三幕~少女達の挽歌~
月下山脈の一角の森で赤い作務衣を着た少年と黒いメイド姿の少女が激闘を繰り広げている。互いの獲物が火花を上げ、激しい斬激の応酬が繰り広げられる。少年の持つ刀が弾き飛ばされ鋭いサーベルの突きが繰り出され胸元に迫る。オレンジ色の炎が発光し少年は両手で丸い円を描く。
「――チッ」
シュワアアッ! とサンライトが煌き、そのサーペルは渦のような炎の螺旋に軌道を強制的に変えられる。同時に少年の手刀がメイドの首筋で止まり、メイドの左手は太ももにベルトのホルスターに収容されるナイフを首筋に軽く刺していた。
「ギリギリで俺の負けか」
「動きはよかったわよ。けど、もう修行にはならないわね。これ以上やるならどっちかを倒すまでやらないとならない」
「だよなー。ガチの実戦じゃないとサンライトの応用が本当はどこまで出来るのかがわからん。さっきの突きの軌道をそらせたのも出来ているかは疑問が残る」
前回の試合からサンライトの応用を見せ始める竜史は一つの限界点を向かえていた。
ある程度の修行だけでは自身の今の段階を乗り越える事が出来ない所まできている。
もう一週間もない決勝までの日々で実戦は二回しかない。
(準決勝は二日後。間違いなく虚無に当たる……怪我や重傷承知でメイサにガチで戦ってもらうか? それしか方法が……)
顔に焦りの色が隠せない竜史の目の前に一振りの朱鞘の刀が渡される。
それは月下グループの研究員であったメイサの父親の形見だという。それを前回の戦いで刀が折れた竜史に渡すという。
「形見の刀なんだろ? そんなんもらえるかよ。この刀でいいよ。絶対に折れない刀なんてない」
「いいのよ。過去の思い出は心の中にある」
グッ……と押し付けられるように京雅を渡された。この三ヶ月近くの間にこのメイサに色々と調教され肉体的にも精神的にも成長した。響姫から武道大会を盛り上げる為に派遣されてきたこの女に対しては多少なりとも愛情を感じている。恋愛感情とは違う苦難を乗り越えてきた戦友のような感情があった。大会が終われば解消される関係とはいえ、竜史にとっては家族であり、友であり、母のような存在である。
(……俺を認めてくれてるのはわかる。だけどもうこの日々が最後のように突き放された感覚……そうだ。親父がこのペンダントをくれた時の感覚……)
胸元にある白いペンダントに手を当て、目の前のメイサを見る。
「竜史。もう相手の命を考えて戦っても無駄よ。月下ヒカルは今までの相手を全て抹殺してる貴方の優しさはいずれその身を滅ぼす」
「別にこの大会は殺人ショーじゃないんだ。殺さないにこした事は……」
「優しさだけじゃ何も守れないのよ!」
突然叫んだメイサに竜史は驚愕し、数秒間見つめ合う。その烈火の瞳はいつものメイサのものではなく、父親に対する思いが溢れていた。スッと目をそらしメイサはその場を後にする。メイサの父親の形見の刀・京雅を握り締め竜史は頭上の満月を見上げた。
そして翌日の昼過ぎに一つの事件が持ち込まれた。
「死体が出た?」
重い顔をした蘭子は久しぶりに月下学園の宿舎に戻り自分の荷物を竜史の部屋に運ぶ為に訪れると、最近生徒の行方不明者が続出していて月下学園の生徒達は夜は宿舎でも集まって寝るようになっていた。夜になると奇怪な声がしたりする為、魔獣が武道大会の騒乱に呼び寄せられて付近をウロウロしているのではないか? という噂が生徒達の中で持ち上がり、なるたけ光を使わないようにして生活をしている。学園内の警備はあくまで生徒達の自主警備を任されている為に蘭子は竜史に原因の調査を頼みに来た。先の虚無ラボラトリーで遭遇したヘルズドラゴンが現れているのではないかと思ったからである。
「やっぱ、変じゃないか? 足とかスースーするし!」
「私なんていつもスースーしてるわよ。それより言葉使いに気をつけて。他の生徒に声をかけられたら女の子のように答えるのよ」
「へいへい」
その竜史は蘭子と共に女子の制服を着てセミロングのカツラをつけて月下学園に侵入していた。学園内は生徒達が大会関係の仕事があてがわれ授業が無い為に閑散としている。仕事が終わった人間が戻って来ていても主に体育館や食堂などの人が集まれる場所に集まり、一人にならないようにしていた。
「学園内には対ノラドッグ用の警戒警報が鳴るシステムや柵があるから入れないはず。ヒカルの強力な朧で操られている例外はあったが、人間を喰うノラドッグなど聞いた事が無いまさか……」
ふと、虚無のラボラトリーにいたキメラのヘルズドラゴンを思い出す。しかし、あんな化け物が学園内に現れれば校舎を破壊して回るだろうし、わざわざ金のなる木を多くの人間に見せつけるのは得策ではない。現れては消える犯人を探し竜史は月下学園の見取り図を見ながら校内を散策する。
「せっかくこんな立派な学園があるのに授業がないんじゃやってられないな。早く大会を終わらせないとならん」
「焦っても、大会はスケジュールがあるからね。後十日で全てが終わる。もう少しの我慢よ。あんたは優勝出来そうなの?」
「今のままじゃ無理さ。まだまだサンライトは扱いきれないし、実戦の中で成長するしかない……」
その竜史の前に地面に座り込み虫眼鏡で何かを探す審判である真パン子がいた。
「おい、パン子。何やってんだ?」
「ん? 竜坊か。あっちは最近起きている月下学園・生徒失踪事件の手がかりを追っている」
「それは俺達がやるからお前は帰って勉強でもしとけ」
「そうよ、パン子は危ないからそんな事はしなくていいの。小等部の子供なんだから」
その二人の言葉にカチン! と来たパン子は虫眼鏡を突き出し、
「あたしは子供じゃない! 竜坊こそ負けないように修業でもしてな!」
シュタタタ! と左右にワッショイ! しながら去っていった。やれやれ……と思いつつ竜史は事件現場の飼育小屋の裏手に来ていた。
「ここか……確かにここは死角になってるから人からみつかりずらい。あまり人もこなそうだしな」
「そうね。この飼育小屋は飼育部の人間が朝と放課後にしか来ない。月下学園の外では魔獣が出て被害にあった生徒も昔いたけど、内部では始めてよ。響姫の奴が私をまた狙ってるのかしら?」
「その可能性は否定出来ないな」
ふと、飼育小屋と校舎の間の外壁を見上げると真っ赤な血が屋上から流れて来ていた。その血の先には女豹のような魔獣がいた。
「蘭子っ! 上だ!」
「えっ――うわっ!」
ドスッ! と首の無い生徒の死体が屋上から落ちて来た。口元を血に染め上げる魔獣はムシャムシャと口を動かしている。
「あいつ……まさか本当に魔獣!?」
「でもこんな堂々と学園内に現れるなんて、、ヒアルの刺客だか虚無の差し金だかわかんないわよ?」
「そんなん俺にもわかるか。奴を始末しないと学園内がパニックになるもし他にもキメラがいたら――パン子?」
瞬間、背後にパン子が現れた。
「あれが魔獣? 竜坊。よく見つけたわね。私が退治してあげるわ。これで月下に認められる――」
「足手まといだ! 来るな!」
気が立っている竜史は怒鳴りつける。ビクッ! とすくむパン子は驚き立ち止まる。すぐさま姿を消したキメラを追いかける為に竜史と蘭子は校舎の屋上へ向かう。
「何よ……竜坊の奴!あたしを何だと思ってるの! 次の試合のジャッジがどうなるか思いしらせて――」
サッ! とパン子は女豹のようなキメラにさらわれた。ヒラリ、ヒラリとちくわぶが描かれた白いパンツが地面に落ちた。




