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「なんだよ。……、私が入ったらまずいのか?」
「まずくはない」
「だったら良いだろ。あ、そうだ。パーラって子、知っている?」
「あのオタサーの姫の落ちこぼれ? 一応知ってるけど」
「ひどい言い草だな。オタクなのか」
「別に絡みないけど、オタクどもに好かれてるのは知ってる」
「オタク系、ねェ……」
この世界のオタクカルチャーがどうなっているのか知らないが、少なくともノアは前世でそういった趣味がなかった。たぶん、聞き流していた彼女の言葉の中には、ゲームやアニメの話もふんだんに盛り込まれていただろう。
「まあ良いや。オマエ、なかなか動じなさそうだし、もう帰って良いよ」
「私、家出中」
「はぁ?」
「だから、ここで匿って」
「おま、藪から棒になに言っているんだ?」
「アンタ、転生者なんでしょ? 魔術の使い方くらい教えられるから、代わりに匿って」
まあ、確かに魔術が使えれば、ノアはさらに強くなれるはずだ。どのみち面倒事に絡まれる、というか、いま現在厄介なのが来ているから、強くなるに越したことはない。
「分かったよ。名前は?」
「メリット。アンタは?」
「私はノアだ」
「そう。よろしく、クソガキ」
「クソガキだぁ? オマエ、口の利き方ってものがあるだろう」
「アンタを見て、クソガキだと思わないヒトはいない」
そんな不毛な会話を繰り返していると、
『ノアちゃん! あした、朝10時頃にホテル前行くね!』
という、パーラからのラブ・コールが訪れた。
「了解、と……。さて、いま何時だ?」
ノアはスマートフォンで時刻を確認する。
「まだ17時かよ。やることがないな」
メリットはホテルに備え付けられていたタバコに、再び火をつけていた。マイペースなヤツである。
「メリット、ここらへんで遊べる場所ないか?」
「クソガキの年齢的に、もう外出できないでしょ。ここいらは治安が悪いから、保護者なしで外出できるのは18時まで」
「ああ、そうかい……」
10歳程度の幼女が、時折発砲音が聴こえる街にひとりで外出できるわけない。しかし、眠るにはまだ早すぎる。
「しゃーない。メリット、メイド・イン・ヘブン学園について教えてくれ」
「心底面倒だけど、良いよ」
メリットはベッドに座るノアに向き直し、
「メイド・イン・ヘブン学園。通称MIH学園は、〝強さこそが美徳〟の実力至上主義の学校」
「強さこそが美徳? そりゃ恐ろしいな」
「恐ろしいに決まってる。落ちこぼれはカツアゲされ、殴られ、命の危険にさらされるような学校だし」
メリットは眉ひとつ動かさず、そんなことを言う。元マフィアで学校なんてろくに通っていないノアでも、MIH学園とやらが特別な学園なのは理解できた。
「まあ、強者になれば良いこと尽くめだけど」
「まるで強いヤツの言い草だな」
「そりゃそう。私、強いから」
よくもまあ、ここまで堂々と宣言できるものだ。しかし、そこまで断言するのであれば、メリットは相当有力な生徒なのだろう。
「飛び級はあるのか?」
「ある。実力に合わせて、小学生でも高等部に編入できる」
「なら、パーラが言ったように私は高校生からリスタートだな」
「アンタ、強いの?」
「オマエよりは」やや脅すような口調だ。
「まあ、転生者は特別なスキルってものをもらえるらしいし、それ頼みでしょ?」
「いいや? 前世から超能力者だったよ、私は」
「はあ? 超能力?」
「パーラも驚いていたが、この世界には超能力がないのか?」
「聞いたこともない」
「そうかい……」
ダウナーな声で返す。
ノアの元いた世界では、ごく一部の者だけが超能力を扱うことができた。大半の人間にとってはフィクションの話だが、現にノアはこの世界でも能力を使える。この優位性を活かさないわけにはいかない。




