■ 世界を統べようとした女
「本当にいいんですね」
悪魔が尋ねた。
「えぇ、いいわ」
女が答えた。
「では"誰にも負けない力"を授けましょう」
悪魔は承知をして呪文を唱えた。勿論、死後に魂を受け取る契約をして。
「う。うっ!」
女が呻いたかと思うと、彼女の体は青白く染まり「ぎゃっ!」という短い悲鳴と共に真っ二つに割れた。次の瞬間、そこから一つ目のおぞましい姿の新しい彼女が生まれ出る。
水たまりに映った自分の姿を見ながら、
「この姿は……」
と、彼女は呟く。悪魔が途端にニンマリとした表情を見せた。
「約束は果たしましたよ。これであなたに敵う者は誰もおりません。あなたをイジメた上司や同僚に、思う存分復讐して下さい。
断っておきますが、どういう姿になるかはご指定頂けなかったのでそうなりました。ただご安心ください。もし元の姿をお望みならば、すぐに元に戻します。
ただ、力は失いますし、死後に頂くお約束の魂も、本来の寿命の半分で頂戴致しますけどね」
魂の無駄遣いをした事を知って、女はどれだけ嘆き悲しむだろうと、悪魔は笑いが止まらなかった。
「いや、このままでいいわ」
「え?」
悪魔が驚きの表情を見せたが、その顔はすぐに彼女の掌で覆い隠された。生まれ変わった彼女はその指に力を込める。
「い、痛いですよ! 離してください!」
悪魔は懇願するが、彼の顔がひしゃげて行くのを防ぐのには、何の役にも立たなかった。
「私が望んだのは、全てを壊す力だったのよ。上司とか同僚とか、そんなチャチなレベルの話じゃないわ。
もちろん容姿なんて関係ない。
全てを破壊する力なんだから、悪魔のあんただって、普通に殺せるわよね。もちろん神様だって」
悪魔は本来、自らを亡ぼす様な契約はしない了見を持ち合わせているのだが、彼は自らの策に溺れてその禁を破っていたのだった。
鈍い音が鳴った。悪魔の脳髄は、後悔の念を抱くその前に、彼が生み出した最高傑作によって握りつぶされた。
「さぁ、首を洗って待ってらっしゃい」
自分を拒絶した世界。あれだけ祈っても何も助けてくれなかった神。それらをブッ潰す彼女の復讐劇が始まった。
【続く(ウソ)】




