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サンライト  作者: 鬼京雅
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悲しみの行方

 風呂に入り試合で受けた怪我の手当てをした竜史は火照る身体に不快感を感じながら夕食を食べようとしていた。夕食は選手宿舎のホテルのものであり、ルームサービスで運ばれてきた和食中心のメニューを食べようとする。この二ヶ月はずっとメイサの手作りだった為、その平凡なメニューにガッカリしながらも手を合わせ、

「いただきます」

 食事をしながらも意識は今日の試合に向かう。試合会場では様々な罵声を浴びせら、自分は賭けの対象になり空き缶なども飛んでくる。月下学園の生徒達の会場設営労働と光税に対する怒りと自分に対する怒りを否応なく知った。学園の生徒やゲストで来ていた人々は曖昧だった怒りの対象が現実に現れた事により怒りをぶつけやすくなった。騒然とする会場を思い出し、自分にとってこの世界には敵しかいないと実感する。

(……?)

 味噌汁を飲もうとすると、何か匂いがおかしい事に気がついた。同時にメイサが室内に入って来た。

「どうしたの? そんなにおいしい?」

「いや、これは匂いが普通の味噌汁と違う」

 茶碗を奪うメイサは指に味噌汁をつけて舐めた。

「……毒ね。これは捨てるわ。後は大丈夫かしら?」

 すぐさまメイサは他の食事もチェックするが他の食事には毒は入っていなかった。偶然にも竜史の嗅覚が毒を見分けたのである。やれやれといった顔のメイサは食材を調達し自分で夕食を作り始めた。出されたメニューはいつも通りの目玉焼きである。それは左右対称のおっぱいのようにふたつ。そしてケチャップやマヨネーズはうんこのとぐろのような感じになり、皿の周囲を覆うようにミニハンバーグが並んでいる。それを見た竜史は部屋の中を盗聴器やカメラがないかチェックするメイサに聞こえないように言う。

「またこのメニューか。いつも思うがあいつは俺を笑わせようとしてんのか? 毒を盛られた後で笑えるか……てか、誰だ毒なんて盛った奴は? 賭けで負けた腹いせとかか?」

「男はおっぱいが好きなものでしょ? 文句いわず食べなさい。明日の朝はいつも通りサラダと牛乳もつけるから」

(……俺の好きなのは尻だ。女の尻は至高の宝石だって親父から教えられてんだよ)

 がむしゃらに食べる竜史は初戦の話をされ、鬼ごっこでまともに使えなかった必殺技であるサンライトスラッシュについて言及され次戦では打つなと言われる。プチッと箸でミニトマトを刺し、

「守らなきゃ腕を折るか?」

「いや、それはないわ。修行依頼はもう終わったから。私が言いたいのは扱えないものを実戦で使うなという事。能力に頼り過ぎると自分を見失うわ」

「……」

 そして、長い一日から逃亡するように就寝の時間が来た。

「疲れた……今日はぐっすり眠れそうだ。外はメイサがいるし安心して眠れる」

 そして、竜史は身体の火照りなど気にならず睡眠に入る。すると、カチャとドアの鍵が開けられる音がした。

(……ん?)

 まどろみの中目を覚ますと、薄暗い部屋の中にメイド服を着た女が立っていた。その女は躊躇いもなくメイド服を脱ぎ出す。

(! ちょ、ちょちょちょ! マジか! マジなのか!? そこまでがヒカルに依頼された仕事なのか? こんな初体験って有り?)

 股間の興奮により完全に目が覚めた竜史はベッドの中で起きているのがバレないように息を潜める。確実に服を脱いでいく衣擦れの音がし、ブラジャーのホックを外すパチリという音がした。完全に全身が固まりつく竜史はスゥーと下ろされるパンティの音と同時に自分のパンツを無意識に下ろしていた。そして、ベッドに人間二人分の体重がのしかかり竜史の背中に柔らかい肌がまとわりつく。

(ちょちょちょ! これは大変だ! けど、どうすればいい? これはメイサに身を任せるが吉かな?)

 そう思いながらも竜史の手はお尻に向けて伸びた。少しザラついた手触りがあり、メイサがパンティをはいているのがわかった。容赦無くその中に手を入れお尻をまさぐる。

(これが親父の言っていた女の尻か……絹のように艶やかで桃のようにプリッと弾け、男を魅力し誘惑する神秘の果物――)

 竜史は亡き親父の陽史朗にそう教わったのを思い出し、感激していた。自分がおっぱい星人で女に失敗した過去があった為、自分の息子には女は尻だ! と言い続けていた結果が身を結び、竜史はおっぱいには興味を示さず尻を触る。すると、吐息を漏らすメイサは体位を変える為か大きく動いた。吹き飛ばされるシーツは宙を舞い床に落ちる。

「騙されたわね、太陽竜史。ここで死ね」

「――お前! メイサじゃない? お前は――」

 羽交い締めにされながら鏡に写る自分の背後の女を見ると、それは今日の対戦相手八草蘭子だった。蘭子は全裸ではなく、ブラジャーもパンティもしている。

「お前、全裸じゃなかったのか?」

「音だけで誤魔化されるなんて甘いのよ。お尻を触られた罪は重いわよ」

 ガッ! とそのまま蘭子は竜史の首の骨をへし折ろうとする。

(声が出ない以上、メイサは呼べない……ってあいつ俺のボディーガードだろ一応!)

 すると、隣の部屋から大きなイビキが聞こえた。明らかにこのイビキはメイサのものである。

「相方はイビキをかいて寝てるようね。女なのにはしたない」

「お前、こんな事して許されるとでも?」

「許されるわよ。少なくとも月下学園の生徒達には。勝てば官軍って言葉があるでしょう?」

 今日戦いでサンライトを全開で使った為、竜史は身体のふしぶしが痛くオーラの欠片さえ出せそうにもない。このまま行けば待ち受けるのは確実な死である。

「あんたは苦しんで、苦しんで、苦しんで、死ぬの……百合子と同じように苦しんで死ぬのよ」

(死ぬ……)

 瞬間、ドアが勢いよく開け放たれ星形のステッキを持った女が竜史を蹴り飛ばす。俺は敵かーっ! と叫ぶ全裸の竜史は壁に激突する。ベッドの上で立つ蘭子はチッと舌打ちをし、その台風に直撃したかのような女に言う。

「さっきまであんな大きなイビキをかいて寝てた女がよく起きられたわね。邪魔はさせないわよ」

「パーフェクトメイドの私がイビキを? そんなハズがないでしょう?」

 ヨダレを垂らし、髪がボサボサで目が半分閉じかけているメイサは言った。そのメイサの以外な部分を見た竜史はこいつにも人間味があるんだなと思った。そして、蘭子の右手にナイフが握られるのを見た。

「ここは武大会のようにルールが無い戦場。だから殺すのも有り。という理由で襲ってきたようだけど、そうかしら?」

「そうよ。別に試合以外で戦ってはいけないというルールは無い」

「そうね。なら貴女もなぶり殺しにして娼館に売り払い毎日、毎日、肉便器のように男衆に弄ばれるようになってもいいって事ね。なら相手になるけど」

 目の色が変わるメイサに蘭子は驚き恐怖した。そして、目の前の敵と自分の実力差を何もしてないにも関わらず思い知らされる。同時に、今言った言葉の状況に追いやられている自分を思い嘔吐した。それを断罪するように見下すメイサは思う。

(この女なら……竜史を任せられるかもしれない。いまくいけばだけど)

 すぐに竜史は駆け寄り蘭子の背中を撫ででやる。そしてメイサは、

「助けるの? 貴方を殺そうとした女を?」

「別に殺しにきたからって殺さなきゃいけない事はないだろ? 蘭子の妹は俺のせいで死んだ。その恨みは全て受けてやるわけにはいかないが、多少なら仕方ないとも思う」

「その優しさは貴方をいつか殺す事になる」

「親父が言ってた。人間はくだらねぇ生き物。だからこそ人間は愛おしいんだってな」

「……」

「昔は俺もサンライトが安定しない時は特別な力を持つ自分も他人も毛嫌いして自分の殻に閉じこもってたけど、最後には人間を、他人を求めてた。憎しみ合っても分かり合える事は何処かにあるはずさ。それが出来ない奴は、探してないだけだ……って親父が言ってたし、俺もそう思う。だからこいつは助ける」

 その竜史の行動に非常に不快感を感じたメイサは呟き消える。

「なら何であの時、助けてくれなかったの?」

 そして、意気消沈した蘭子をホテルの外まで送る。ずっと無言のままの蘭子を励ます言葉は思い浮かばず、何もないまま別れる。

「……ねぇ、貴方に希望はあるの? この大会は貴方を、サンライトを公開処刑する為の場所。人間に忌み嫌われている太陽の貴方がどうこう出来る場所ではないわよ」

「それでも、やるしかないさ。蘭子だってそうだっただろ? 今日の試合も、さっきの事もやるしかなかった……理由とか考えても無駄だ。俺はサンライトとして太陽陽史朗の息子として生まれてきた。母親も父親も俺のせいで死んで最悪だけど、やるしかないんだ。俺にも生きていて欲しい人間がいた以上はな……」


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