こうぜ!!」

『哀レナ……』


 グザヴァンの使い手は思いっきり腰を捻る。

 先ほど縦に振り下ろしたように横に振るうつもりだろう。

 回避は不可能。そしてあの威力を受け止める性能は禍の剣には存在しない。


「固まれ! そして力を集中させろ!」


 だが、それがどうしたというのだ?

 性能なら引き上げればいい。そのための能力は尊敬するあの姉妹に貰っている。


『死ネ』


 横凪に振られるその一閃。

 そしてそれに対抗するのは5本の魔剣。力を禍の剣に集中させ、5人がその斬撃に対抗する。

 そして、あともう少しで相殺できるという所で無慈悲なる宣告が響く。


『コレデ終ワリダヨ』


 繰り出される二撃目。

 一撃目をしのぐことに全力を傾けている不義たちにそれを防ぐ術は今度こそ残されていなかった。


「チックしょう! 俺たちが死んだら兄弟たちはどうなる!」


 自分たちと志を同じにする兄弟たちがどのような行動をするかはっきりとわかってしまう。

 絶対に自分たちの敵討ちをしようと挑み、そして殺されていくだろう。


「翼の姉御や百合の姉御に何も返せてねえじゃねぇか!」


 やったことと言えば翼なら1秒もかからずに倒せる魔剣使いや道のゴミ掃除ぐらいだ。

 それで不義たちは命を、兄弟を救ってもらった恩を返せてるとは思えない。


「ウヲォォォォォ!!!!」


 二撃目が一撃目と重なる。

 二度の攻撃が重なり合い、さらなる威力を生み出す。

 百合の装置があってなお対抗することさえ許されていなかった。


「大丈夫ですよ。私が見込んだマスターなのです。赤の他人は兎も角あなた達を見捨てるような人じゃないですよ」


 そう言うのは不義たちも知る手のひらサイズで、金髪でティアラをつけている。そしてオレンジと白のワンピースを着て主張が強すぎるのではなく、乏しいわけでもないその胸を持つ剣の精霊はーー。


「ガラス。行くぞ」

「分かりました!」

「百合」

「はい、お姉さま」


 それだけの言葉でガラスと呼ばれたガヴェインが使ってたとされるガラティーンは剣に変化し、名前を呼ばれた不健康な白い肌で、ゴスロリのような服を着た少女は健康的な体をし、動きやすそうな黒のTシャツに短パンを履いた少女に小さな装置を投げる。


「オッ……ラァァァ!!」


 思いっきり剣を振り下ろす。

 その行動で5人がかりでも受け止めきれなかったその斬撃は一瞬にして消滅する。

 それをなした人物は一生を賭して使えると決めた翼、その者だった。


「相本、井上、上原、江坂……そして不義。テメー等の兄弟愛は嫌いじゃないぜ?」

「翼の姉御……どうして……? それに俺らの名前全員分かるんですか?」


 その姿に少し苦笑をし、顎で教会の外を示す。

 そこには危険だからと戦いに待機させていた舎弟達がいた。


「お前らが心配だから助けてくれって土下座してきたぜ? 弟分を助けようとして敵視してた相手に頭を下げてたどこかの誰かみたいにな」


 そう言う少女は美しく、かっこよく、そして頼もしかった。


「それにだ。大事な弟たちの名前を憶えないでどうするんだって話だよ。なぁ、加藤、木島、工藤、毛塚……それに小久保、沢渡に清水」


 一人一人名前を呼ばれていく。

 今まで大したことない思ってた行為でも翼達はちゃんと見ていてくれたのだ。

 そしてありがたく思っていてくれたのだ。

 不義たちの目からは自然と涙があふれてきた。


「さて、待たせて悪かったな。やろうか」

『コレハ大物ガデテキタナ……。私ノ悪意ヲ埋メ込ンデモ壊レナサソウダ』

「へぇ、できるならやってみな!」


 そうしてグザヴァンと翼。

 一人と一本の戦いの火ぶたが切って落とされた。

 それと同時に不義は今までの戦いの疲労からか、意識が薄れていく。


「無理もありません。5つ剣の力を一つの体で発揮していたんです。体の限界を超えた動きをしていたのですから……。今はゆっくりおやすみなさい。そして後でお姉さまをたたえる準備をなさい」


 百合のその声と共に不義たちは意識を手放した……。






 キィィィン!!


 そのような音と共に目を覚ます。

 不義が最初に見たものは辺り一帯が瓦礫の山と化した場所だった。


「不義、起きましたか? 本当はもっと早くに終わる予定だったんですがね……。さすがは歴史から葬り去られた神剣と言ったところでしょうか?」


 そう言って戦闘中の二人の様子を見ると翼は大きな傷はなくとも全身傷だらけで、明らかに翼が押されてるように見えた。

 そしてなぜ自分たちがこんな戦闘のど真ん中に居て無事かと言うと百合の作った装置に守られていた。

 しかし、その装置も何百もの斬撃を浴び、ぼろぼろであった。


「やれやれ、布都御魂さんの攻撃を受けても大丈夫なように設計したのですがまだまだ改良が必要なようですね」


 何とも百合はのんびりしていた。翼が勝つことを確信しているように……。


「何心配しているのですか? 私たちのお姉さまが負けるはずはありませんよ。それにほら、相手はもう限界ですし、日が昇ります」


 その言葉と同時に朝日が教会を照らす。

 その輝きを背にする翼とても神々しかった。


『朝は私の時間です』

「って、ことでオメーはジ・エンドだ」


 一瞬であった。

 まさに消えるとはこのことであり、魔剣使いとしての動体視力をもってしても残像すら見えないそのスピードはグザヴァンでさえ指一本動かすことはできなかった。


『マダ、マダ終ワランゾ!!』


 そう言って悪意を全開に、そして広範囲にばらまく。

 翼は剣の一振り、百合や不義たちは百合の装置によって守られる。

 しかしだ。悪意はそれだけでは済まない。

 騒ぎを聞きつけてやってきた魔剣使いに悪意を取り込ませ、支配する。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「切る斬るキルKillキル斬る切る」


 口に出すのは相手を殺すための呪詛。

 翼を殺すために黒く染まった瞳で100近くの魔剣、聖剣使いが集まる。


『私ハ神剣。神ノ名ヲ持ツ者ナノダ!! オ前ラナドニヤラレルカ!!』


 その言葉とともに、近くの屋根に飛び移る。

 が、足から血と共に踏み外した。


「馬鹿が……。そんな限界以上の力で操られてて体が持つわけないだろ」


 一振りで終わるような戦闘ならともかく、神剣たるグザヴァンの能力に担い手の体が持たなかったのだ。


『ダガ、セメテ後ロノ奴ラヲ守レナカッタ公開ト共二生キルガーー』


 台詞の途中でそのグザヴァンが真っ二つになり、その先にあった雲すら斬れた。


『いつもニコニコあなたの傍にはいよる神剣布都御魂です。それにしてもアタシ以外の神力を感じて来てみれば期待はずれだったな、チョモランマ!』

「なんでそこで俺に振るんだよ!」


 そこにはボロボロに見える刀を持った男がヤレヤレと言ったように立っていた。


「殺す殺す殺す殺す殺す」


 しかし、原因のグザヴァンがいなくなったが悪意に呑み込まれた者達は元には戻らなかった。


『あらら、あいつを倒せばもとに戻るかと思ったんだけどね……。どうやらそう都合よくいかないらしいね』

「富士山。あなたなら簡単に蹴散らせると思いますが?」

「げっ!? 幸田姉妹……」

『なんだ? なんだ? お前ら知り合いか? けど残念。アタシ達は力が大きすぎて無理だよ。町がどうなってもいいのなら話は別だがな』


 その言葉に百合は困ったように眉を寄せる。』


「仕方ない。ならもうちょっと頑張るかな」


 ボロボロの体と共に翼が立ち上がる。

 それでもその足取りはしっかりしていた。


「さて、誰から相手になる?」


 しかし、周りを囲っていた人々は弾き飛ばされるように次々と吹き飛んでいた。


「っち、なんか集まってるから来てみたが正気を失った雑魚ばかりかよ」


 そこにはダーインスレイヴの担い手月城佑真がいた。


「で、お前らは英雄殺しは知っているか?」


 その言葉を発した時にはすでに100を超える魔剣使いは佑真に倒され、いなくなっていた。


「知らねぇな。で、やるのか?」

『戦争をしましょう』


 即座に臨戦態勢に入る富士山と翼。


「止めておこう。さすがにお前ら二人相手にすると大変そうだ」


 そう言って佑真は去っていった。


「で、富士山どうする? 今なら見逃してやってもいいが?」


 明らかに不利なのは翼の方なのに少しもそれを表に出さない。

 それを見て昔のままだと苦笑しつつ止めておく、と言う。


『んちゃ!』


 布都御魂のその言葉と共にチョモランマーーもとい、富士山は去っていた。






「姐さん方おはようございます」

「私とお姉さまのためにお勤めご苦労様です」

「百合の姉御のその言葉だけで報われます」


 次の日。

 百合の発明品で体力は兎も角表面の傷は癒した翼達と、不義とその舎弟がいた。


「不義、昨日は眠れたか?」

「翼の姉御のおかげでゆっくりと寝ることができました!」

「そりゃあよかった」


 昨日の闘争など感じさせないいつも通りのにぎやかな日常。しかし、そこには守りたかったものがすべてある大切な時間であった。


「いたでマッスル。幸田姉妹は俺が打ち取るでマッスル」

「ここは姐さん方が出る幕じゃありません。ここはこの不義にお任せ下せえ」


 だから笑う。

 大事な弟分達と、大事に思える姐さんのと共にあるこの時間をーー。

これはコメディーじゃないって突込みは受け付けません

自覚してるよ! だけど元はコメディーで書くつもりだったんだ……

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