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1:


目覚めると夜中の二時だった。

佐々木漸ぜんは咄嗟に自らの額に触れた。汗が滲み出ている。部屋の空気がやけに蒸し暑く感じた。

起き上がるのと同時に頭痛が走る。みぞおち辺りにも痛みを感じ、何より呼吸の仕方を忘れてしまったかのように息苦しい。

「また、か……」

漸はそう呟きため息をついた。最近いつもこうだ。夢見が悪い。こうして夜中に目が覚めるのももう何度目だろうか。目覚めた後は決まって頭痛がした。

みぞおちが痛みだしたのもちょうど夢見が悪くなって1ヶ月くらい経ってからか―――。


漸はベッド横にあるライトスタンドに置いてある携帯を開いた。

メールが一通来ている。大学の友人・四宮玲しのみやれいからだった。


『明日の実験ってパソコンいる?』


このメールが来た時間は23:35。携帯が鳴っていたのは何となく覚えているから、つまりその頃漸は寝落ちしてしまったことになる。


部屋の明かりも付けっ放しであった。

漸は部屋の明かりを消すと、ベッド横にあるライトを弱にしてつけた。そして再び携帯に向き直る。


玲にメールを返そうかとも思ったが、時間を考えて返すのは控えておいた。恐らく玲は自分からのメールの返事が帰ってこないことに耐え切れずに亜佐奈にでも答えを聞いているだろう――。


漸は携帯を閉じると同時に目を瞑った。そして先程見た夢を思い返す。


妙な夢だった。風呂場――このマンションとよく似た風呂場だったが――に漸は立っていた。手にはナイフを握っている。何の感情も浮かばなかった。ただ、やらなければならない――そう思った。

そして漸は、自らの首にナイフを突き刺した――。

そこで目が覚めたのだ。


夢にしてはやけに現実味があった。

何より怖いのは、最近見る夢が全て"自分が死ぬ夢"なのだ。

繰り返し死にゆく恐怖。

それは自らの存在を幾度にも渡り消されるという感覚。

漸は手足が冷えていくのを感じた。


こうして夢で一回、また一回と死にゆくたび交通事故で帰らぬ人となった両親の事を思い出す。

漸の両親が帰らぬ人となったのは漸が11歳の頃――今から9年前の事である。

高校を卒業するまでは17歳年上の従兄弟の一人暮らしの住まいに住まわせて貰っていたが、大学に入学してからは今こうして一人暮らしをはじめている。

死ぬ夢を見始めたのは一人暮らしをはじめてからちょうど3年目に突入したころ―――今から二ヵ月前くらいからである。


夢で体験する死は全て身が凍り付くようなものばかりだ。父さんも母さんも、こんな思いをして死んでいったのか―――。

そう思うと心が傷んだ。


それから暫くあれこれ考えていたが、漸は一息つくとベッドに再び横になった。

考えたって仕方がない。

きっと最近疲れているから、こんな夢を見るのだろう。また寝て朝起きれば、きっとこんな夢の事など忘れるはずだ。

明日は午後から実験もあるし――寝ておかなければ。


そして漸は再び眠りの世界に落ちていった。

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