過ぎ行く日々
その夜。月下ビルの社長室ではヒカルが光史朗に現場までの大会経過を報告していた。光史朗は煙草を取り出し、すかさずヒカルが火をつけようとすると割り込むようにヒカルとソックリな顔立ちと、衣装の真希が火をつける。
(人真似レズ女が……白蓮建設などこの大会中に月下に吸収させてお前ごと破滅させてやる)
そう思いながら目の前のソファーに座る光史朗に今までの大会経過を報告する。隣に座る真希はファッション雑誌を広げ、ヒカルの声を好きな音楽を聞くように真横で聞いている。
「……大会も三回戦を終えました。メイサのサポートもあり、順調にサンライトは育っています」
「そうか。太陽計画はお前が中心とならねば出来ない計画。この大会の利益もあのサンライトの少年によりかなりの収益を上げている」
「経営の傾いた会社のゲストは試合終了後に月下への吸収合併を進めています。これにより、更に月下の日本統一への基盤は盤石になることかと存じます」
「日本……いや、サンライトがあれば荒れ狂う障壁となる海原を突破し世界にも光税をかけられる。私の月下グループは世界を手にする企業なのだ」
口元を笑わせる光史朗は煙草の紫煙を天井に向かって吐き出す。すると、真希はヒカルに最近の流行りを聞く。ヒカルは到底この女を好きにはなれないが、白蓮建設とは大会会場を強行建設させた手前無下には出来ない為、相手をする。光史朗に愛されたいという願望もあった。
「これが最近私が使用してる下着だ。イエローを中心にしてるが、最近はオレンジとかもつけている」
「オレンジとは意外ね。どんな心境の変化があったのかしら? 服はこれからどんなのを着る予定?」
「これから暑くなってくるからワンピースかな」
「じゃあ、じゃあ……」
その光景を煙草の煙を燻らせる光史朗は怜悧に見つめた。
(不思議なものだ。物質を消滅させる力のルナティックの力を持つこの化物に平然と触れる事が出来るなどよく出来るものだ。本当に自分の娘であったなら別かもしれわがな)
ふと、服選びでどっちがいいか聞かれた光史朗はフッと笑い、
「女の子の話に私はついていけんよ」
「じゃあ、この件についてはどう思われます?」
ファッション雑誌の下からキメラ調査報告と書かれたファイルが出された。その文字を見た光史朗は目を細め、ヒカルは戸惑う。
「虚無に関わると危険だぞ。あまりキメラに関して調べるのは関心しないな真希ちゃん」
「カッパライダーを見てからキメラが気になりますの。この山脈のどこかに研究所があるのでしょう?」
「それには答えられないな。我々月下は虚無家とは協力体制にある」
スッとそのキメラファイルの中から白蓮建設重要機密と書かれた資料が差し出される。
「これは白蓮建設の内部資料。私のお父様の全てを晒してるのだから教えて下さいよ」
「君はとんでもない女だな。嫌いではないよ」
微笑み合う二人にヒカルは嫉妬した。そしてベランダに出るヒカルは空に浮かぶ月を見上げた。その頃、竜史も月をたまたま見つめていて、太陽と月の加護を受ける二人の焦燥は加速して行く――。
※
グゴオオオッ! グゴオオオッ! と竜史の泊まるホテルの一室から魔獣の咆哮か地鳴りのような怪音が聞こえる。それはメイサの鬼のようなイビキだった。このイビキのせいでこの周囲の部屋には……というかこの別館そのものに宿泊客が存在しなかった。このメイサのイビキが魔獣の咆哮と勘違いした選手達は全員消えたのである。その問題がある402号室の前に茶髪のサイドポニーの少女が立つ。その人物は当たり前のように鍵を開けて進入した。
(……)
室内を見渡した少女は竜史とメイサが上下逆さまになり、メイサの尻に顔をうずめる竜史を見て引く。キッチンには用意されていたらしい猫缶を食べる白い猫がいて、その猫は無言のまま猫缶を食べる。そして、フライパンと包丁をおもむろに手に取り――。
「ちょっと……起きなさい! 起きてーーーーっ!」
ガンガンガンガン! と大きな音を鳴らした。
「……?」
むくっ……と竜史は目を覚ます。メイサのお尻に抱きつく竜史は目覚める。しかし、激しいイビキをかき酷い寝癖のメイサは当分起きそうにない。この日は襲撃され住める状態にない月下学園の寮から蘭子が引越してくる日だった。それをあえて無視していたメイサは眠り続ける
「とりあえず必要なものだけ持ってきた。リュックはここにおいていいでしょ?」
ザッとパンパンに膨らんだリュックを部屋の隅に置く。必要な荷物だけで来た蘭子は確実に今日の日を伝えながらも堂々と無視して眠るメイサに苛立つ。キッチンに行く竜史は水をトレイに入れ猫の前に差し出す。
「その猫飼ってんの?」
「いや、いつもどっかから侵入してくる謎の猫のシロック。ここに来た日から毎日来る奴だ。ま、こいつも仲間さ」
いつも泥棒にくるシロックに餌を与える竜史の横顔は優しい。その竜史に蘭子は意外な一面を見たと思ったが、竜史の本質はこういう人間なんだと改めて確信した。
「二人とも邪魔よ。ここは私の戦場」
『!?』
イビキが止んだと思った途端、完全に装いを整えたメイサが黒いメイド服の完璧な姿で現れ朝食を作り出す。さっきまでの姿とまるで違うメイサに唖然とする蘭子は妹の写真を部屋の隅の棚の上に置いた。朝食が出来て三人で食べ、これからについて話す。ミニハンバーグをシロックに奪われた竜史はキッチンまで追いかける。それを見つめる二人は、
「そろそろ準決勝が近くなっている。残る選手の力を確認してそれなりの対策をたてておきなさい。これからの敵は今までとは違うわよ」
「今日の試合は見に行くわよ。にしても竜史の奴は動物が好きなのかしら?」
「あいつは家族が欲しいんだろう」
そのメイサの瞳は優しく息子を見守る母親のようであった。
その後、メイサは月下グループに報告書を出さなければならないらしく月下ビルの方面に出かけて行った。そして竜史と蘭子は先に会場に行く事にした。
Bブロック第三試合を迎える試合会場はヒートアップしている。Bブロックの試合はヒカルと仮面騎士の試合に注目が集まり、この二人の戦いを早く見たいという声が多くの観客の望みだった。しかし、この二人が当たるのは準決勝までない。観客席に座る二人はポップコーンを食べながら試合を観察する。
「Bブロックはもう仮面騎士とヒカルの独壇場だな」
「そうね……」
一切の手加減もなく相手を消滅させたヒカルの試合は終了し、今は仮面騎士の試合前であった。ありえない程の非常さをみせる金髪の少女に観衆は息を飲む。
(流石だなヒカル。ルナティックの消滅の力には要注意だ。眼力の朧にもな……)
すると、観客席を出て行こうとする数人の高級なスーツを着た腹の出た親父連中が竜史を見つけ睨みつける。そして白いスーツを着た白蓮真希の父親である白蓮建設の社長が竜史に罵声を浴びせる。
「おいサンライトの小僧っ! いい加減太陽を見せてみろ! 本当にお前はサンライトの能力があんのかクソガキが!」
周囲にいる親父連中も次々に叫ぶ。それに観客席にいる生徒達は反応せず、竜史達も黙ったまま反応を控える。どこかで見覚えがある顔に竜史は、
「あれは真希の父親だな。確か初戦の後のパーティで見た事がある。……にしてもやけに荒れてるな。他の社長達も荒れてるし」
「おそらく賭けでしくったんでしょ? 自業自得よ」
「……そうなのかな?」
複雑な表情で観客席から消えて行く社長達を見る。その背後にいる白蓮三騎衆の女達の殺気に肌をしびらせながら言う。
「次、勝てば虚無戦だ。あの地下のヘルズドラゴンも大会が終わればぶっ倒す。さーて、今日はもう寝るかな」
「そういえば、何であんた逆に寝るのよ? 寝相が悪いの?」
「尻が好きなだけだ。始まるぞ」
は!? と何の躊躇いもなく問題発言をする竜史に驚きながら武舞台に現れる仮面騎士を見た。圧倒的な威圧感をかもちだす仮面騎士はヒカルと同じように相手を瞬殺して会場を後にする。圧倒的なサーベルさばきに竜史は関心し、まだ生きている対戦相手を見てうなずいた。そしてパン子は仮面騎士の勝ちを宣誓した。そしてホテルに帰還し夜になる。
すでに夜になる為、室内の明かりは消され豆電球一つがボウッと灯っている。竜史とメイサは寝ており、まだこの部屋に慣れない蘭子はベッドで眠る二人を見つめている。その寝顔は安らぎで満ちており、まるで夫婦のような一体感があった。
(竜史の安らかな顔……本当にメイサといて安らぐのね。でも私は負けたわけじゃない。だってまだ答えは出てはいないから)
竜史は一人逆に寝て二人の尻に挟まれる形で寝る。ニヤニヤと笑いいい夢を見て夜は更けていく。そして自分の運命を確信する四回戦当日を迎えた。




