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サンライト  作者: 鬼京雅
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闇の男

 観客からは竜史に声援が送られ、一目散に救急箱を抱えてメイサは武舞台に駆けつける。

 強化コードの影響で意識を失い倒れているヒカルを見つめながら応急処置を受ける。蘭子はメイサに担架の準備をさせ、白蓮三騎衆は月下病院から救急車を手配しに病院に向かう。ふと、虚無はゲストルームにいない光史朗を疑問に思い周囲を警戒する。

 鎮痛剤を打ち自分を担ごうとするメイサに竜史は、

「早く病院に行くわよ。急所は外してても重症には変わりないわ……」

「いや、待ってくれ。このペンダントの俺の横にいる幼女をヒカルと見比べてくれ。俺の予想が確かなら……」

「写真を? よく見せなさい……これは――まさか!」

 驚くメイサの顔で確信した。

 一時的な鎮痛剤の効果に期待しながら竜史は陽史朗が死亡した崖での出来事を思い出す。屈強で喧嘩に強いはずの父親が何故、ヒカルに対して抵抗も何もしなかったのか? 何故、このペンダントを渡したのか――?

「間違いない……ヒカルは俺の妹だ。親父がヒカルに対しての抵抗をしなかった理由が今にしてよくわかった。自分の娘だからだよ……」

 ヒカルは実の妹だった。サンライトを使うと髪がオレンジになるようにヒカルも髪の色が変化していた。常に月が出現している為に髪の色が金のままであり、気付かなかった。

「俺は、実の妹にあんな仕打ちをされていたのか。SMのようなプレイを」

 右胸の痛みを感じながらしゃがんでヒカルの黒髪に触れる。

 そして地面に転がる新しいチュッパチャップスを持った――刹那。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーッ!

『――!?』

 月下武道会場に激震が走る。

 開かれた会場の屋根部分に紫色の邪竜が獰猛な牙を剥き出しにして人間達を眺めていた。一斉に恐怖の声が上がり観客達は出口から外に出ようと騒乱状態になる。

 収集のつかない会場を沈めようとパン子はマイクで落ち着いて会場を出るように訴えるが頭上の悪魔の存在がそれを許さない。咆哮を上げるヘルズドラゴンZに竜史は構え、メイサは前に立つ。虚無と蘭子は相手の出方を注視する。すると、どこかから月下光史朗の低い声が聞こえた。

「新時代の幕開けの時刻にようこそ諸君。私は月下光史朗であった存在。今は世界を束ねる神である」

『……』

 呆然と会場の屋根から聞こえる声に耳を傾け月下の社長がどこにいるのかを考える観客の目は紫の竜のみにしかいかない。ハッ! とする竜史は気が付く。隣のメイサと視線が合うとメイサは無言のままうなずいた。この会場の全ての人間を代表して竜史は言う。

「……ヘルズドラゴンに吸収されたのか月下光史朗」

 グウオオオッ……と軽く唸りを上げる邪竜は、

「吸収されたんではない。吸収したのだ。虚無の人間キメラ計画の細胞を自分の身体に打ち込み、そして白蓮建設の娘の真希の細胞も吸収して最強のキメラとして私は生まれ変わった……この私こそが太陽の生まれた世界の神」

 悠然とした構えで邪竜である月下光史朗は言う。

 そして鋭利な左右三枚の翼をはためかせ飛翔する。

 メイサの顔から血の気が引き、虚無は自分の研究を呪い、蘭子はただ開いた口が塞がらずパン子を抱きしめる。右胸の包帯が真っ赤に染まるのを見た竜史はギッ! とキメラになる光史朗を睨みすえ、

「お前は自慢の娘のように振舞ってたが、結局ヒカルは利用してただけだったようだな。月の力があるからといって俺の親父から奪い去ったわりには酷な事をする」

「ハハハッ! 自分の娘でもないお前に優しくなんて出来るかぁ! お前の父親は抵抗したが、所詮この世は金と権力には逆らえないんだよ!」

 未だ意識を失うヒカルの本当の家族は竜史の親であり、ヒカルは生まれると同時にルナティックの輝きを宿しており光史朗は強引な手段で養子として出した。多額の金と引き換えに太陽家は花火屋としての存続を許されたが、心には大きな傷を負っていた。

「……何を悲しい顔をしてる? お前の優柔不断が太陽家を破壊した事にまだ気付いていないのか?」

「知ってるさ……母さんが死んだのは俺のサンライトのせいだ。俺が起こした母さんの謎の焼死事件のせいで俺達の家族は月下から目をつけられ運よく生まれたヒカルにルナティックが発現していた。ヒカルがお前に略奪されたのも俺のせいだ」

「災悪そのものだな……お前の弱さがお前の家族を破壊した。とんでもない息子を持ったものだ太陽陽史朗は」

「……そうだ。親父も、母さんも、ヒカルの人生を壊したのは俺だ。俺が自分のサンライトを早く受け入れてどうにかしていればこんな事にはならなかった」

 両拳を握り締め震える竜史の肩にメイサは触れる。

 クククッと獰猛な口元に笑いを浮かべる光史朗は、

「お前のサンライトに気付いていれば私はお前を養子にした。運が悪かったな」

「悪が悪を救うか……一体どんな喜劇だよ? 俺は……俺の心は……っ!」

「お前の全てを私が救ってやる。私がこの世の神としてサンライトを正しい炎として使ってやるぞ」

 ブオオオッ! と六枚羽根をはためかせ急降下した。

 右胸の鎮痛剤が切れだす竜史の前に白い衣装のオネエが現れる。

「――もう月下も貴方も時代遅れなのよ。これからは太陽の……」

「虚無―――っ!」

 翼の直撃を浴びただけで虚無は場外の壁に激突する。沈黙する虚無に反応は無い。それを見たメイサは瞳孔が開く。

「今の一撃はヘルズバスターの倍の威力があるわ……となると、あの邪悪な口から放たれるヘルズバスターは更に強力……この会場なんて軽く消し飛ぶほどのものでしょうね……」

 失血多量で緊急で病院に直行しなくていけない竜史はすでに目がかすみ始めている。救急車を呼んで担架を運ばせようとしている白蓮三騎衆は混乱する会場から観客を逃がそうと必死になっていた。この会場に渦巻く全ての恐怖、悲鳴、嗚咽、慟哭をエネルギー源にするように光史朗は自分の力に満足する。

 開発者の虚無すら超えるヘルズドラゴンの力を手にした月下光史朗は止められない。

 絶望が――空間の全てを支配した。

「あの忌まわしい虚無とて一撃であのザマ……どうやら私は強くなり過ぎたのかもしれんな。サンライトもルナティックも私には通じんぞ。フハハハハハッ!」

 言いながら光史朗の身体がドラゴン形態から人間の姿に変化した。そして硬い鱗の皮膚から紫の毒が噴出しだす。同時に両手から紫のオーラの球が生み出され、会場施設をやみくもに破壊しだした。

「野郎っ!」

 武器の無い竜史は拾ったチュッパチャップスを投げた。

「おいしい飴をありがとう。私のコアに吸収させてもらうよ」

 投げられたチュッパチャップスを体内に取り込んでキメラの心臓であるコアで肥料とする。嘲笑う光史朗の攻撃はとどまる事を知らない。会場上部の屋根は全て破壊され、出入り口は落石で封鎖され観客もそうそう数の怪我人が出た。動けない怪我人は毒の汚染で瀕死になっていく。

『うわああああああっ!』

 必死に蘭子にパン子、そして白蓮三騎衆の面々が光史朗に攻撃を繰り出すが全てのダメージは光史朗のコアには当たらず全てが瞬時に再生する。そして周囲のゴミを払うかのようにヘルズバスターを撃ちまくり敵を排除した。

「相手にもならん……私は全知全能の神なのだからなああーーーーーっ!」

 狂乱の笑いを上げる男の声にひれ伏すように竜史は倒れた。

 すでに身体は限界を超えている。

 メイサが何か声をかけてきているが、すでに聴覚すら反応が鈍い。

(……もう無理だ。全部吐き出しちまった……ここまでやればいいだろ親父? 俺が死ねばおそらく太陽に転生するはずだ。それでみんなチャラにできるはず。みんな……メイサ……今まであるがとう……)

 一筋の涙を流し意識を失う竜史の前に白い足が差し出される。

「――臭っ!」

「鼻が利くなら勝機はあるな。私の白夜を使え、最後の朧でサポートする」

「いいのか? 愛情は受けてなくてもお前はあの男の為に……」

「月下光史朗はすでに人間を辞めた以上、月下グループの社長ではない」

 そのヒカルの言葉で竜史は飛び起きるように目覚め、全てを察した。

 唖然とするメイサは何も出来ずその太陽と月の加護を受ける二人の姿を見た。

 オレンジとイエローのオーラに光史朗は吸おうとしていた煙草を握りつぶす。

「……とんだ兄弟愛だ。さっきまでは殺し合っていた二人が仲間になるか。滑稽さを通り越して言葉もないな」

 前に出るヒカルはその言葉に対し――。

「朧――」

「聞く耳もないか。私には効かないよ」

「動きが止まればいいのさ」

「動きが止まっても私の体内のコアは動き続ける」

 親指の煙草が高速で飛んだ。竜史は右目をやられるが鋭利な嗅覚が動くコアを捉える。

「ここだあーーーーーっ!」

 ザシュッ! と白夜が突き刺さり光史朗の体内を動き続けていたコアが停止し、白夜に突き刺される。有り得ない……という顔の光史朗は口から血をはきヒカルを睨む。

「……まさかチュッパチャップスが動くコアを潰すキーになるとはな。これも私の本当の父親の太陽陽史朗のおかげか……」

 いつも舐めていたチュッパチャップスは子供の時に陽史朗が舐めさせた記憶でなめていた。

 自分にも家族の絆があったなんて信じられないヒカルは自分の手で殺してしまった父親に対して、この戦いを勝つ事で前に進むと心で誓う。それを聞いた光史朗は激怒し、

「……中学生にもなってそんな飴など舐めおって! だから貴様は駄目なんだよヒカル!」

 自身の周囲に湧き出るオーラは歪んでいき、顔や身体がキメラの細胞が暴走するように獣に変化する。全身をかきむしり体内のコアを抑えつけるように喚く。

「力が溢れすぎてコントロールが出来てない! 叩くぞ!」


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