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サンライト  作者: 鬼京雅
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悪魔のオネエとの準決勝

 準決勝第一試合翌日。

 大怪我を負ったメイサの見舞いで病院に来ている竜史と蘭子は病室まで来ていた。ダメージ自体は大きいが、寝たきり状態というわけではない為ベッドの上に座るメイサと話す。

「とりあえず生キャラメル腐るほど買ってきたぞ」

「私からは身の回りの物を中心に持ってきたわ。それと、パン子からちくわと、月下学園の全員から千羽鶴」

「ありがとう……」

 窓側の壁のフックに蘭子は千羽鶴をかけ、ちくわを渡す。袋に入っていないちくわの中には生キャラメルが詰め込まれており、やってくれるわね……悪くないわといった風にメイサは微笑む。敗戦にも関わらずそこまで気を落としている感じではないメイサに竜史は安心し、

「まさかお前が仮面騎士だったとはな。やけに強いわけだぜ」

「虚無以外にはバレてなかったはずよ。虚無には虚無ラボラトリーで一度素顔を見られてるからね。あのオネエは月下と代々繋がってるけど、聞かれないと答えない奴だし案外口が硬いから身バレに関しては不安じゃなかった。貴方達にバレるのは怖かったけど」

「俺は途中からの試合観戦だったから詳しくはわからないんだが、月下グループへの復讐として仮面騎士として武道大会に参加して月下に汚点を与え、叩き潰してやろうって事でいいんだよな?」

「そうね。そういう事になるわ……」

 メイサは過去に起きた月下での事件を話した。その最中、蘭子は室内の花を変える為に出て行く。いい所で出ていくなと思う竜史は話しを聞く。

 メイサの母親はメイサを産んでから復帰した月下のドラッグファクトリーの両立が上手くいかず、体調を崩し亡くなった。そして、同じくドラッグファクトリーで働く父親はそれにより精神バランスを崩し自分が開発したドラッグに頼るようになり廃人となった。残されたメイサは家族も身寄りもない使い捨ての特殊部隊・ムーンシャドウに強制加入となり、地獄の中で心が折れたまま成長した。

(……)

 それを聞いた竜史は自分の中でその全てを消化するように瞳を閉じた。

 すると、蘭子は花を変えた花瓶を持ち戻って来る。ふと、メイサと蘭子の視線が合い互いに意味深な顔をする。そして、少しの雑談をし二人はメイサの病室から出る。だが、蘭子だけはメイサに引き止められ竜史は渋々病院を後にする。

「ようやく二人になったわね。話は何?」

「今度時間を作りなさい。貴女に話したい事があるわ」

「偶然ね。私もよ。竜史の準決勝が終わってからならあんたも外にでられるほど回復してるわね?」

「えぇ、その時に話しましょう」

「竜史の面倒は私が見るから安心してよ」

「そんな心配はしてないわ。貴女なら竜史を任せられる」

「何よ神妙な顔をして……安静にして早く治しなさいよ。またね」

 言うと、蘭子も病室を出て行く。それを見送るメイサは名残惜しそうな顔をして手を振った。

「貴女なら、任せられる……」

 悲しげな瞳をし、両手でシーツを握りしめながらつぶやいた。

 そのシーツの手元に、数的の雫が落ちた。





 翌日に延期された準決勝の太陽竜史VS虚無隼人の試合開始前――。

 選手控え室ではストレッチをし、身体をほぐす竜史と蘭子がいる。

 不安を隠しきれない顔の蘭子は屈伸をする竜史に意を決して言う。

「……ねぇ竜史。正直、このままじゃ勝てないわよね? 虚無の実力はあの研究所で戦って実際にわかってる」

「勝てる勝てないじゃない。勝つんだ。俺は今までの試合で色々な人間の闇を見てきた。その闇に希望の光を照らし出せるのは俺のサンライト。だから俺は勝つ」

 微塵も自分が敗亡すると思っていない竜史に感動さえ覚えるが、現実にはまだまだ力の差は歴然とあるであろう。この試合の勝者に全財産をかけた蘭子はそのチケットを握り締め考える。

(……まさか全財産の十万円を賭けたとは思われたくないわ。誰も竜史の勝ちには入れてない……やっぱこの試合には……)

 声を失う蘭子に竜史は首にかかるペンダントを外し、

「じゃあこの親父の形見のペンダントを預けておく。無くすなよ」

「預かる。だから死なないでよ」

「俺を誰だと思ってる」

 フッと笑い、赤い長ランをひるがえし控え室を出る。

 そして大観衆が見つめる準決勝二回戦の武舞台へと上がる。

 今日はメイサと同じ黒いメイド服を着たパン子と目が合いうなずく。

 すると、ざわざわと賑やかだった会場の雰囲気がある人物の声により消えた。

「キョオオオオオオオオオーーーーーム!」

 その相変わらずの叫び声に竜史は微笑む。選手入場口から歩いて来る一人の美男子に全ての人間が恐怖している。真っ白な長い髪を揺らし、純白のラメが煌くスーパースターと呼ぶに相応しいオネエは突如飛び上がり、空を軽やかに舞いながら武舞台に着地した。

(……緊張もなく、焦りもないいい精神状態ね。壊しがいがあるわ)

 この一週間ほどで明らかに成長している竜史に興奮した。そして、パン子は開始まで後三十秒という時間を腕時計で確認する。ゲスト席で見守る光史朗は秘書にワインを注がせてショーを堪能する準備を整える。空間が歪むほどの重力を帯びる虚無は悪魔の右手を突き出し、

「昨日、貴方は私のラボに来たわね? そしてラボの事ごとくのキメラを消した。あの炎の焼き加減はヘルズのものではないわ。説明してもらいましょうか?」

 竜史は昨日の準決勝の最中に起こった虚無ラボラトリーで起きた事件を説明した。ラボにいるキメラを取り込んで真希が復活した事。そしてカプセルで調整されるヘルズドラゴンZを引きずり出した真希を始末した事の全てを。

 その話の全てを聞いた虚無は納得し、微笑む。

「……あの子、そこまで成長してたの。他者に憧れていた思いの強さで獣になる細胞を押さえ込んで取り込み、私の最高傑作だった自我を持つ生体兵器であるカッパライダーさえ上回った……女の嫉妬心は恐ろしいわね」

「何だ? お前も女心はわからないのか?」

「口先だけが達者なんて事にならないようにね。太陽を生み出す為なら私は何でもするわよ。何でもねぇ……」

ペロリ……と唾液たっぷりの舌先をグロスが塗られる下唇に這わせる。

 ゾクッとした竜史の全身に寒気が走る。

 ここまで自分の欲望に忠実な虚無は初めて見る。

 だが、この一月近くの間に様々な敵と戦い、その中で仲間も生まれ自分自身も成長している。

 敵がいかに強大な闇だろうとも、自分のサンライトならばそれを光で浄化し照らし出す力があると信じている。背後の場外で祈るように待つ蘭子。同じく武舞台で試合のジャッジを取り見守るパン子は竜史を見てうなずく。会場の女子生徒達は一様に太陽竜史と書かれた赤いタオルマフラーを掲げる。

 その光景をゲストルームから見下し月下光史朗は煙草に火をつけた。

 それを合図にするように準決勝二回戦が始まった。

「太陽竜史選手のサンライトスラッシュの猛攻が続きます――一体何発続くのでしょうか!?」

 開始早々のパン子の叫びは誰の耳にも聞こえているが、聞こえていない。ひたすらに全力のサンライトスラッシュを繰り出す竜史に観衆は視覚に集中しすぎて全ての感覚が鈍っている。それほどに竜史の技の鮮明なオレンジの閃光は鮮やかで凄まじかった。

「――ラスト!」

 掛け声と共に放たれた一撃が虚無を一文字に斬り下ろし、オレンジの炎に焼かれる敵を大汗をかきながら見た。すると、伸びてきた手につかまれ引き寄せられる。衣服や肌を焼かれながらも平然とギラギラとした瞳で竜史を見据え、

「十発ね……熱いわぁ……ゾクゾクする」

「……のおっ!」

 つかまれている手を振りほどき、蹴りを入れる。同時に虚無の身体の炎は消え去り竜史の身体は宙に浮いて行く。動かない身体に違和感を感じていると、虚無の声が耳に響く。

「グラビティマニューバ」

 まるで傀儡師のように両手から黒い帯のようなものが展開し、竜史の全身を拘束していた。中空でピエロのようにもがく竜史を蘭子も見つめる。

「重力でサンライトの炎をガードしてたけど、やっぱり突破されたわ。後、一撃打ててたら深手を負ったかもしれない」

「今のが連続技の限界だと思うなよ? 俺にはまだ切り札が……」

「当然よ。ここで貴方の全てを吐き出させるわ。私の髪を焼いた以上、楽しませてもらうわよ――」

 ガスッ! と問答無用で地面に叩きつけられる。その落下により左肩を脱臼した。そしてまたグラビティマニューバの身体拘束で身体を上空に持ち上げられ、無様に空中でピエロを無理矢理演じるはめになる。急激な上下動は竜史の三半規管をマヒさせていき、平衡感覚を奪っていく。そしてまた地面に叩きつけ、今度はあばらと左の指を骨折した。

「何度……何回繰り返すのよ」

 悲痛な思いで蘭子は意識を失ったまま地面に何度も叩きつけられる竜史を見る。

 すでに浮かしては落とすを十回繰り返している。

 観客達も血ダルマになる竜史が生きているのか死んでいるのかさえわからず絶句する。

 試合前に竜史に借りたペンダントを握り締める蘭子は何かを悟ったようにつぶやく。

「……この大会のルールは時間制限が無い。だから……」

 試合中に相手をいくらでもなぶれるという事――。

 ふと、蘭子はこの場にいないメイサの一回戦の開始前の言葉を思い抱いていた。

「だからメイサは始めに大会のルールを恐ろしいと言ったのね……竜史っ!」

 すでに虚無は重力で編まれた糸で竜史の肺や骨に干渉させ激痛を与えていた。

 その姿は生きている人間とは言いがたく、審判としてパン子は言う。

「虚無隼人選手……すでに太陽選手は死亡しているのでは?」

「オーラはさっきより強く感じるわ。だからまだ生きてる。身体の内部まで干渉してるのに呻き声すら上げないのは驚嘆に値するわ。殺しがいがある」

「なら、このまま場外にもテンカウントで試合を終わらせる事は無いという事ですね?」

「テンカウントや場外なんかで試合の結果はつかないわよ。どちらかが消えるまでは終わらない戦いなの」

 歯を食いしばるパン子はすでに微かな息さえも消えそうな竜史を見ても審判という業務をしている以上、引き下がるしかない。それでも竜史のそばから引き下がらないパン子を恫喝するような瞳で見た虚無は、

「お嬢ちゃん、場外でジャッジしなさい。武舞台にいられたら殺すかもしれない」

 全く光の無い目を向けられパン子は場外に退避し審判業務を行う。

 それからも幾度と無く同じ行為が行われるが竜史は反応も何も無い。

 地面に落ちたら開始されるカウントは9カウント目で消え、どれだけカウントを取ってもテンカウント前に無理矢理起こされ帳消しにされる。場外で見守る蘭子は限界に達する思いを爆発させていた。

(もう我慢ならない……虚無の首を取る)


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