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サンライト  作者: 鬼京雅
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決勝戦2

 武舞台に二筋の黒い焼かれたラインが引かれ、その中央にヒカルがいた。

「児戯だな竜史。その程度のサンライトスラッシュが通じるか」

「それなりに手傷を負っても余裕そうだな。なーら、十発かましてもいいんだぜ?」

 喉仏に切っ先をつけられても動じない竜史は見下すように言う。

 このまま刃を振るってもオーラの薄いバリアがあるため飛んで後退する。

 今の一撃で確実にダメージを受ける二人は相手の実力の一端を知る。

 ここまでは順調だがそれもここまでと察するメイサは言う。

「これで互いの一つの技がほぼ互角だとわかった。問題は次。意識さえ強く保てれば幻なんかに惑わされない――」

 それに反応する虚無は、

「やはり短期決戦にはならなないわね。竜史が太陽を、生み出すにはサンライトを常に全開にする必要がある。この差はデカイわよ。まだ朧を使っていないわけだし」

 メイサと虚無が憮然と戦況を見つめる。そして対戦する二人は動く。

「一つ聞こう。何故、ノラドッグに蘭子を襲わせた?」

「それはあの女が月下の駒の癖にお前の仲間の配下に加わっていたからだ。裏切りには死をもって償わなければならない」

「蘭子は配下でも部下でもない仲間だ」

「お前に仲間だと? こんな異質な力を持った者に仲間なんてできるか。いつまでそんな幻想を抱いてる?」

 怒りを増幅させるヒカルは竜史に仲間が出来た事に嫉妬しノラドッグに襲わせていた。

 剣を交差させ、唾ぜりあいになりながら竜史は相手の瞳の変化を受け入れるかのように瞳を合わせ続ける。まるで朧の幻影術を自分からくらいにいく竜史にメイサは驚愕し、蘭子は微笑む。この戦いでヒカルの闇を照らす覚悟のある竜史は幻影世界に惑わされる事もなく月の少女の強い意思のこもる声を聞く。

「こんな力を持って生まれた以上、この力を使いこなし世界を支配するしかない。それがサンライトとルナティックの力を持つものの運命」

「いや、こんな力を持っている以上、俺達は人の道標にならなくちゃあけない。それが太陽と月だ」

「じゃあ何故、百年前にロストサンライトは起きた? 人類が宇宙にまで生活圏を広げてもサンライトとルナティックの能力者は争う事をやめず、人類の科学技術の力もあいまって敗北したサンライトは太陽と共に消失し宇宙コロニーは消え、旧暦の千年代後半まで文化水準が後退した……それをどう説明するっ!?」

「過去がそうでも未来の俺達が今から変わればいいだろっ!」

 キインッ! と力押しで勝った竜史は叫ぶ。そして――。

「特別な力があっても俺たちより強い奴はいる。だから友が、仲間が必要なんだ。俺達は人間。万能な存在なんてなれない」

「他人はそうは見ない……だから私はお前を……お前をっ!」

 溢れる感情の濁流に耐えられないのか胸を押えながら月が浮かぶ眼球で竜史を見る。

 それを受け入れる為に一切目をそらさず仁王立ちになった。

(何なんだ……この男は一体何なんだ……?)

 今までこんな風に自分を受け入れてくれる人間などいなかった。

 ルナティックの消滅の力は他人との距離を広げ手に触れる者も近づく者もいない。

 常に恐れを抱き、畏怖され、絶望を与える天を統べる夜の覇王。

 それが月下ヒカルの全てだった。

(朧をわざとくらうなんてバカな奴はお前が始めてだよ……何で私がお前が気に入らなかったかよくわかったよ。お前は私がずっと欲していたものだ)

 まるで兄のような暖かさを持つ少年に安らぎを感じる――。

「わざわざ俺を鍛えなければこの大会に勝てたはず」

「太陽を見てみたかった。暖かい光というものを……私と対を成す暖かい力を」

 旧世紀の古書によると太陽は人間の希望になる――と書かれていた。

 それが自分と対を成す力ならばどうしても見てみたい欲望に取り付かれた。

 他人に始めて受け入れられた事で心が軽くなり、確実に変化していくヒカルから本音が漏れ続ける。

「……私は仲間が欲しかった。ずっと子供の時から仲間が欲しかった……だけど、金と権力と月の力で作り上げた俺はお前のような仲間を作るにはもう遅すぎた」

「朝に太陽、夜に月。月も太陽も人を照らす光。この月下の箱庭の山脈のみんなはそれでも夜に浮かぶ月を期待してたんだ。その気持ちが本当ならこの会場のみんなはわかってくれるはずだ」

「……全てを知れ。朧――」

 すでに強靭な精神を持っている竜史に朧の幻影は通じない。しかし、相手を攻撃する為ではなく相手に自分を知らせる為に朧を使った。それを受け入れる竜史はヒカルの精神世界を垣間見た――。

 月下ヒカルはルナティックが発現した時に本当の親から引き離された。引き取った月下光史朗は化物としてヒカルに接し、客人には自分の娘だと言いながらもその手は決して素肌には触れる事がなく親子としての心も通じ合う事は無かった。ヒカルはこの月下学園を守る為に全てを捨てた。義父である月下光史朗に愛されないならばこの月下学園の女の園だけは守ろうと思った。

 それがノラドッグの生徒監視をかねた外部からの侵入者処分になると同時に危険な外に出さない為の保護にも繋がっていた。そしてその思いは歪んでいき、いずれこの世界は自分のものにする。特別な力がある以上当たり前……という思いで日々を過ごす中で竜史のサンライトの力を目撃した。その時、やっと仲間が出来たと思った。だから二ヶ月もの間訓練を施し、月下グループに対抗できるだけの力を養わせた。

 武舞台に静寂が流れゲストルームの月下光史朗はつまらない試合だと言わんばかりの冷たい視線で会場を見下す。そして、精神世界にいた二人は現実に帰還する。

「竜史のおかげで心の枷が外れた……が勝負は勝負。私は勝つ」

「当然だ。決着はつける。お前の心に光を射せたなら俺達はもう離れないはずだ」

「月と太陽は相容れない。だから二人は離れた」

「いや相容れる。だから二人は巡り合った」

 言いつつ、京雅を旋回させサンライトボルテクスを生み出そうとする。炎の竜巻が発生しピッとヒカルの頬に一筋の火傷が生まれた。その炎の竜巻をまるで気にせずに片手を突き出し、全身が刻まれ焼かれながらも元を断ち消滅させた。消え行く炎のカスが竜史の姿を浮かび上がらせると、大上段に京雅を構えており――放つ。

「コード・ビャクヤノ……」

 強化コードを唱え、自身の力を一時的に三倍にまで引き上げて覇翔月破でサンライトスラッシュをブチ破ろうとする。オレンジとイエローのオーラの光が虚無の網膜で輝く。

「……朧を受け入れるなんて完全にイカレてるわ。しかもあのヒカルの心の闇にまで干渉して光を照らすなんて。貴女この三ヶ月間どんな調教してきたのよ?」

「始めの二ヶ月の基礎体力トレーニング以外はほとんど実戦で得たものよ。実戦で様々な問題を抱えた人間と真正面から立ち向かい、打ち勝ってきた太陽竜史という一人の少年の心のあり方」

 呆れ顔の虚無の問いにメイサは答えた。その二人の会話に苛立つ蘭子は言う。

「あー、もうごちゃごちゃうるさわよ。竜史が勝つに決まってるじゃない。あの二人の差を見ればわかるでしょう? 竜史のお父さんは特別な力を持つ息子を愛情を持っていい育て方をした。それが竜史に受け継がれ、竜史の基礎を作っている。そんな竜史が負けるわけないでしょう?」

 ヒラヒラッと手持ちの十億円の全てを竜史に賭けたチケットを見せた。

「うおおおおおおっ!」

 全てのオーラを出し尽くすようにサンライトスラッシュの連射で覇翔月破に対抗する。何層ものサンライトの壁をブチ破り、少しずつヒカルは迫る。次第に天の太陽は小さくなっていき、丸い満月の存在が大きくなるように夜空に吼える。スラッシュが途切れた瞬間に垣間見える金髪の少女の姿がだんだんと接近し――サンライトスラッシュの防壁が破られた。

『……』

 呆気に取られる会場は頭上の太陽が消えた為、竜史の負けを確信するが、メイサ達はそうは思わない。 サンライトのオーラが切れても、竜史自身の心が燃えているからである。

 無言のまま見つめ合う二人は手に持つ刀を動かす。

 突き出された突きは互いの胸に向かって伸びて行き――。

「……やっぱ俺は強いんだな。自分の成長に呆れちゃうね」

「そうだな……専用の剣がなかったお前の敗北だったようだ」

 竜史の右胸にはヒカルの白夜が刺さっており、ヒカルの左胸に刺さる刃は背中まで突き出ていない。

 それにいち早くメイサは反応した。

「刀身が消滅してる……」

 それを聞いて虚無はうなずき、蘭子は問う。

「どういう事?」

「今迄はサンライトを刀の外側に展開させていたけど、今は刀の芯から刀自体を燃やし尽くすように強くしてたから刀身が焼失した。新しい刀があっても竜史のオーラに耐えられない。ヒカルのように専用の剣がないと武器が耐えられないのよ……何でそんな事に気づかなかったのかしら」

 蘭子の頭を叩くメイサの声を聞いていたかのように竜史は笑う。勝利を確信するヒカルは一気に残りのオーラで消滅させようと動く――刹那。

「刀ならあるさメイサ。ヒカルがくれた刀がな!」

「!? それを抜けば出血多量で死ぬぞ。信念を折っても命を捨てないのが人間だろう!?」

「別に何も折りはしねーさ。太陽を作り出せれば俺は死んでもいい覚悟はある。俺の全部を、世界を照らすサンライトに変えてやる!」

 その竜史は右胸に刺さる白夜を引き抜き、刃を一閃させた。

 自分の死さえ乗り越えている少年に呆気に取られヒカルは斬られる。

「折れたのは、お前の信念だ」

 鋭く発した言葉と共にヒカルは武舞台に倒れた。

 空の月の光が弱まり消えかかりそうな状態になる。

 同時にゲストルームから光史朗が消え、ヒカルの髪が金から黒に変化した。

 場外の実況席でボーッ……と試合を眺めていたパン子はメイサに生キャラメルをぶつけられ、それを口に入れてカウントダウンを取り始める。その間、竜史は勝利が確定したにも関わらず動揺を隠せなかった。それは右胸の痛みではなく、この倒れる少女の顔に見覚えがあるからである。

 溢れる胸の血など気にせず首のペンダントを開き家族の写真を確認する。口元から血が溢れるが意識だけはクリアに事実を確認した――瞬間、パン子のテンカウントが終了した。

「月下ヒカル選手のテンカウント負けにより、月下武道大会決勝戦は太陽竜史選手の優勝です☆ イエーイ! これで十万はゲットのはず!」

 と、パン子は余計な話までして決勝戦の勝者を決定した。

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