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サンライト  作者: 鬼京雅
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四回戦

 月下武道大会四回戦。

 メインモニターには対戦選手の名前が出されておらず、会場は騒然としている。

 武舞台場外にいる竜史達はゲストルームからマイクを通して話す男を睨んでいた。

 会場上部のゲストルームから武舞台を見下すように語り続ける男、月下光史朗を――。

「大会にはスポンサーとなるゲストがあってこそ開ける。ゲストの楽しみを作るのが我々主催者だよ。この試合は三対一のパーティバトルに移行する。強権を発動する以上、私もリスクを負う為にこの月下グループの全ての財を太陽竜史の勝利に賭ける」

 この場の支配者である男の権限で四回戦は三対一のパーティーバトルに移行した。動揺する竜史達を見向きもしない光史朗は背後にいるゲスト達を見据える。白蓮建設の社長を中心とした連中は確実に儲かる試合内容に満足する。賭けの締め切りをこの変則試合が決まった後にした為、自分の会社の金を全て賭ける者まで存在した。

 この戦いに勝てば月下グループは崩壊し、立場が逆転する。しかもこの戦いは配下の白蓮三騎衆の為、試合操作は出来ない。今までかなりの損失をこうむっていた社長達にとってはこんなにおいしい話は存在しなかった。喜びに震える白蓮は自分のグローブのような脂肪で膨らんだ両手にこの世の全ての金が納まったかのようにイメージする。

「……これなら今までの賭け金を取り戻せる。これ以上の損失は月下グループに吸収合併するしか生きる術が無くなる所だったが、これならワシが日本の頂点に……」

「残念だったな。この大会は君達の会社を潰す為もあるんだ」

 その一切の感情をはさまない光史朗の言葉に白蓮は充血させた目を向ける。

「何……だと?」

「武舞台で踊る彼等は肉体で戦い、我々は知能で先を読んで戦っている。まさか自分が大会に参加してないと思ってたのか? 本当に無能な連中だよ君達は」

 崩れ落ちるゲスト一同は黒服の支配者の煙草の紫煙に恐怖した。

 この男は自分の人生すら賭けの対象にしかしておらず、一切の保守的な考えが無い。

 その深淵の闇のような瞳は武舞台上の竜史を見定める。




「燃えるぜ!」

 ブオオオッ! と烈火のようなサンライトのオーラが空間に弾ける。温度を増していく身体の熱さにもメイサの作った試合用の特攻服は焦げもせず揺らめいている。じっと眺めるメイサと対照的に、焦りを見せる蘭子は言う。

「竜史! このまま負けて月下グループを潰しても最終的な勝ちにはならないわよ。絶対あの社長は何か企んでる」

「そんなんわーってるさ。三人だろうが四人だろうがどんと来い。金に目がくらんでる汚ねぇ奴にも、太陽の暖かさを教えてやるよ」

 観客席は無言のまま静まり返っている。本当なら竜史に対して色々と罵声を浴びせてる所だが、最近の試合の中でサンライトの太陽竜史もこの大会の犠牲者でしかない事を知ってしまった。そしてこの試合に竜史が負ければ月下グループは消えて諸悪の根源が消えたかのように思うが、実際には月下に組み込まれなければ行き場の無い自分達にとってはそれは死活問題である。二つの相反する思いの葛藤の出口が無い。それがこの会場の異様な空気感を作り出していた。メインモニターに対戦者が表示される。

 四回戦・太陽竜史VS白蓮三騎衆。

 今日は巫女姿のパン子の掛け声で試合は始まる。鯉口を切り日本晴を抜く竜史に対し、白蓮三騎衆は突如自己紹介を始めた。一番左にいるショートカットの巨乳の少女が腕を十時にクロスさせるポーズを取り、

「全ての金属は私が裁く! 骨太鉄骨のミキ!」

 次に一番右の茶髪のセミロングの胸が絶壁の少女がコマネチのポーズを取り叫ぶ。

「全ての壁は私の塗り壁! 鉄壁左官のネネ!」

 そして、真ん中のポニーテールのリーダー格の少女が歌舞伎役者のように睨みをきかせ地面に素手で一撃をかまし派手に決める。

「全ての基礎は私が生み出す! ブレイクアスファルトのアイ!」

 その三人は同時に最期の決め台詞で締める。

『白蓮建設のパーフェクトホーム! 白蓮三騎衆! 只今参上!』

「んー、ずっといたと思うが。んで、そのポージングで終わり? なら行くぜ」

「私が一週間かけて考えたポーズと決め台詞を! 許さん……」

 苛立つアイなど気にもせず竜史は動く。三対一の戦いは一気にクライマックスになるかのように高速で展開される。すでに全開でサンライトを燃やしている竜史は一人をまず倒そうと狙いをつける。

(巨乳のミキは風、絶壁のネネは雷。ポニーテールのアイは体術のみ……なら始めに潰すのは――)

 ネネの雷を回避し、その隙をミキの風をくらいアイに飛ばされる。しかし、風に流されながら竜史は大勢を立て直した。目を見開くアイは構えが乱れる。刀にオレンジの炎が展開し――。

「サンライトスラッシュ!」

『風・雷・白刃取りっ!』

 高速でアイの左右に戻るミキとネネはサンライトスラッシュを風と雷の力を合わせた合体技で防いだ。

「三人の合わせ技で白刃取りを……いいコンビネーションだ。楽しめそうだ」

『楽しむだと?』

 その言葉で白蓮三騎衆の表情が一変する。始めの甘さが完全に消え、殺し合いの様相になる。少しずつ嵐が生まれるような強風が吹き始め、電光石火の雷と野獣のような拳が武舞台を破壊していく。その連続攻撃の嵐を受け止め、回避し、反撃に出ようとする。ミキとネネは自分の風と雷に集中し、三騎衆のリーダーである体術家・アイは言う。

「やはりお前の為の大会だから戦いを楽しんでいるのか。やはり貴様は悪だ!」

「な、何だと?」

「戦いを楽しむ奴など悪でしかない! 戦いとは生死のやりとり。お前は人殺しを楽しんでいるのか?」

「俺は……過去に人を殺した事があるのは確かだ。だけど俺はその一人しか殺していない。この大会だってまだ誰も殺してないし、誰も殺さない」

「そんな戯言はいつまで言えるかな? 戦いを楽しもうという奴に、サンライトなどという異能力があるお前がこの世界を焼き尽くせるその力で全てを支配したいと思わない日が来るとでも思うのか!」

「その世の中は俺が太陽を生み出し変える。そして優しい光の中、みんなで変わるんだ」

「百年も続いた月のみが光る世界が今更どうにかなるものか。この世界は出生率が低い男が優遇され女は軽んじられる……太陽が消えた余波が人間の身体に完全に悪影響を及ぼしているのよ。これで太陽が出現したら女の身体はおかしくなってしまう。もう子を埋めなくなるかも知れないのよ!」

 その叫びを合図にしたかのようにミキの風が竜史の身体の動きを止め、ネネの電撃でもがく身体を地面に抑えつけ――激烈なバトルオーラを右拳に帯びたアイの拳が竜史の腹に炸裂する。

『風・雷・戦牙陣!』

 疾風と電撃が会場上部を突き抜け、ゲスト席の連中は光史朗意外の連中は尻餅をつく。必殺技をかました三騎衆は砂煙が晴れていく場所で眠る竜史の死骸を見る。この大会は個人戦の為、披露したのはこれが始めてであるが今までの戦いでは全て相手を葬り去って勝利している。無論、この戦いも同様に勝利するつもりでいた。

 勝たなければ生きられない――。

 それがこの白蓮三騎衆である三姉妹の絆であり大義であった。

 ふと、その長女であるアイは痛む右手を見た。黒い指なしグローブは燃え尽きて指が火傷を負っている。自分の生体オーラで拳を覆っているので武舞台を破壊するような一撃を叩き込んでも手を怪我する事は無い。つまりは――。

「三位一体か……白蓮三騎衆って合体技があってもおかしくないか。これはキツイ」

「どういう事? 私の手に怪我があり貴方が生きてるなんて……この技で死なない人間は過去にいなかったわよ」

「過去の話はそうでも今は違う。お前等全員過去に囚われ過ぎなんじゃないか?」

「貴様に私達の何がわかる?」

 その迫力に竜史は圧倒される。三騎衆の顔は過去という言葉に敏感に反応している顔である。

「今のはサンライトスラッシュ一発分のオーラでガードした。風と雷はあくまでも相手の動きを止めるもの。ならフィニッシュが必要だ。だから攻撃をしてこないアイの一撃に構えてただけさ。予想が外れてたら死んでたな」

「……確かに風雷戦牙陣の必勝は過去の話。だが我々の力はこんなものではない」

「そー言ってくれるとますます楽しくなるぜ。試合始めは気分が悪かったが、お前達は卑怯な真似ばかりする真希と同じ戦い方をすると思って胸糞悪いと勝手に思ってたが、お前達はいい奴だな。過去ばかり見ててもしょうがねー。過去をたまに振り返りつつ、今を楽しもうぜ」

「太陽が消えてから男があまり生まれなくなり、女社会になった! そんな世界を変えられるのか! 太陽も生み出せないサンライトのお前ごときが!」

「変えるキッカケを与えるのが俺だ。その為にサンライトの力がある」

「白蓮建設を傾けている貴様さえ負ければ、我々は月下に吸収されずに済む。この戦いをお前は楽しめるだろうが、この会場にいるほとんどの人間はこの試合の結末で人生が変わるんだぞ? 吸収された企業の末路がどうなるかわかってるのか?」

「吸収? まさか賭けで倒産する会社も出てきてんのか……」

 戦いながら竜史はこの試合のギャンブルで負けていく企業の末路を思った。その末路は月下に呑まれるだけであり、ある意味ゲスト席にいる人間も月下に吸収される為に存在しているようなものだ。ゲストルームからガラス窓にはりついて武舞台を見つめる。

(……あいつらも俺と同じだったのか。立ち位置が違うだけで同じだ)

 日本の企業の末路の縮図と変貌がこの会場で渦巻いていた。この月下山脈の小さな武道大会で、次なる人類の勢力地図が変わるなどここの人々は誰も思っていない。竜史は自分のサンライトという力を改めて思い、この力を正しく使うと父親を思い浮かべながら思った。


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