二幕~月下の闇~
月下ホテル別館・選手宿泊ホテル。
三回戦を控えた竜史は自室でメイサと試合用の服の話になっていた。すでに試合用の花火屋で着ていた赤服はボロボロで直しても使えそうになかった。メジャーを持つメイサはシャ! と引き伸ばし、
「もうその花火屋の服はやめた方がいいわ。つぎはぎだらけでもう戦闘には耐えられないでしょう」
「そうだな……新しい服を」
「脱いで」
「へ? うおおっ!」
強制的に竜史は服を脱がされ全裸にされて身体の寸法を測られる。
「……五センチね」
「おい、そこは測るなよ!」
股間を抑えた竜史はノートにフィジカルデータを書き込むメイサは、
(二ヶ月前と違い筋肉もだいぶついたし、怪我からの回復力も常人よりも上。やはり太陽の加護を受けた特別な人間なのね。特別な……)
そして全裸の竜史を放置し、武道大会用の戦闘服だけではなく下着から靴下までを自作で作り上げた。その間、メイサの集中を乱す事を恐れた竜史は全裸のまま五時間ほど立ち尽くした。その夕刻――。
「ああああっ!」
月下山脈の森の一角で赤いつなぎを着る竜史はメイサに斬りかかっている。まるで子供を相手にするようにメイサは片手で自分に迫る太刀をいなしていく。二人は迫る三回戦に向け修業を重ねていた。腹に蹴りを受けた竜史は地面に倒れるが、右手の刀はメイサの足元を襲う。
「うおおおおおおおっ!」
「いいわね……体罰必然っ!」
口元を笑わせサーベルを振るった
ズバッ! とメイサは、炎の一閃を受ける。
互いのエネルギーが弾け合い竜史は吹っ飛ぶ。
「……」
立ち上がる竜史を見るメイサは右手の痺れに不快感を感じた。
「今のは決まったと思ったんだけどな。あえてダメージを受けて、そのカウンターを狙うってのは上手くいったけど決め手にはならなかったな」
「作戦は良かったけど、サンライトを出し剣に纏わせる技術が遅いのよ。パワーは貴方の勝ちみたいね」
メイサのサーベルは真ん中から折れていた。宙を旋回していた折れたサーベルが地面に刺さる。
「虚無やヒカルはそんなもんじゃ勝てないわ。この大会も半分を迎えてる。勝ち進めば嫌でも戦わなくてはならない。時間はないわよ」
「わかってるさ。一つ聞きたいんだが、お前は月下グループの人間として、この世界の光税をどう思ってる? 俺はこの学園の生徒の今迄の経緯を聞いて、光税は無くそうと思う」
「優勝した時の願い……ね。でも、そんなの月下グループが許すと思う? 今迄、光は魔を呼び寄せると嘘の噂を流しキメラを使って民衆を脅して必要の無い税を蝕んでいた月下グループを……!」
始めて見せたメイサの激情に竜史は身震いし、メイサが話す光税の真相を恐れた。
世界は百年前の宇宙戦争以後、旧世紀の90年代後半のような文化水準までインターネットや通信設備はまだ復旧していない。太陽が消失した磁場の変化が地球をおかしくしているのであった。
日本は太陽の消失から世界から孤立し、磁場が狂い海の荒れも激しい為に鎖国と同じ状態になった。その日本を立て直そうとした月下グループは私財を投げ打ち、その国に対する気持ちが人々を動かし時の政府を超える信用を得て日本は月下グループが支配する世界になった。しかし、月下グループの開祖・月下 月史朗は太陽が消えた世界をどうするかをいち早く考え、以前より進めていた虚無隼人の祖父にあたる虚無悠斗のキメラ計画を利用し、街に光を使うと魔獣が現れるという噂を流し光税を生み出した――。
未だ怒りが静まらないメイサをなだめるように竜史は言う。
「……メイサの家族も月下グループで働いてるのか?」
「昔働いてたけど、もう死んでいないわ。実験中の事故で死んだのよ」
「そうか。それは……」
「雑談は終わりよ。貴方は特別な力がある。だけど貴方より強い人間はこの世界には腐るほどいる。それを忘れないで」
「わかってるさ。俺は特別だが、特別じゃない」
「余計な事考えてると、死ぬわよ?」
「――!」
死を誘う突きが竜史を襲う。
呆気に取られる竜史は攻撃をくらい背後に吹き飛ぶ。
それを一瞥するメイサは言う。
「一応、仲間だから死なない程度にね」
そして、今の攻撃を受けた竜史の反応に驚く。
(今のは殺すつもりでやったのに……私の殺気に耐えた? 何なの……この感覚は? 死んだ子宮が疼くような不快感は……)
立ち上がる竜史のかすかな笑みが、メイサの五感を刺激した。
戦闘中に笑みなど有り得ない――と怒るメイサは、
「もう……殺す――」
「ぐはあっ!」
バシッ! と足元にからアッパーをくらう竜史は宙に舞い、滝の下に落下した。その地獄へのダイブを見送るメイサは、
「光税を無くすには、貴方が太陽を生み出すしかないのよ。そして光税の犠牲になった父上の仇は私がとる」
そう言いその場を後にする。
※
滝つぼに浮かぶ赤いつなぎ姿の少年は目を覚ました。
「痛て……着水の瞬間に滝壺にサンライトスラッシュを叩きこんだ衝撃で身体を浮かしてなんとかなったな」
水の岩盤に叩きつけられる瞬間に頭が働いた竜史は生き残った。
滝から落ちて流されると、下流で女の叫び声がする。
「!? 何だ!」
一目散に竜史は駆ける。すると、
蘭子が血塗れでノラドッグに襲われていた。疾風のように駆ける竜史はサンライトを全快にしてノラドッグを倒す。燃え尽きるノラドッグの群れを見て思う。
(朧で洗脳したノラドッグか。ヒカル……)
そして、介抱した蘭子に状況を聞いた。すると学園の宿舎の自室にいた所をいきなり襲撃されたという。蘭子がノラドッグに襲われ、竜史はこの月下山脈にうろつくノラドッグを調教する考えになった。ノラドッグを朧で洗脳し操っている響姫に対して怒りが増す。
「ノラドッグは一度しめる必要があるな。それと、もう光税の元凶になる光は魔を呼び寄せるという風説の元を断つ」
翌日になり竜史と蘭子は滝壺の近くまで来ていた。二人は足音を立てずに周囲を見据え歩く。薙刀を持ち手の半分で折り、背中で交差させるようにして持ち歩く蘭子はガサッと音がした方向にいたのがただの猫という事に安心し、先を歩く竜史に言う。
「ねぇ、今日はメイサいないの?」
「メイサはどっか行ってる。あいつは月下の人間だから俺の情報の報告とかあるんだろ。この時間を自由に使えるのはチャンスだ」
「常に身の回りの世話をするメイドだって言ってだけど、そうでもないのね」
「仕事だからしかないさ。あいつはイビキがうるさいのと寝起きが最悪なの以外は最高の仕事をしてくれている」
「えっ! まさか一緒に寝てるの!」
「あ、あぁ。お前に一度襲われて以降ずっと一緒のベッドで寝てる。イビキのおかげで五時間以上寝れたためしがない。あいつは……」
(いやあぁぁぁ!)
妄想を爆発させる蘭子は毎夜、毎夜の竜史とメイサの寝室の姿を思い浮かべる。どう考えても年頃の男女が同じベッドで寝ていて何も起きないはずがない。
(……あの女ーーーっ!)
自分のせいでそうなった事などは忘れメイサを心のなかで張り倒す。
そのまま森の奥を進んで行くと、獣の呻き声がする。その呻き声と同時にブリブリブリ……と獣が糞をしているような音がした。立ち止まる二人の鼻に異臭がし顔をしかめる。まさかノラドッグではなく本物の魔獣に遭遇したと直感し、冷や汗が流れ心拍数が急上昇する。顔を合わせる二人は小声で話す。
「……向こうは魔獣だ。おそらくもうこっちに気が付いてるだろ。先制をかけて一気にしとめるぞ」
「行くしかないか。光税排除の為ね。やってやるわよ」
指を鳴らす蘭子は戦闘態勢に入り――二人は茂みにいる魔獣に仕掛けた。
『――!?』
すると、野糞をしている小学生くらいの幼女が二人の目に入る。唖然とする竜史と蘭子は見覚えがあるこの存在に苛立ちを覚えた。その幼女は月下武道大会の審判、真パン子だった。二人はこのパン子の日課を聞いて納得したが、一人で森でジョギングは危ないから辞めたほうがいいと注意する。するとパン子は審判としてのプライドをのぞかせ、
「私は月下学園小等部のエース。月下グループに期待されてるから審判に選ばれた。この学園の外で暮らす家族の為にも頑張らないといけないの☆」
(責任感のあるおだてやすいちょっと頭の弱い奴を審判にすれば大体の事は公平に見てジャッジをする。実際に審判が判断を下す事はほとんどなく、実際には月下の意見で試合は動いているだけ。これなら観客には全うな審判だと思うな。月下響姫だけじゃなく、父親の月下光史朗も倒さないとならない)
そう思う竜史はパン子のした野糞の匂いを嗅いで言う。
「お前、野菜も食えよ。この匂いからは肉の匂いしかしない」
「竜坊、あんた匂いフェチ?」
「ん? そうだが?」
周囲にパン子のとは違う糞を見つけた蘭子はウンコを踏む。
「ひえっ! あれ?」
すると、ズルッとすべり落とし穴に落ちた。落ちた穴に手を伸ばす竜史だが間に合わない。落とし穴に叫び声が響く。
「蘭子ーーーっ!」
仕方なく竜史は助ける為に穴に落ちようとするが、パン子はまた野糞をしようとしている。パンツを下げたままのパン子を引きずり込み奈落の底のような穴に落ちた。




