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「なんだ?」
「名前は? 私はノアだ」
「ああ、おれァクール・レイノルズだよ。アンゲルス1のロックンローラーさ!!」
「ロックンローラー、ねェ。曲でも創っているのか?」
「ああ、もし耳が無事だったら聴かせてやるよ」
「上等だ……!!」
ノアとクールは納得したかのように、ホテルから出ていった。やはりメリットは置いてきぼりである。とはいえ、クールは元をたどると自分を追ってきた者だ。放置もできないので、仕方なくふたりへ着いていく。
*
「良い廃工場だな。資本主義の欠陥を感じるよ」
「資本主義ってのも、人間の作り出した理想だ。理想に現実は混じってないからな」
「言えているな」
そんな兼ね合いとともに、ノアとクールはすこし距離を遠ざけ合う。
「なあ、最初から全力と徐々に強化されていくの、どっちが良い?」
「どちらでも」ノアは淡白な返しだ。
「そうかよ、随分余裕かましてくれるな。魔力も漂わせてねェくせに──よォ!!」
刹那、クールの手に炎が舞った。それらは一直線にノアへ凄まじい勢いで飛び跳ねていく。
が、ノアは腕を組んだままなにもしない。まるで、攻撃をくらわないことが確定しているかのように。
結果、ノアは煙の中から現れた。黒い鷲の羽根が舞い散る中、その銀髪の幼女はニヤリと笑う。
「よう、準備運動は終わったか?」
クール・レイノルズは、思わず息を呑み込み、その直後高笑いを飛ばす。
「はははッ! オマエ、強ェなぁ!! ガキンチョのくせによくやってるよ!」
「年齢なんて、戦場にいれば関係ないさ。みんな対等に死ぬ可能性があるんだ」
「そりゃそうだ! よーし、もう侮らねェ!」
クールは無邪気に笑い、胸元からナイフを取り出す。それをノアに向け、その瞬間、
「ごはあッ!?」
(ナイフを照準に内蔵を焼き払った!? この野郎ォ!!)
ノアはのたうち回った。内蔵が焦げる感覚が、小さな彼女を苛む。このままでは死ぬ。内蔵を焼かれて平気な人間などいない。
そんな中、
ノアの胴部へ、周りに飛び散る黒い羽根が当たった。そのときには、彼女は「ふぅー……」と一呼吸し立ち上がっていた。
「羽根が回復術式なのか?」
「手の内を教える馬鹿がどこにいる……!!」
それでも、ゲホゲホと咳き込んでいることには変わりない。
「退屈なこと言うなよ~。だったら、おれは種も仕掛けも教えちゃる」
クールはなんの変哲のないバタフライナイフを、天に向けてかざす。
そうすれば、空から避けきれないほどの溶岩が現れ、天井が瞬く間に倒壊した。
「おれは炎を操る魔術師だ。まあ、こりゃマグマかなにかかもなァ!!」
当然避けきれない。空から降ってきている以上、交わすことはできない。当然、瓦礫すらも。
なら、受け止めるしかない。ノアは辺りに漂う黒い鷲の羽根を、集合させた。カラスにつままれたかのように、ノアの周りが黒一色に染まる。
「おお、これで防御しようってか!?」
「いいや、違うな──」
ノアは羽根を一枚ずつ合体させ、翼に変怪させる。背中から生える黒い鷲の翼は、溶岩に触れた途端、それらをサイコロステーキのごとく切り裂いた。
「──コイツは、攻撃のためのアクセントだ」
ボタボタ……と、マグマが滴り落ちる中、ノアとクールは共に不敵に笑う。
「似合ってるじゃねェか。その背中から生えてる、鷲みたいな翼」
「鷲は……私の象徴だからな」
ノアは少しずつ、穴が空いた天空に向かって浮いていく。翼からは黒い羽根が次々とこぼれていった。
「天空の覇者は大鷲。これが私だ、私そのものだ……!!」
そして、羽根が意思を持ったかのごとく動き回る。一つひとつに殺傷力抜群の硬さと切れ味を持った羽根が、クールを切り裂くべく右往左往に動く。




