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サンライト  作者: 鬼京雅
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月下武道大会の終焉

 オレンジ、イエロー、ブラックの風が流れて行く。

 すでに武舞台が存在しないその場所には一人の人間がいた。

 そこに立っているのは月下ヒカルだけだった。

 その瞳には一筋の涙が流れ、すでに息をしていない竜史の身体をメイサが抱きかかえていた。周囲を囲む人間達も黙ったままうつむいている。満足げに眠るように息絶えている竜史の顔を直視する事が出来ずにいた。

「誰かの犠牲で照らされる明かりならいらないのよ! 返せ! 竜史を返せっ!」

 いじける子供のように泣きじゃくるメイサはひたすらに太陽に向かって竜史を返せと太陽に叫ぶ。

 天を突く声に反比例するように地上を地虫のように這う闇の塊が何かを訴えていた。

「こんな事でぇ……また復活して……また復活……」

 弱々しい欲望の断末魔を上げて紫のコアのまま蠢いている。

 それを見るメイサはその紫の水晶のようなコアをつかんでいた。

「このコアを使えば竜史の力になるかもしれない」

 それを見た蘭子は叫ぶ。

「メイサ!? 吸収されるわよ?」

「その前に竜史の身体に突っ込むわ」

「いいの? キメラのコアよ?」

「竜史なら自分の生命力に還元するわよ。竜史を信じてないの?」

「信じてるわよ」

 二人はキメラのコアを竜史の口から突っ込んだ。

 それを見守る観衆達は竜史の復活を願う。

『?』

ドクン……ドクン……! と闇の胎動のような鼓動が周囲を刺激する。

 瞬時に竜史の肌が暴走した時のように褐色になり、立ち上がった。

「グアアアアアアアアッ!」

 野獣のような声を上げた竜史は真希に乗っ取られたかのような目をする。

 それを見たヒカルは手に持つチュッパチャップスを握りつぶし、

「さて、月下を終わらせる作業に入るか」

 フッと天に輝く赤い太陽を眺めてつぶやいた。

 そして上半身が下着姿のメイサは何の迷いもなく暴走竜史に近づく。

 それを止めようとする蘭子とパン子に対し、

「問題ないわ。ただの竜史よ」

 全てを察しているメイサは完全に復活した竜史を抱きしめた。

 照れる竜史は自分の心臓の鼓動を感じる左胸に触れて言う。

「多分、一度キメラのコアに干渉したのが良かったのかもしれない。死なないでよかったー! 危ねーーーっ! まだやる事が残ってるしな」

「やる事?」

 そのメイサに答えず、メイサのサーベルを持ち自分に殺気を向ける金髪の少女の元に向かう。この大会を計画し、自分を鍛える指示をメイサに出した血縁の少女の元に。

 復活した竜史はヒカルと対峙している――。

 二人の決勝戦は終わったが、ヒカルが白夜を構え竜史を始末しようとしていた。

 まるで決勝戦がまた始まるような会話が始まった。

「太陽が天に無くても、俺には俺の加護がある」

「何の加護だ? まさかキメラのコアだとでも言うんじゃないよな?」

微笑みながら大きく両手を広げ――。

「それはこの仲間のみんなさ」

「確かに俺に従うのは月下グループという権威があるからこそ。お前の仲間はこの大会のなかで得た絆の力。仲間の力、見せてもらおうか!」

 スッと二人は剣を突き出し動いた。

 もうサンライトもルナティックも使い果たしている為、先に剣が刺さった方の勝利である。

 顔をこわばらせる二人の距離はもう目と鼻の先ににあった。

(これで……終わりだ)

 スッとヒカルは白夜を落とした。

 止まらない竜史のサーベルは一直線に伸びる。

 あっ……と驚く観客はその行為に微笑んだ。

 暖かい炎がヒカルの金髪の髪を揺らし、竜史は抱きしめていた。

 殺されるつもりだったヒカルの瞳に涙が溢れる。

「これが、人間の肌のぬくもりだヒカル。俺はお前程度の力じゃ消えやしねー。周りのみんなも消えやしねーよ。お前も消させやしねー」

「私は月下の幹部としてのケジメがある……百年も光税で日本市民を苦しめ、復興を邪魔していた組織に加担した罪が……」

「そんなのどーでもいいよ。光税を生み出したのはヒカルじゃねーし、これからは太陽と月が交互に世界を照らして地球は旧暦のように宇宙にまで繰り出す文化水準まで引き上げるんだ。休んでる暇も悩んでる暇もないぞ」

「数多の人間を個人の意思で殺した私に今更何が……」

「ヒカルも俺も、人間だぜ。ちょっと凄いだけのただの人間だ。気楽に行こうぜ」

「た、竜史……!」

 歯を食いしばり涙を流してヒカルは地面に崩れ落ちる。

 そんな中、呆然とするメイサは白昼夢を見ていた。それはヘルズドラゴンに改造された自分の父親だった。そのち父親は優しい笑みを浮かべつぶやいた。

「メイサ……大きくなったな。それにいい仲間を持った。元気でな」

 幻である父親が消えて行く。イエローのオーラが風に流されメイサはヒカルを見る。

(……光史朗の動きを止めた朧はこういう事だったのね)

 地面に座り目を赤くするヒカルに近づきゆっくりと上から見下し、

「どう、下から見る景色は?」

「最悪だ」

「いい顔ね。写真に収めておきたいくらい」

「……私を殺さなければこの太陽は消える! こんな太陽が輝くのは今だけだ!」

「虚勢を張るのはよしなさい。戦いはもう終わってる。何が正しくて何が正しくないかはこの街の人間が全て知ってる。これから貴女が悪事を働こうとも、街の住人とあの太陽がそれを許さない。もういいのよ響姫……罪は必ず償える」

 そう微笑んで言いヒカルを立たせた。

 そして竜史は崩壊する会場にいる観客達を見つめて言う。

「お前がここの全員に責任を取るには、この世界を毎日照らし続けるしかない。そのルナティックの月の力でな」

「生きる資格もない私に言うか。お前は凄いな竜史」

「兄貴だからな」

 そう言う竜史には兄としての貫禄と戦士としての強さと優しさを秘めていた。

 そして空を見上げる竜史は額に手をかざして目を細めて言う。

 その隣にはこの三ヶ月を苦楽を共にしてきたメイサが寄り添う。

「やっぱ太陽は明るくていいわ。人工の光じゃ、こうはいかない」

「明るいわよ。人間の気持ちか下を向かない限り太陽は明るい」

「そうか。みんなが明るく感じてくれてるならいいか」

「みんなより私だけは特別明るく感じるわ」

「何でだ?」

「貴方と一緒だからよ」

 スッとメイサの唇が竜史に迫り、周囲の人間はやられた! と思った。

 当事者のメイサでさえも思うはめになる。

「……ヒカル。やってくれるわね。試合で負けて勝負に勝つんなんて」

 メイサからのキスでエンドのはずがヒカルが竜史の唇に収まっていた。

 会場中から激烈な嫉妬を受けながらヒカルは言う。

 刻が止まる竜史はわけがわからないまま妹の甘い言葉を聴いた。

「好きだよ、お兄ちゃん」




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