プロローグ
ちらほらと降りしきる雪が、咲き狂う牡丹の首を傾げさせている。今年の冬はまだ暖かいと奥羽生まれの舎弟が言っていたが、どこが暖かいのか自分にはまったく理解できなかった。ガラス戸から吹きつける冬風は身震いするほど冷たい。息を吐けば白い煙が立ち上る。
部屋から漏れるほどの笑い声が、浮ついた頭をことさらぼんやりさせた。奉仕してくれている舞妓たちは美しいものの、どうにもあの堅苦しい空気が苦手だ。自分たちは血で血で洗う荒くれ者。そんな人間が、一丁前に芸を見たところでその色っぽさにばかりに魅了され、本当に見るべき美しさを取り逃してしまうのである。
「若頭。そろそろお戻りになられては?」
「いや、もう少しここに居る。お前は先に戻って、あいつらを少し落ち着かせてくれ」
舎弟は恭しく頭を下げ、相当寒かったのかそそくさと部屋の中に戻って行った。
降り積もる雪の自重に耐えられず、椿のだらんと垂れた首がそのまま落ちた。はらはらと儚く散っていくことこそ花の最後の晴れ舞台だと思っていたが、種類によっては散り方が違うらしい。椿は落ちる。牡丹は溢れる。桜は散る。なんとも奥深いものである。
「……花がお好きなのですか」
あまりに抑揚がなかったので、自分に対する質問だと思えなかった。
「…えぇと?」
「ずっと、見ていらしたでしょう」
その女は構わず続けた。重みのある絹の袂には、緻密な染めに金色の刺繍。外に咲いている椿の柄だ。豪奢だが、物怖じせず凛と前を向く彼女とよく似合っている。
「……興味はないな。少し頭を冷やしたかっただけだ。そういう君は?」
「嗜みとして華道をやっております。雪の被った椿が一番美しいです」
「…そうだな。そうかもしれない」
真っ直ぐな目で椿を見る女。あまりに凛としていたので十九ほどかと思えば、まだ十六になったばかりらしい。この歳で、これほど肝が座っている女なんてその道でもそうそう居ない。
世俗を知らないから、恐れるものもないのか。愚かなる人間の好奇心。運命とは時に、人の好奇心によって開かれるものである。
「…君の名を、教えてはくれないか」
少女の目はとても澄んでいた。
「近衛雪紀と申します」
暖冬、という言葉が今更ながらしっくり来た。




