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「ここは随分治安が悪いようだな。高校生からモノを盗もうとするヤツなんて、なかなかお目にかかれないぞ」
「の、ノアちゃん……魔術使えるの?」
「超能力、ってヤツだよ」
「ちょ、超能力?」
「前世で良く使っていたんだ。まさかこの見た目になっても使えるとは、思ってもいなかったが」
パーラの頭上に疑問符が浮かぶ。が、説明するのも億劫なので、ノアは目の前にある市役所へつかつかと入っていく。
「あ、待って!」
やや遅れて、パーラも役所の中に入った。
「税金のムダ遣いだろ、この役所」
シャンデリアが役所に必要なのか。赤いカーペットは? 銅像も?
「ね、ねえ。ノアちゃんって何者なの?」
「難しいこと訊いてくるな」
「さっきの動き見てると、とてもじゃないけど、ただの実業家には見えないんだもん」
「先ほども言っただろう? ……、私は超能力者なんだよ」
一人称を女性っぽく言うのも、難儀なものだ。
ただ、慣れていかなければならない。いまのノアは、誰がどう見たって銀髪の幼女だからだ。
そして、パーラの疑念は未だ晴れないようである。
「超能力ってなんなのさ?」
「そうだな……、私の場合は〝法則を自在に〟を操れる」
「魔術みたい!」
パーラは納得したのか、目をキラキラさせる。
ノアの超能力。それは至ってシンプルだ。ノアが考えた新理論、たとえば空気から酸素を抜いたり、本来くらうはずの攻撃を無効化したり、決して防御できない既存の物理法則を使った攻撃を繰り出したり、といったところか。
もっとも、ここはノアの知り得ぬ世界だ。なので、先ほどのように単純な高速移動はともかく、それ以外の超能力は作動しないかもしれない。
「ま、さっさと野暮用を済ませよう。ベンチで寝ていたからか、身体が痛いんだ」
というわけで、ノアたちはわざわざ〝転生者部門〟と書かれた市役所の5階に向かう。
*
「あー、疲れた」
根掘り葉掘り聞かれた。前世ではどの国にいたのか、何世紀から来たか、死亡時の年齢、アンゲルスでなんの仕事をしたいか。いきなりここまで訊いてきて、しかもお役所特有の事務的な態度の所為で、眠たくなってしまう始末だった。
なお、その場にパーラはいなかった。どうやらプライバシー保護の観念があるらしく、あくまでもノアは単独で実年齢まで暴露した。
「ノアちゃん、おつかれ!」
「あぁ。しばらくホテル暮らししろ、と言われたよ」
「仕事はどうするの?」
「まだ決めていない。でも、見た目的に雇ってくれる企業もないし、おそらく学生することになるだろうな」
「だったらさぁ、私の学校に来なよ!」
「は?」
「メイド・イン・ヘブン学園って学校なんだけどね、なんとなくノアちゃんに合ってる気がする!」
「ああ、考えておくよ。まあ、この見た目じゃ小学生からスタートか」
「大丈夫! メイド・イン・ヘブン学園は飛び級あるから! ノアちゃん強いし、高等部からスタートできるよ!」
ノアは小学校もろくに通っていない身分だ。独学である程度の知能はつけたものの、所詮卑しい身分なのは変わりない。だから、いっそのこと小学生としてリスタートしようと思っていた。
が、小学生の中に混じってお勉強が似合わない人間なのも事実。実年齢25歳が10歳程度の子たちといっしょに過ごせるわけがない。
「そりゃ良い」
「でっしょ! 役所のヒトからスマホもらった?」
「ああ。これだろ?」
「連絡先交換しておこ! 困ったら私に連絡してきてね!」
「ああ、ありがとう」
ノアとパーラはスマホをかざし合い、電話番号とSNSを交換した。
「んじゃ、私はホテル行くよ。すこしひとりで考え事したいんだ」
「どのホテル行くの?」
「マーキュリーホテルってところ」
「案内するよ! お姉さんにお任せあれ!」




