二回戦終了
「あの審判、全く役に立たないな。何で小学生に審判なんてやらせるんだ? ええぃ!」
竜史は身体にからまる特殊な糸をもがいて逃れようとするがほどけず、真希の攻撃に防戦一方になる。
「おい、審判! 観客が糸を使ってやがるぞ!」
「糸? どこに糸があるのよ~」
瞬間、観客席にいる兵隊は糸を切り引き寄せる。証拠が無くなった竜史は審判に説明が出来ない。さっきまでの糸は戦いの風圧で場外に飛んでしまっている。
「だからさっきお前の股間に食い込んでただろーが!」
「レイディの股間を見るなんで卑劣、ハレンチ! 失格にするですよ!」
「このドチビ、ナース服ひっぺがえすぞ!」
キレた竜史は審判と言い合いになる。それを見て笑う真希は手を上げもういいわと部下に指示をし懐中時計を取り出す。
「この会場は私が設計し、私の会社の白蓮建設が作り上げた。色々あっても私のせいにしないでね?」
『――!?』
喧嘩をする二人は驚いて真希の話を聞き入る。
真希の白蓮建設は月下グループの建築関係の下請けを請け負っており、この武道大会の会場を手がけたのも白蓮建設である。その為、この会場には真希しか知らない隠れた機能が多数あった。真希が基本の設計をしたからである。場外にいるメイサは思う。
(あの女、余計な事をしてくれたわね。でも苦戦は必要。せめて次の試合までにはサンライトを使いこなす必要がある……?)
その瞳は観客席でカルピスを売る少女の声に反応し見つめた。
「やってくれるな……客寄せパンダにはそう簡単に勝てる試合は無いって事かよ」
この会場そのものが信用ならない状況は竜史の身体に異変をもたらす。それは胃痛や腹痛といった類のものでは無かった。肺の奥から異様な寒気がこみ上げ、咳をする。そのおさえた手には赤い鮮血がついていた。ふと、真希にキスをされた瞬間の事を思い出す。
(血? ……まさか毒を仕込まれた? さっきのキスの時に……)
キスをした時に仕込んだ毒が回りだす竜史は口から血を吐き床に崩れる。
あざけ笑うようにその姿を見下す真希は蛇のような細い目玉を更に細くし、
「この大会は貴方が死ななければならない大会。邪魔な太陽が消え、月下グループは光税によって大量の税収を得て治安を安定させる。それがヒカルさんのよりよい未来になる」
「光税なんてくだらねぇ。だいたい、何で光を使っちゃいけない? 明かりがなきゃ人間は生活が出来ない。訓練したノラドッグを使って光は魔を呼び寄せるなんて流説を流したお前達は許さん」
「光は魔を呼び寄せるわよ。貴方はまだ会った事が無いようねぇ……光が呼び寄せる魔物に」
激烈な剣の応酬が繰り広げられる。剣速も力も竜史が上回るが、肝心な所で観客席からの糸が身体の自由を奪い決定的な一撃を与えられない。バッ! と後退した竜史は、
「こうなったらサンライトを展開させて一気に勝負を決めるしかない。奴はまだ罠を仕掛けてるだろうが、出し惜しみしてるとこっちが持たない――」
「いい顔ね。惜しみなくサンライトを使う気になった。盛り上がるわよ」
「やってやるぜ! くらえ! サンライト――おおおっーーー?」
瞬間、身体を拘束する糸は炎が侵食される前に切れた。発動するサンライトスラッシュは完璧に叩き込まれる。
(何だ? どういう……あいつ!)
そこには一回戦の対戦相手である八草蘭子が観客席でカルピス売りのバイトをしていた。
「あー、私ただのカルピス売りだから。気にしてよね! 売り上げを!」
「あ……あぁ。頑張ってくれ」
敵意はあるが殺気は無い蘭子に対して竜史は安心を覚えた。だが、目の前の魔女には一切の安心は許されない。全快で戦う竜史の耳にまた観客の罵声が耳に聞こえだす。試合に慣れた余裕がそうさせるのだろうと攻め立てるが、それはやがて思考の全てに侵食し今までにこの会場の女生徒達が受けた苦痛の映像が流れ出す――。
(うううっ……これは!)
それは全ての人間が太陽を拒む姿だった。光は魔を呼び寄せ人間は魔に喰われる。それは実際にある話で学園の生徒が消える事はたびたびあった事である。月下グループに束縛されねば生きる術が無い生徒達は一致団結してサンライトの炎を恨む。その見えない恨みの炎は竜史の心も身体も焼いて行く。
(サンライトが出やしねぇ……この会場の全てが俺を恨んでいるのがよくわかる……力が出ねぇ――くそおおおおっ!)
一切の炎が出せず、動きが鈍くなり毒の影響をもろに受ける竜史は髪が黒く戻りサンライトが解除される。空を見上げる真希は太陽が出現しない月が浮かぶ空にガッカリとため息をつく。
「カウントを取る……必要もないかも」
倒れたまま動かない為に死んだと思われ、審判に鼻をつままれる。何度か蹴りを入れられ屁もかまされるが竜史は目覚めない。観客達はそのまま死ね! と言わんばかりに罵声を浴びせ物を投げる。ゲスト達もまた太陽が見れないのかと思い、ゲストルームも武舞台に倒れる竜史に対して文句が出始める。カルピス売りの蘭子は、
(竜史……立ち上がりなさいよ。勝ちなさいよ……あんたのサンライトはそんなやわな光なの? そんな……そんな弱い人間じゃないでしょーが!)
それを見た蘭子は意識を取り戻し立ち上がる弱々しい少年を見た。グシャ! と客に渡そうとしていたカップを握りつぶし叫んだ。
「――何へこたれてんのよ太陽竜史!」
「!? ら……蘭子。試合中だ。黙ってろ」
「そんな中途半端な卑怯な手にも勝てないようじゃ私が戦った方がマシだわ。交代しなさい!」
「このサンライトは全ての人間に恨まれているんだ! どうやって底力が出る!?」
「アタシは助けられたわよ! 貴方の暖かいサンライトでね!」
「!」
その言葉で竜史の細胞が活性化され、暗く閉ざされていた視界がクリアになる。新しい仲間を得た竜史は自分の暖かい力を信じた。このサンライトを信じられなければ、殺された親父を信じていないという事であった。フッと笑うメイサは頬にかかるツインテールを背中にやる。早く来なさいと言わんばかりに真希はか細い指をクイックイッと動かす。
「やれるだけやってやる! 蘭子の次はお前も俺の仲間に加えてやる!」
「へ? ひい~!」
完全に吹っ切れる竜史は会場の大ブーイングを余裕でかまし、審判であるパン子の尻をどうしようもないほど揉む。ドン引きする蘭子とは対照的にメイサの表情は変わらない。
「この大会の優勝の暁にはこの会場全員の生尻揉みほぐしてやるから覚悟しとけ!」
ヘヘヘ! と観客達をビビらせながら竜史はパン子のプルンッとした柔らかいプリンのような尻を揉んだ。天を見上げる真希は満月の横に一瞬だけ現れたものを見た。
「空がオレンジ色に光った……微かに太陽が生まれたわね。でもまだまだよ」
「お楽しみが見える前にお前は倒すぜ」
バシッ! とパン子の尻を叩いた竜史は堂々と言い放つ。
髪がオレンジ色になり逆立ち、カッ! とお互いの獲物が弾け戦いは再開される。
数度の激突の後、サンライトスラッシュを武舞台に叩き込む。
ひい~! といった顔で宙に舞うパン子は細かい石が飛び散る武舞台上にいない真希を見た。その真希は高くジャンプをして攻撃を回避していた――が、
「決まりだーーーっ!」
それを追尾するように真下から仕掛ける竜史は日本晴を振りかぶり叫ぶ。一撃目がこのフィニッシュの為の布石と思わず、絶体絶命の真希は大きく口を開き立ち止る――。
ズボボボボボンッ! という爆発が起き、サンライトスラッシュはタイミングをずらされる。背中に受ける爆風に体勢を崩し、凄まじいオレンジの閃光は武舞台の爆発と共に外れる。砂煙が上がる武舞台はどうなっているのかが見とうせない。顔を歪めオーラが切れて髪が黒く戻り、周囲の砂煙を払う竜史は、
(爆発? まさか地面に爆弾を仕込んでいたか? それしか考えられない……)
やがて砂煙が晴れ、真希の手に持つ懐中時計型の発信機を見てそう思う。
劣勢の竜史に場外のメイサは言う。
「サンライトが出なくても貴方にあるものは何? この二ヶ月間何をしていたのかしら?」
そのメイサの声で竜史の顔色が変わる。観客席でカルピスを売る蘭子はあの女! と言わんばかりに怒りを露にする。そんな女の戦いに気づかない竜史は勝利を確信する。
(そうか! サンライトはなくても体力はある。決める一撃にサンライトを出す感覚をつかんでおけばいいんだ。ついでにこの会場の連中も利用してやる)
そして顔を上げ――。
「あ! 太陽だ!」
空を指差して竜史は叫んだ。会場の全員は空を見上げ、VIPルームの光史朗は空を見上げずに武舞台を見る。そこでは真希がスカートをめくり上げられ手を突っ込まれていた。
「――ちょ!」
スパッ! とパンツを奪い、観客席に投げていた。
(後は審判がどうでるかだ。今回は楽に勝たしてもらうぜ)
急いで蘭子が場外に向かい、パンツだと思い回収した布はただのハンカチだった。スカートの中がスースーする理由は、竜史が紐パンのサイドの紐を解いているからであった。真希は怒りのあまり真の力を引き出す。獣のような殺気とオーラが会場を包む。何かを叫んでいるパン子を無視し、目の前の少年を殺す事にした。
「調査は辞めよ。殺したらゴメン」
シュン! と背中から鞭を取り出し、顎を蹴り上げ宙に飛ばし鞭を操り空中で締め上げる。真希が本当に得意なのは鞭であった。グググッ……と締め上げられる首は悲鳴を上げ、このまま窒息死させるよりも首をへし折ろうという意思が悪魔のような表情からありありと伺えた。抵抗もできないままガクリとうなだれ――。
「――場外カウントテンカウント達成の為、太陽竜史選手の勝利でし☆」
『――!?』
そのパン子の宣誓が会場を騒然とさせる。唖然とする真希は鞭を持つ手の力を緩める。同時にドサッ! と竜史が武舞台に落下する。二人のいる場所は武舞台と場外。この大会のルールに合わせれば場外に出たものはテンカウントで敗北――。
「……やってくれるわね太陽竜史」
大きく息を吐き真希は審判と話す少年を見た。その少年は笑みを浮かべていた。
「審判、さっきは悪口言って悪かったな」
「審判は何事にも公平なのです。えっへん!」
ナース服の上のつるぺたの胸を張り出し言う。
そして、今の審判のジャッジに不服を言う観客達はまたもや怒声を上げ物を投げ始める。ゲスト席にいる社長連中も観客席に下りてきて罵声を浴びせる。それを見た竜史はパン子に大丈夫だと頭をなでてやり叫んだ。
「うるせーぞ外野! それにゲストっ! テメーが賭けた金がすったのはテメー等のせいだろ! んなに文句あんならいますぐ全員、尻もみまくるぞコノヤロー! 尻洗って待ってやがれ!」
『……』
会場全体は静まり返る。おしらく本当にこの少年は尻を揉もうという実行力があるからである。それは審判を勤めるパン子によって証明されている。大勢の観衆の目の前で幼女の尻を揉むなんて神経がイカれてて関わりあいたくない。
そして、場外で待つメイサとすれ違い様ハイタッチをした。
「痛ってーーーーーっ!」
その一撃は真希の一撃より重く、竜史はその後一時間ほど氷水のバケツで右手を冷やした。まだ慣れないサンライトスラッシュの余波で右腕全体が焼けるように熱くなってる事に気がつき竜史はメイサに感謝する。二回戦の勝利で、竜史は三人の仲間を得た。しかしパン子だけは納得がいかず最後まで抵抗していたが、尻を揉まれたくないために仲間になる事を許した。久しぶりに心の底から微笑んだ竜史はホテルにつくなり熟睡した。
その夕刻――。
月下グループ本社ビル社長室では今日の試合の主役の一人である白蓮真希が月下グループの社長に絡んでいる。同じソファーに座る二人は身を寄せ合い話す。
「……じゃあキメラは虚無一族が生み出したんですね? あの謎の仮面騎士に始末されたカッパライダーもキメラ細胞が施されたいいとこどりの能力を持つ究極生命体」
「そうだ。キメラは光税を生み出す究極生命体」
優しくねっとりと柔らかなき金髪をなで光史朗はキメラについて話し出す。一回戦で無残にも謎の仮面騎士に敗れ去った虚無隼人の人間キメラの最高傑作であるカッパライダーは他のキメラを食うなど、様々な動物を食べる事で力を増し長所を自分の力に還元できる。本当ならば優勝候補になる存在が一回戦で敗北した事で光史朗も謎の仮面騎士を調べ始めていた。
(キメラ細胞を体内に打ち、荒れ狂う細胞と適合し押さえつければ食事でカッパライダーのような存在になれる……他者の良い所を自分の力に出来る……)
その微笑は光史朗に向けられ、唇は重ねあわされる。
「社長、ヒカルさんの事はよろしくお願いしますね。あの女は私のものなんだから」
「どこがいいんだかわからんが、毛髪も着ていた服も下着も明日には届けさせる。同性愛というのは私にはわからん。それより、戦ってみてどうなんだ?」
「茶番は終わりですわ。サンライトもだいぶ強くなってきましたわね。そろそろ虚無か仮面あたりをぶつけてもいいんじゃないかしら」
「その件はヒカルに任せる。サンライトの光は凄いものだ。月と違って否応無く人間の心の闇までを照らし出すようだ」
「そうですわね。太陽は月の輝きとは違う。私はヒカルさんの淡い月が好きですけど、あの太陽が当たり前にあっては光税も無くなり、人間が光を恐れるという流説も無駄になり月下グループの根底を揺るがす事件になる。新しいビジネスの始まりですわね」
「そうだ。あの太陽の輝きは新しいビジネスになる。太陽竜史は人柱として命有る限り月下グループに尽くしてもらう」
そう、月下光史朗は言い太陽竜史に関する資料の紙に煙草を押し付け、燃やした。




