8
「さあ。ただ、アンタが言ってた超能力者っていうのが関係してるんじゃない?」
「そうかい。なら、オマエは悪くないな……」
「ホントにキツそうね」
「当たり前だろ。血吐くなんていつぶりだ? クソッ」
「ま、アンタは〝悪魔の片鱗〟も使えない落ちこぼれってわけね」
「〝悪魔の片鱗〟? なんだよ、それ」
「魔力を放出する術式」
「もうすこし説明しろよ」
「面倒臭い……。魔力は未だ解明の進んでない未知の素粒子って言われてて、悪意を強く持つ者は相手を傷つける片鱗を、善意が強い者は誰かを回復させるほうを扱える」メリットは言葉を区切る。「まあ、大半のヒトは善悪の概念なんて曖昧。だから両方ともある程度使える。でも、どちらかが強く現れるヤツは、より強力な悪魔の力を使えるってわけ」
そりゃあ、自分が善か悪なんて、大半の人間には決めがたい。人間は全知全能でもなんでもないからだ。ただ、メリットは即座にノアを悪意の塊だと捉えた。可愛らしい銀髪少女を、である。それにも、なにか裏があるのだろうか。
「なあ、メリット。オマエはなんで、私が悪意だらけだと思った?」
「魔術使えば分かる。どうせ、魔術理論を理解できないヤツへ言っても無駄でしょ」
「横暴な女だな……、誰がオマエを匿っていると思っているんだ──」
そんな言葉を口にしたとき、
オートロック付きの入り口ドアが、ガコンッ!! という音とともに倒れた。
「……、クソガキ。下がってて」
「なんだよ、泥棒くらい対処できるって」
「良いから!!」
メリットの語気に並々ならぬものを感じたノアは、そこまで言うのであれば、と椅子に座る。
「メリットォ、探したぜ!!」
「……こっちは探してくれ、なんて頼んでない」
「そんなこと言うなよ! オマエ見つけて家へ送れば100万メニーだぞ? こんな美味しい仕事なんて、そうはねェんだから!!」
ノアは、この会話で悟る。メリットを追っている者は、反社会勢力の一員、それも位の高い者であると。軽いセリフだが、語気はのしかかるように重たい。目はギラギラと光っていて、実力はあるが、まだ天辺を掴んでいないように感じる。
とはいえ、これはメリットの問題だ。ノアは悠々と高みの見物と洒落込こうとする。
が、
「あれ? 子どもってふたりだっけ? でも髪色が違うし、勘違いか」
そんな茶髪メンズパーマの巨漢に、ノアはフッと笑い、
「そんなわけねェだろう。私はそこのメリットの妹だよ」
なんというか、悪いくせだ。前世では希少だった超能力者を見つければ、必ずこんな風に煽って闘おうとしていた。その悪癖が、まさに口へ出た瞬間であった。
「おお!! そうか! なら、オマエも連行な!」
(本物のマフィアは目がオカシイ。クスリか、アドレナリンか。いずれにせよ、コイツは強ェぞ……!!)
その男の目の色で、ノアの身体が武者震いを起こす。こうなってしまうと、闘いでしか震えを抑えられない。
「アンタ……」
「でも、メリットは家に戻りたくないんだとさ。その場合、どうするつもりだ?」
「死なねェ程度に死んでもらうかね。いや、そんなことしたら、報酬カットだな……」
「だったら、私とサシでやるのはどうだ?」
「あァ? ガキに手出しできるかよ?」
そういえば、ノアのいまの姿は幼女だった。ただ、その程度でへこたれる幼女ではない。
「私は姉のオマケBだよ。どんなに痛めつけても、親は喜んで満額払うさ」
「おお、そうは思えねェけどそんな気がしてきた。よっしゃ、その喧嘩乗った!」
そんなふたりを見て、メリットは思わずつぶやく。
「単純過ぎ……」
もはやメリットは蚊帳の外である。ノアと追手のクール・レイノルズがサシでやり合う場所まで話し合っているからだ。
「──よし、その廃工場で行こう。だけど、最後にひとつ聞かせろ」




