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サンライト  作者: 鬼京雅
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序幕~闇の世界~

 この世に太陽が消えて百年が過ぎた。

 新歴百一年。

 太陽の消失と共に西暦は終わり人類の技術水準は大きく後退した。

 過去の人類の紛争は宇宙にまで広がり母なる明かりである太陽さえも失う事になった。そのロストサンライトの爆発による太陽光線の照射で宇宙に建造されていたコロニーは全て焼失し、地球の半分近くが焼かれた。それは黒歴史と呼ばれ人類に深い傷跡を残した。結果、人類は度重なる戦争や資源発掘による痩せた地球の大地で細々と暮らさざるを得なくなり、衰えた文明のまま何とか太陽亡き百年を生き延びてきた。海は荒れ、レーダーの類も使えない為、外の世界とは交流はなく日本は昔のような鎖国状態で文明は1990年代まで回復している。そういう日々を過ごし日本人は生活を続けている。空に浮かぶ唯一の明かりである鋭利な月を見上げながら……。

 その地球の日本の関東北部の山奥の月下げっか学園近くの山奥では花火を上げる準備をしている黒髪の少年とチュッパチャップスをくわえる父親らしき男がいた。

「やっぱ月下学園の女の子の尻は最高だな! 仕事なんか忘れそうだぜ」

「おい竜史。尻にしかれるのはいいがちゃんと働けよ……」

「わかってるさ。打ち上げるぜ!」

 手袋をはめる両手に炎を生み出した太陽竜史たようたつしは花火玉の導火線に火を付けた。親父の陽史朗は息子の力を見て微笑み、二人はその場から離れ小屋に避難する。

「竜史の奴、どこで花火を打ち上げるつもりなの? 打ち上げポイントの場所とされてる場所には誰もいないし。企業秘密なんてのは私には通じないんだから……」

 金髪の少女が独り言を言いながら月明かりのみが照らす森の中を歩いていると、火の明かりが灯る場所を見つけた。同時に、数多の花火が打ち上げられ月下山脈の山々の上空に様々な色の花が咲いた。その花火をこの山の唯一の学園。月下学園の女性徒達はパーティ会場の館から見上げていた。今の時間は午後の十時だが、太陽が消滅し月が太陽の役割をしている為に人間の活動時間は百年前とは間逆になっている為生徒達が眠いという事は無い。次々に打ちあがる花火を手に生み出す炎で打ち上げる少年を木々の間から見て狂喜の笑顔を浮かべる。

「竜史。まさかお前がサンライトだったとはな……。友人関係は破棄。死んでもらう」

 日本のトップ企業である月下グループの社長令嬢である月下ヒカルはそうつぶやきながら薄い下唇に舌を這わせた。そして長い金髪を風になびかせ指をパチンと鳴らした。

「……よし、これでラストだ。お疲れ様でした。月下学園創立九十年パーティの催しは無事に成功です」

「お疲れさん。お前のサンライトがあればマッチを買う金を使わなくて助かるぜ」

「でもサンライトを使うと疲れるよ。早く帰って寝たいわ」

「寝たいか。どのねーちゃんが気に入った? ケツのいいのにしとけよ」

「あ、アホ親父! そんな簡単に女を抱けるわけないだろ? この月下学園は女子校だけど武道にもかなり通じててみんな俺より強い」

「なら、とっととサンライトの修行して百年ぶりの太陽を目覚めさせろ。お前はいい加減選ばなきゃならない。人類を照らす太陽になるのかならないのかを」

「わかってる……このままだといつか俺の力を知った人間に利用させるのもわかってるさ。この月下学園での仕事を全て終わらせたら答えを出す。ヒカルと対をなす存在になるならあいつにも話を聞きたいからな」

「話してる間に襲い掛かって童貞卒業なんてするなよ? 相手は月下グループの社長令嬢なんだからな」

「わ、わかってるわ! ヒカルは俺より下の十四才だぞ? 大人っぽいけどまだまだ子供だ」

 すると、その二人に向けて猛然と白い影が迫る。

「ノ、ノラドック!? ぐううっ! 竜史! 逃げろ!」

 突如、陽史朗の肩に噛み付いた月下グループの軍用犬とも言えるノラドッグが襲い掛かって来る。手を噛まれ焦る竜史は手袋を捨てる。迫る一匹に蹴りをかます陽史朗はくわえていたチュッパチャップスを落とし、背後を見ると赤い目の光が無数に存在しその数は更に増えて行く。

(……この犬共、俺達を殺すつもりで来てる。どうなってんだ? ヒカルの奴はこの場所にはノラドックは配置しないって言ってたはずなのに)

 視界の悪い森の中を必死に二人は走る。その背後をノラドッグは追跡して行き、人間の集まる月下の館に向けて駆けるが、その道筋にもノラドッグは待ち伏せていた。

「これははめられたな。バレちまった以上、腹をくくるか……」

 瞳の色が変わる陽史朗は竜史の腕をつかみ、月下館とは違う方向に駆け出す。その後をノラドッグの群れは追跡し、やがて底の見えない崖にたどりついた。同時に陽史朗は振り返り立ち止まる。恐怖に震える竜史は逃げられない状況に胃の中のものを全て吐き出しそうになる。

「お、親父! ここじゃ逃げ場が……」

「覚悟を決めろ竜史。ここがお前の人生の分岐点だ」

 その陽史朗の視線の先はノラドックではなく、一人の金髪の少女にあった。

 ノラドックの群れは森の奥で息を潜めている。

 口元を笑わせる金髪の少女は月下学園の黄色のジャケットを綺麗に着こなし一見するとただの学生だが、その瞳は悪魔そのものであった。

「もう逃げられないわよ太陽親子。竜史のサンライトの力は私が利用させてもらうわ」

「とうとう気づかれたか。月下……ヒカルだっけか? 久しぶりだな」

「久しぶり? 親父の方とはお父様と親交は会ってもアタシには親交はないわよ。それよりも今まで花火屋として月下グループに仕えてきたアンタ等親子がこんな裏切り者だと思わなかったわよ。月下学園創立九十年のパーティに相応しい夜になったわ」

「だいぶ月下光史朗に仕込まれてんな。あの頃が懐かしいねぇ」

 その二人の会話に竜史は身動きも出来ずに聞き続ける。

(ヒカルに俺の力がバレた……月の加護を受けるルナティックを持つ月下ヒカルに俺のサンライトが……)

 竜史は陽史朗に言われこの世を照らす太陽・サンライトになるのを考えていたが、無理だと思っていた。目の前の月下ヒカルは年下で女ながら月を象徴するルナティックとして月を安定させ人類の明かりとして存在している。だが、百年前に宇宙戦争で爆発した太陽を今更生み出すには多くの人間の反発を買うだろう。世界にはすでに存在しない明かりであり、光税というシステムで利益を独占している月下グループにとっては死活問題になる話だからである。人類の希望になるはずの力を持って生まれながら今まで曖昧にし逃げて来た課題がこの状況を生み出している――。

「ヒカルっ! 卑怯だぞ!」

 あまりに陽史朗も竜史もサンライトの存在を認めない為、ヒカルは愛刀の白夜びゃくやを陽史朗の首筋に当てていた。じりじり……と崖に追い詰められ次第に後が無くなる。

「竜史。嘘をつくなよ。最後の問いだ。お前が百年前に消失した太陽の加護を受ける能力者・サンライトだな?」

「竜史。お前はただの花火屋の息子だ。サンライトなんかじゃ……」

「黙れよ」

 ガスッ! とヒカルの肘がみぞおちに炸裂しレイピアが胸部に刺さる。

「――! ヒカルーーーーーーーーーーーーーっ!」

 その火山が噴火するような烈火の怒りが竜史の中で弾け、髪の毛がオレンジ色に変化した。そして、ドクン……と心臓の鼓動が月が映える空から感じられる。

「その髪の色。認めたな……じゃあ、この男は返そう」

 刺していた白夜を引き抜き、ブンッ! と大きく投げ飛ばされた。陽史朗の身体は竜史の頭上を越えて行き奈落の崖の底へ向かう。身体の熱さに意識が飛びそうになる竜史はギリギリで落ちゆく手を掴む。それを目を細め見据えるヒカルは内ポケットからチュッパチャップスのコーラ味を取り出し咥えた。

「お前がいつも手袋をしてたのは花火の仕事柄ではなく、サンライトの力が安定せずに暑くて他人に触れられないから。故に手袋をしている。……現れたな。百年ぶりの太陽が」

 突如、世界中がまばゆく照らされ天に炎の塊である太陽が出現した。

 チュッパの棒を持つヒカルはペロッ……と舌先でゆっくりと、時に激しく黒い飴玉を舐め回し五光のような輝きを放つ太陽に見とれていて動かない。

『……』

 同時に、この月下山脈の人々はその太陽を目を細め見上げている。無論、世界中の人々も天変地異か? と思いながら空の太陽を見つめた。

「親父、早く上がれ!」

「へへっ……悲劇は突然来るって話を聞いたことがあるが、どうやらここが今生の別れになりそうだな」

「何言ってやがる! 早くっ!」

 腹部から大量の出血をしながら手をつかむ陽史朗の手は火傷をしていた。サンライトのオーラで常に身体が熱い竜史に触れると普通の人間は火傷をしてしまうのである。このままでは崖に落ちる父親を助けられない。それを見るヒカルは自分の手を見て苦しそうな顔で呟く。

「触れられないのは辛いものだ」

 そして、父と子は最後の会話をしていた。

「竜史、男としてここが正念場だ。俺は死んでもお前を信じる。母ちゃんもお前を信じてる。世界をお前のサンライトで照らしてやれ……」

「勝手な事言うな! 俺は、俺は……」

「最後のプレゼントだ……受け取れっ!」

 首にかかるペンダントを投げ、陽史朗は笑ったまま奈落の崖に落ちて行った。

 手に取るペンダントを握り締め竜史はおもいっきり叫んだ。

 その悲しみは空の太陽をゆっくりと消滅させて行く。

「太陽が消えたと思ったら、親父が死んで激情が収まったのか。髪も黒に戻ったな」

 また口にチュッパをくわえヒカルは言う。崖の下を眺めたまま呆然とする竜史を痣毛笑うかのようにつぶやく。

「私には月の力ルナティックがあるが、この力の本質に覚醒したら必ず自分の両親を殺すはめになる。力が人を孤独にさせ、その孤独が王になる絶対条件らしいぜ」

「……また、俺のせいで死んだのか」

「両親を殺す手間は省けただろ?」

「……俺が母親がいないのを知ってたのか? お前は両親を殺してルナテックを安定させたのか? そんな……方法で」

「私の本当の両親はいないが、そのおかげでルナティックは安定している。案外、義父の月下グループでは私は孤独なんだよ」

「そうか。で、俺を人体実験にでも使うのか? それとも見せしめに殺すか? どうなんだよヒカルっ!」

 あまりにもの恐怖の為、竜史は唾を飛ばしながら喚く。地面に膝をつき目を充血させる竜史に鋭利な三日月を背後にするヒカルは言う。

「武道大会だ。今から二ヵ月後に月下武道大会を行う。場所はそこの山の一角を改造して闘技場を作る。日本の有力な企業のトップも集め、マネーゲームを行い収益も得る。お前はそのゲームの主役だよ太陽竜史」

 そう、月下ヒカルはこのサンライトの能力者を餌にして武道大会を開き、日本を完全に月下グループの手中に収めようという計画があった。大会中に竜史を成長させ太陽の力を民衆に思い知らせ、理解させる。そして太陽の光に慣れない人々の心を恫喝していき月の力であるルナティックのヒカルが人間の頂点に立つ。それが月下武道大会の行われる理由の全てだった――。

(大会に出なければ花火屋仲間も殺される。……俺の為にこれ以上人を死なせるわけにはいかない。これは逃げられない戦いか)

「大会会場作りに時間がかかるからせいぜい腕を磨いておけ。生意気な目つきだ」

 スッと瞳が蛇のように縦に収縮し動いたヒカルはガッ! と頭を踏みつけ地面に顔を沈ませる。女王のように優雅に高らかに笑い、くわえているチュッパチャップスを口から吐き出し、

「舐めろ」

 と言った。屈辱にまみれここまで俺を馬鹿にするのかと涙を流す竜史はささいな抵抗で無視をする。早く舐めろよと言わんばかりにベッ! ベッ! と容赦なく唾が飛び顔面が唾液まみれになる。死の恐怖を感じた為、仕方なくそれを口に入れ芋虫のようにくわえ舐める。満足げなヒカルは惨めに踏まれる少年の悲壮な顔に満足し、

「これが飴と鞭よ」

「……使い方が違うぞ。があああっ!」

「そんなのいいのよ。アンタは二ヵ月後の事だけ考えなさい。今のままじゃ話しにならないから調教をするメイドを派遣してあげる。月下武道大会の開幕が楽しみだわ」

(俺の覚悟が無いばっかりにこんな事に……俺が優勝して百年前までこの暗闇の空に輝いていっていうサンライトを輝かせてやる。親父、俺はやるぞ……)

 無様な姿ながらも心だけは折れないように意識を強く持ち、手の中の陽史朗が死の間際にくれたペンダントを握り締め決意した。ミュールから漂う少し酸っぱい足の匂いが顔にかかる唾液の甘みと絡み合い、竜史は鋭利な三日月を見上げ意識を失った。


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