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コリスおばさんの婚活のひみつ --四十路Sランク魔法使い引退して婚活をはじめたら意外とモテて困る- ※お試し版

掲載日:2026/09/30

※本作はお試し版です

 詳しくはあらすじ欄をご参照あれ

●

「コリス、お前もう冒険者やめろ」


「きゅ?」


 リス獣人用のデカドングリをのんきにかじっていたコリスは、まさにリスが小首をかしげるような仕草で愛くるしく首を傾げた。


 コリスと冒険者仲間達一行は、一仕事を終えて、帰路の野営中だった。


 岩場の陰に陣取って、焚き火をつけ、テントを張り、結界を施して、夜が明けたら町に帰りつくというリラックスした一時。


 五人の冒険者らはなごやかに「今回の稼ぎであれを買おう」「休みのうちに何をしよう」等と次にやるべきことを語らっていた。


 コリスは特大のしましま茶色いしっぽをふんわりベッド代わりにして敷布に横たわり、デカドングリの硬い殻をかじってはぺっぺと吐き捨てて、ようやく実に辿り着こうとしていた矢先だった。


 重厚な竜素材の銀灰色の鎧を纏ったリーダー、ガンゼム。

 彼は重々しく、白髪交じりのひげに被われた口を開く。


「コリス、お前、今年でいくつだ?」


「きゅう? ぼく39だけど?」


 コリスはこう思った。


(え? なんで? ガンゼムの方が五つも年上なのに? まだぼく39なのに?)


 コリスは小首をかしげる。

 しかし一方、新米冒険者のふたり、アンとウーンは木のコップを落とすほど驚いていた。


「コリスさん、39!? ウソですよね!?」


「39の、ぼくっ子……!? マジかよ」


 宝箱の中に金貨がザクザク入っていた時よりもふたりは目を見開いている。

 コリスはくすぐったそうに照れ笑い。


「いやぁー、ぼく39には見えないよねー。若々しくてかわいいって証拠だね☆」


 ぱちりんこ。

 愛嬌たっぷりのウィンクスターを、さっと新米アンとウーンがナイフをかわすように避ける。


 客観的評価。

 コリスを見た時、ほとんどの人はまさか39才だとは想像だにしない。


 理由は三つ。

 一つ、種族が異なると年齢がわかりづらくなる。

 二つ、とびっきりかわいい。

 三つ、センスも言動も年相応ではない。


「もしかしてリス獣人って……」


「長命種なん、すか? 数百年生きるとか」


 ガンゼムは静かに首を振った。


「人間と同じだ。生命力が高い分、少しだけ衰えるのが遅いが、誤差だ。エルフとは違う。数字通りの”四十路”だ」


「ぼくまだ39!」


「次の誕生日はいつだ?」


「来月!」


「四十路だな」


「まだ三十路だって、ダメだよ数字は正しく数えなきゃガンゼムくん」


「……鯖読みしないだけマシか」


 ガンゼムは肺の奥から淀みを吐く。


「コリス、引退しろ」


「なんでさ!? ぼくまだ戦えるよ! つよつよのつよだよ! ほら、どんぐりだってガジガジかじれる! 元気だよ!」


 コリスは納得できない。

 跳んでも跳ねても、まだ何ともない。傷ついて引退した冒険者をいっぱい見てきたが、幸運にも、コリスは五体満足だ。


 まだまだ戦えるのに引退しろだなんて急に言われたって、とコリスは食い下がる。


「まだ伝説の七と十一の竜王を二匹しか倒せてないし! 六つ子の金貨は三枚だけだし! 黄金の果樹林だって、まだ!」


「……お前の夢は、大冒険だけなのか?」


「きゅ」


 コリスは黙らされた。

 ガンゼムは黙った。


 二人の間に沈黙が横たわる合間に、新米のアンとウーンは吟遊詩人の鳥人ヴォンジーリに「夢って?」とたずねる。


 ヴォンジーリはリュートを軽く鳴らしてそっと答える。


「素敵なお嫁さんになって、しあわせな家庭を築くことサ。ここ数年、すっかり言わなくなってたけれどネ。その夢を捨てたとは、確かに言ってないネ」


 ポロロン。

 古参の三人の事情がよくわからない新米ふたりは、うまく言葉がかけられなかった。


「俺も、引退する」


「ガンゼムも!? なんで!? ぼくのせい!? やだよ!?」


「違う。俺も――」


「おれ、も?」


「結婚したい」


「今更ぁぁぁぁぁーーー!? 四十四なのに!?」


 ガンゼムは鉄面皮だった。

 顔色ひとつ変えず、鉄壁の防御で答える。


「長年、冒険に人生を捧げるつもりで生きてきた。全力で戦った。楽しかったさ。だがな、七と十一の竜王の二匹目を倒したところで悟ったんだ」


「なにを」


「流石に、二十五年かけて二体しか倒せなかったドラゴンを、あと六と十匹も倒すのはーー一生かけても無理だ」


「一年で一匹殺そう! それでいけるよ!」


「それでも十六年かかる!! 俺は六十、お前は五十五だ! しかも、お前は、六つ子の金貨も集めるつもりか……?」


「孫の代まで頑張れば、いける!」


「その孫、どこから湧いてきた」


「へ?」


「孫は――婚活しなけりゃ、夢のまた夢だ」


「そ、そんな馬鹿なぁ!?」


 ガンゼムとコリスは真剣に絶望していた。

 自分の代では、どうあがいても達成不可能だという壮大すぎる目標に。


 新米二人はさぞあきれていたことだろう。

 神話級の偉業を成し遂げた最強の冒険者ふたりが、こんなアホなことに苦悩するとは。


「あはははは……。私達は早めに引退して、ちゃんと結婚しようね、ウーン」


「ああ、絶対に幸せにするからな、アン」


 新米冒険者ふたり、アンとウーン。

 見つめあうふたり。

 ここでガンゼムとコリスは意見が一致した。


「お前らは」

「追放だぁ!! とっとと財宝もって故郷に帰りなよ!! お幸せに!」


 こうしてパーティは見事、崩壊した。

 それぞれの輝かしい未来を願って。


「まって!? ぼくの婚活は!? 結婚は!? モテモテはどーなるの!?」


 がんばれコリス。

 まけるなコリス。

 きらきら婚活がキミを待っているぞ。


お読みいただきありがとうございます。

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