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サンライト  作者: 鬼京雅
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月下ヒカルの一回戦

 月下武道大会一回戦二日目。

 昨日の激闘もつかの間。メイサに敵情視察をしてこいと言われ身体が痛い中、竜史は渋々会場に向かう。今日は本大会の主催者である月下ヒカルの一回戦があるのである。

「しんどい。まだ身体が完璧じゃねーのにメイサの野郎……。しかもあいつは猫が逃げたとかで試合観戦には来ないし。やってらんねーぜ」

「キョオオオオーーーム!」

「!?」

 会場内に入ろうと選手専用ゲートをくぐろうとすると、長い白髪の煌びやかな衣装に身を包む美男子が周囲の人間をドン引きさせながら貴公子のように歩いて来る。その男が纏う途方も無いオーラに竜史は身をすくめる。

(こ、こいつ……何だこのオーラは? 試合後なのか? 戦闘中でもないのにこの圧倒的な威圧感……)

 その男の周囲の人間達はただ外見の雰囲気に引いているだけで、隠しきれない闘争の威圧感によるものではない。この竜史だけが感じた感覚は確実に竜史が成長しているという証拠である。息を呑み、その男の接近を見据える。

「貴方がサンライトの太陽竜史ね? 二ヶ月前に北海道にいた時に見た太陽に惚れてここまで来たわよ……結構カワイイ男の子じゃない……フフフ」

「こ、こいつオネエ?」

 この虚無隼人きょうむはやとは日本でも有数の強者で、戦った後には死体も場所も何も残る事は無いヒューマンブラックホールとも言われるオネエだった。見た目の神々しさと能力の高さもあいまって恐ろしい存在である。間違い無く、今大会でも優勝候補の一角であった。竜史は虚無に色々と雑談をされるが、食事の誘いの後に何をされるかわからない為に怖くなり、メイサがいない事を嘆く。

「とりあえず食事の件は後にして、この大会の優勝候補はお前とヒカルでいいのか? まだ俺はこの大会の参加者についてよくわかってない。教えてくれ」

「んー、そうね。まだいるけど……丁度カッパライダーの試合前ね。行きましょうか」

 ふと、試合予定のモニターを見上げた虚無はカッパライダーVS仮面騎士の文字を確認し、竜史の腕を自分の腕に絡ませ歩いて行く。マジかよ! と思いつつも逆らって殺されるのも勘弁の為、黙って会場に向かう。すると、虚無の顔が歪み溢れ出す殺気に竜史は死を覚悟する。

「何なのかしら? あの仮面騎士は?」

 武舞台では優勝候補の一人であるカッパライダーが般若の面で素顔を隠す仮面騎士に圧倒されていた。ピッチりと揃った前髪に素肌にライダースジャケットの大柄のカッパライダーは、くわえる楊枝を吐き出し仮面騎士の眉間を刺す。

「くぁ~! 死んだな!」

「さっきから同じ台詞がくどい奴だ」

「!?」

 どうやら放った楊枝は仮面の眉間に刺さっただけで、生身には届いてなかったらしい。サーベルを一閃させた仮面騎士は一刀両断されるカッパライダーを見向きもせず武舞台から去ろうとする。

「……へ?」

 一瞬の出来事に呆然とし、返り血にまみれる審判は貝殻の水着なんか着てこなきゃ良かったと思いつつ、去りゆく仮面騎士の勝利の宣言をした。観客席入口で立ち尽くす竜史は仮面騎士の鮮やかな一撃に鳥肌が立つ。息を吐く虚無は武舞台の死体を片付ける大会スタッフを見ながら言う。

「これで、優勝候補のカッパライダーが消えてあの仮面騎士もその一人になった」

「あの仮面騎士はどっちのブロックだ? 次はまだ当たりたくないな」

「あいつはBブロック。当たるとしても決勝まで当たらないわよ」

「あいつはBブロックか。お前はどっちのブロックなんだ?」

「私はAブロック。竜史が勝ち上がればいつかは当たるわ。私をイカせるぐらい強くなっておきなさい。もう一度あの美しく、気高い太陽を見る為ならどんな手段を使ってでも貴方を叩きのめすから」

 そう言い、虚無は竜史の肩を叩き去って行く。勝ち上がるには、生き残るには悪魔のような力を持つ猛者を倒していかなければならない。

「……やってやるさ!」

 震える全身を抑えつけ、カラカラの喉から吐き出すように叫んだ。振り向かず手を上げる虚無は人混みに消えた。

「何だ、虚無に気に入られたのか? ケツを掘られないように注意しろよ。あいつは男の穴という穴を陵辱するチェリーキラーだからな」

「!? ヒカル!」

 突然、待ち合わせをしたかのような自然さでヒカルが現れた。

「明日パーティーがある。大会の開幕を記念してのゲストに対してのパーティーだ。本来は試合参加者はダメだが、お前はゲストにとっても特別な存在。待ってるわよ竜史」

 言うとパーティーの招待状を渡し去って行った。そして竜史は武道大会会場を後にし、選手宿舎のホテルに戻る。その帰路で見慣れたメイド服が走ってくるのを見た。瞬時に来た道を全力で戻り出す。が、簡単に捕まる。

「どうしたの?」

 少し息が上がるメイサが話しかけて来る。やや、自慢のツインテールは乱れ頬は赤く染まっていた。

「逃げないでよ」

「この二ヶ月の反動だ。しょうがないだろ。どんな目にあったと思ってる」

「そうね。仕方ないわ。貴方が弱いから」

「猫は見つかったのか?」

「まぁね。それよりヒカルから何を渡されたの?」

「ただのラブレターさ」

 参加の拒否権は無いパーティー会場へのラブレターをもらった竜史は、日本の企業のトップがマネーゲームをするあまりにも危険な晩餐会に招かれた事に月下グループの壮大な駒の中の一つでしかない自分を感じた。





 一回戦も最終試合になりついに月下ヒカルの試合当日になった。誰もがヒカルに金をかけるギャンブルにならない試合だったが、ヒカルは何故か苦戦していた。手加減をしているのか剣は扱わず素手で交戦して接近戦を主に仕掛ける。相手の侍のような姿のさすらいの旅人である羽賀衛門は少々固い動きでヒカルを圧して行く。

「相手はそれなりに強いだろう。でも、動きが二人共おかしくないか?」

「そうね。あれはどっちかの能力でしょうね。何がおかしいかをしっかり見てなさい」

 ズババッ! と羽賀衛門の二刀流が炸裂しヒカルは刀で受けきれず吹き飛ぶ。大勢を崩しながらも相手の連続突きに目を閉じようとも、せず刃で受けつつ顔色を伺うように見据え、羽賀衛門の足を払う。バッ! と飛んだ羽賀衛門は――。

「乱れ爆炎斬っ!」

 ダイナマイトが爆発するような威力の乱れ突きを二刀流でかまし、武舞台の中央に穴が空き砂煙が上がる。

「決まった……いや、すでに剣を交えてる」

「よく見えてるわね。それを試合にも生かしなさい」

 淡々と戦況をつぶやく竜史は砂煙の奥で行われる激しい剣劇を見据えた。

「よくぞ回避したな小娘っ! 次はルナティックの技を見せてみよ!」

「もう、やってるわよ。人間相手の修業はこの辺でいいわね」

「?」

 剣を交えながらもヒカルは相手の顔を見続けている。違和感に気がついた竜史にメイサは微笑んだ。

「そろそろ完璧にくるわよ。見てなさい」

「朧――」

 というつぶやきと共に白夜を鞘に納めたヒカルは丸腰で羽賀衛門に近づく。完全に隙だらけのヒカルに刀を高々と掲げ一刀両断の構えを取る。瞬間、瞳が揺れた羽賀衛門は切腹をした。

『……』

 会場は騒然とし、審判も絶句する。

「あれが朧。ノラドッグなどを操る悪魔の眼力」

 その朧とは両目を合わせる事で相手の思考を乗っ取り自分の意識を刷り込ませる眼力だった。この戦いの最中、相手の思考に自分の意識を刷り込ませ戦わせていた。それを知って竜史は今までの戦いの最中苦戦の理由が分かった。

「とんでもない力だな。あれをくらったら終わりじゃねーか」

「そうね。死にたくなければ回避するしかないんじゃない?」

「へっ、人ごとだと思って――!?」

 そして、上空から会場を見下す満月が嗤った。

 シュパアアッ! とヒカルのルナティックが発動し血まみれで床に伏せる羽賀衛門の身体が消失していく。何が起こっているのかわかる数人のみはヒカルの力に畏怖を感じ、会場を後にする。それを見ている竜史は勝者の宣言をされる金髪の少女に瞠目し、メイサの言葉が思考を侵食する。

 そして、一回戦の試合の全てが終わった。




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