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サンライト  作者: 鬼京雅
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初陣

 月下武道大会会場地下・選手控え室。

 その一室には竜史とメイサがいる。

「いい顔つきになったわね竜史。戦士の顔よ」

「……うるせぇ。あんなんで戦士になんてなれるか」

 試合前にも関わらず慢心相違の竜史は試合会場の控え室にてそう言う。フフッと笑うメイサは上半身裸の竜史に新しい包帯を巻き、身体中にある切り傷や擦り傷に薬を塗る。昨日までの激烈な追い駆っこのしばかれた痛みを未だ感じ、神経は高ぶったままである。食事も、睡眠も十分に取れて誰からも襲われない日々を過ごして来たがこの二ヶ月は地獄でしかなかった。ただひたすらサンライトの能力を持つ自分を受け入れ、月下ヒカルに父親を殺された復讐をするために耐えてきた。

(……とうとうこの日が来た。だが、戦えるのか? 今の俺が……)

 陽史朗の残した刀である日本晴を持ち思う。すると、控え室のドアをノックされメイサが応対する。入って来たのはこの二ヶ月間夢の中までも現れた憎き相手だった。

「月下……ヒカル」

 ブオオッ……と髪の毛が一瞬オレンジ色に染まり控え室にサンライトのオーラが満ちる。だが、一瞬にしてメイサにえび固めを決められ行動不能にされる。

「おいおい。こっちはお前に二ヶ月も特訓する期間を与え、メイドまで派遣して鍛えさせたんだ。試合開始までに無駄な怪我なんてしたら大会のゲスト達もがっかりして帰ってしまう。お前にはサンライトを使い百年ぶりの太陽を空に輝かせる義務がある」

「義務だと? やっぱお前は俺を見せ物にして商売をするつもりなのか……サンライトを月下の私物とする」

「太陽と月は相容れない。私が先に自分のルナティックである自分を受け入れ能力を覚醒させた以上、太陽のサンライトであるアナタは私達に使役され、人々を感動させる餌になるのよ」

 依然えび固めをくらう竜史を見るヒカルはチュッパチャップスを口の中でコロコロと動かし、床に転がる赤い鞘の刀を見て言う。

「その刀はメイサの報告書によると父親の遺品だろ? それだけの実力になったならそうとう使えるようになっただろうな」

「……そうだな。メイサに仕込まれたからな」

 それは嘘であった。二ヶ月前の調教の始まりにメイサに腕を折られて剣技の修行などできなかった。この二ヶ月はひたすらメイサと鬼ごっこをしていただけである。それでも強がりを言い、

「まぁ、試合までやめておこうぜ。試合前に月下学園の生徒会長が死んだら笑い話にもならない」

 地虫のように這う哀れな少年の顎を黄色いミュールを履いた足でクイッと上げる。見詰め合う二人はその主従を改めて確認する。それを認めたくない竜史の鼻を特異な匂いが刺激した。

(相変わらず酸っぱい匂いのする足だ……こいつ水虫……うっ!)

 くわえていたチュッパチャップスを動けない竜史の口に無理やり突っ込みヒカルは控え室を出て行く。

「フッ、期待してるぞ竜史」

 そのヒカルは控え室の二人を思う。

(あのメイサの調教に耐え、そしてメイサを笑わせるか……楽しい大会になりそうだ)

 高笑いを上げて通路を歩いて行く。

 そして改めて身体のチェックをしTシャツを着る。試合の服装も今までと同じ赤い作務衣姿である。着慣れた服で戦うのが一番だと思う竜史は日本晴を持ち立ち上がる。微笑むメイサは、

「初陣ね。頑張りなさい」

「敵に応援されてもな」

「私は月下に依頼されただけで、仲間ではない。それだけは忘れないで」

「この大会が終わるまでは俺の味方……だったな。お前が何も俺の修行に加担しなかったから忘れてたぜ」

「手伝ったじゃない。この二ヶ月間、一日も休まずに」

「ただ俺は追い回されただけだ。剣の修行もサンライトの修行も受けちゃいない。始まりか……」

 月下武道大会・一回戦の開幕を告げる鐘がなり竜史は昔、父親から教わった通り刀の目釘に唾をはき湿らせ、試合中に刀身をブレさせないようにした。そして武舞台に向けて歩き出し、電光掲示板には太陽竜史と相手選手の顔が映し出され会場内はヒートアップする。この時点で賭けの申し込みが終了し、会場の九割が竜史の敗北にかけた。一部の観客は空き缶を投げ出しその缶が竜史の頭に当たる。会場を埋め尽くすのは女子校である月下学園の女子生徒であり、少女達は全員が疲弊した顔をして憎しみをぶつけるように叫んでいる。

 この勝敗の賭け事をしている大企業の社長連中は観客席上部の強化ガラスに覆われた場所からイスに座り悠然と眺めていた。この円形の会場の全てが自分のサンライトという光を憎み、消えて欲しいという見えないオーラに首を絞められ息が苦しくなる。

(勝てるか? ……いや、やるしかない。この会場の全員が俺の敵でも俺はやる。オヤジのように、華々しく花火のように散ってやるさ……)

 さきほど言った通り、この二ヶ月は山小屋周辺を追い掛け回される以外は修行などという修行はせず腰にある刀も抜く事を禁じられ振る事自体もまともにできていない。走り続けるだけで二ヶ月は終わり、今を迎える。スクール水着を着た審判の小学生のような女が現れ、試合開始の宣誓をした。

「……はいはーい。缶を投げるのはやめましょうね。ん? このジュースおいしい。ちくわに合うわ……じゃなくて、それでは月下武道大会一回戦どーどーのスターーーートです☆」

 どうにもならない状況の中、月下武道会の一回戦が始まった。




 一回戦第一試合・太陽竜史VS八草蘭子やくさらんこ

 試合ルールは相手の死亡。もしくはテンカウントのダウンで終わるルールで武道大会にしては一般的なものであった。刀の振りは素人そのものだが、案外動きだけはいい竜史を眺めながらメイサは思う。

(この大会は平均的な実力の者を集めた大会じゃない。竜史のように戦闘経験の無いものすら混じってる大会。実力差がありすぎると、地獄を見るわ……ヒカルの奴、何気ないルールで誤魔化してるけど恐ろしい事をするわね)

 スッと視線をガラス張りのVIP席で眺める響姫にやる。その隣には父親である月下グループの社長である月下光史朗が悠然と煙草の煙を吹かしている。

「八草選手のすさまじい薙刀の応酬です! おおっとーーーー太陽選手ダウンです! ワン、ツー……」

(ジャッジは公平にやってくれるみたいだな。これならいけるか?)

 その小学生のような水着姿の審判がちゃんとカウントしてくれている事に感謝する。

 戦いに入ると周囲の声がほとんど聞こえなくなった。この闘技場に駆り出され強制労働をさせられた月下学園の少女達の罵声も今は届かない。無我夢中になる事が勝つ上での竜史の救いだった。

「っ! ぐううっ!」

 目の前の薙刀を振り回す和装の茶髪のサイドポニーの八草蘭子は明らかに竜史に個人的な殺意をこめて武器を振り回す。

「この八草家に代々伝わる伝説の薙刀・元亀天正げんきてんしょうにてお前だけは殺す。お前だけはーーーっ!」

 その高速の連続突きを紙一重で回避する。回避だけは出来ているが、攻撃に移る事が出来ない。振った刀は空振りするか、薙刀と激突するのが限界で相手の身体には届かない。

(メイサの調教が生きて来てる? 必死に逃げ続けたのがこの戦いで役に立ってる)

 ここに来てやっと竜史はメイサの調教に少しだけ感謝した。素人さながらの剣技ながらも反撃が決まり始める。蘭子の体力が少しづつ落ち始め槍が伸び切った時に付け入る隙が出来たのである。賭けのチケットを持ち罵声を自分に浴びせる姿を見て思う。

「……この試合。月下の生徒まで金をかけてやがるのか」

「みんな生活があるのよ。あんたに壊された生活がね」

「だが初陣は俺が頂く!」

「貴方なんかに負けられないのよ! 妹の為にね!」

 腹部に刃を受けながらもカウンターで左脇腹に蹴りを入れる。互いに吹き飛ばされ武舞台に転がる。すかさず審判はカウントを取り始め、観客はヤジを飛ばす。しかし両者は同時に立ち上がった。

「おい、蘭子っていったな? お前さっき妹がどうとか言ってたがどういう事だ?」

「妹はこの会場を建造する激しい労働で死んだ。あの二ヶ月前に突然現れた太陽のせいで私達の生活はおかしくなった。月下の学園生活を壊したお前を許さない」

「あの時の太陽のせいで……」

 この千人以上の人間がおさまる月下武道大会の会場は月下学園の生徒達が学業を中断し、連日連夜働き続けて築かれたコロシアムだった。月下学園は女生徒しか存在しない為に激しい肉体労働の作業中に体調を崩すなどして倒れ、そのまま生き絶えた者もいる。その全ての恨みが、憎しみが、悲しみが怨念の蠢きのように会場全体から竜史に注がれる。

(……)

 この会場の異質な理由をようやく理解した。全ては自分がサンライトの力があるというのが原因という事を――。

(悪……か。確かにそれじゃ、恨まれてもしょうがねーな。恨んで当然だ)

 防戦一方の竜史は全身を元亀天正で突かれ動かぬ的のようになっている。反撃をしようとする動きも遅く、確実に精神を削られているのがわかる。

信秀家のぶひでいえ流奥義・八花睡蓮撃っ!」

 バババババッ! と同時に八回の突きが繰り出され血塗れになる竜史は上空に舞い上がりドサッ……と倒れた。まだ息があるのに不快を感じる蘭子は観客の興奮のボルテージをその身に受け白銀に輝く元亀天正を掲げ勝利の断罪を約束する。

 審判はテンカウントを始めるが、その前に殺してしまえばこの試合で合法的に殺人が行える。月下学園の女生徒達は武舞台に倒れる黒髪の少年の死亡を願う。このままテンカウントで負け、生き延びるなど許せないという感情が会場を包んでいる。

「竜史、ここで立たなきゃ男じゃないわよ。私の調教に二ヶ月も耐えた貴方なら立てるはず。貴方にも背負うものがあるんでしょう?」

 そのメイサの思いは伝わらず竜史は立ち上がれない。

(もう、死んでもいいか。これだけの人間に恨まれていたら……月下グループが敵な以上、日本全体が敵だ。生きていても仕方ない。親父、愛してくれてありがとう、俺も親父の元へ行くよ……)

「全ての恨みをその死で償え! 誰にも愛されないお前など死んでも当然だ!」

 振り下ろされる薙刀は竜史の首筋に迫る――。カッ! と目が見開く竜史は炎が宿る右手がその刃を握った。

「サ、サンライト? くっ!」

 そのまばゆいオレンジの炎に蘭子は恐怖し、退く。ゆっくりと竜史は立ち上がり刀を手に取る。左手は首のペンダントを握り締めている。

「お前は……この月下学園の生徒は何で女しかいないんだ? この学園は山の下の学園と違って、閉鎖的で異質で何かがおかしい……教えろ」

「私達は……この月下学園の生徒の全てはこの日本の各地区で生まれた次女、三女といった存在。貧しい家庭は食い扶持を減らす為と、娘を売った金を使い都会で裕福な生活が出来る。そして私達は月下学園で戦闘マシーンとして強化されていく者もあれば富豪に見染められ性奴隷になる者もいる。私は観客の中から勝ち抜いた代表なの……だからみんなの為にも妹の為にも、これからの学園生活の為にも負けられないのよ」

 会場の全ての観客のオーラが乗り移るように蘭子は元亀天正を構えた。まるで巨大な意思が宿る山を相手にするように唖然とする竜史は後ずさる。首のペンダントがふと発光し、強く握りしめる。竜史の心に父親の顔が強く思い浮かんだ。

「お前達の思いはわかった。けど、負ける事は出来ない。俺にも背負ってるものがあるんでな!」


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