34 青嵐の使者
「……大物登場ってわけか」
エアーズの表情が固まる。それもそのはず。相手は、大統領候補にしてアンゲルス最強レベルの魔術師。ここで勝てれば大金星だが、勝てる相手ではない。
「サラトガのイヌが、うちの娘になんの用だ?」
クールは分かりきった質問をした。どうせ、この男はノアをさらい自白術式でも使うつもりだったのだろう。そうすれば、クールがマフィアであることは周知の事実になる。
「へッ、知ってるくせに。まぁ仕方ない。ここは一旦──」
言い切る前に、エアーズは割れた窓ガラスに向かっていった。クールは追いかける素振りも見せず、彼は気体になることで逃げおおせるのだった。
ノアは、安堵したようにその場へ倒れ込む。そしてノアからの友軍射撃をうけたメリットもまた、力なくその場にへたり込んだ。
「ッたく……、救急車呼ぶか」
クールはレイノルズ家が経営する病院へと、電話をかけるのだった。
*
「────ハッ!?」
あれから1日が過ぎ、ノアは目を覚ました。周りを見渡し、病院特有の薬品の匂いを嗅ぎ取る。安全な場所なのは間違いない。
「生きていたか……。クソッ。あの野郎、顔は覚えたからな」
鉄火場から逃れられないのが、ノアの定めだ。ただ選挙活動が終わったからケーキを頬張ろうとしただけなのに、今なぜか病院にいる。これこそ、神とやらが与えた試練なのか。
「メリーはどこにいるんだ……?」
ノアは起き上がろうとするが、激痛のあまり動けなかった。これでは、選挙活動もろくにできない。
「チッ、治るまで寝転がっているか」
ジタバタしたところで、傷口が広がるだけだ。ノアはベッドに横たわり、再び目を閉じようとした。
すると、
「ノイちゃん!」
金髪で赤い目、肉つきが良く身長はさほど高くない少女が現れた。頭には猫耳、尻には尻尾。いわゆる獣娘。ナイスタイミングだと言いたくなるほどに。
「パーラ」
「ノイちゃんが大怪我したってクールさんから聞いたから、居ても立っても居られなくなっちゃった! 怪我、大丈夫?」
「大丈夫ではないな」
「なら、私が治してあげる!」
「は?」
パーラは普段通りの笑みから一転し、真面目な表情になってノアの傷口に触れた。
彼女がノアに触れた瞬間、痛みが少しずつ和らいでいく。治癒術式、といえば良いのだろうか。
「どう?」いつも通りの笑顔だ。
「変なくらいに痛みがなくなった」
「でっしょ! 私ね、MIH学園のランクBなんだ! 治癒術式しか使えないんだけど、痛みを飛ばす魔法って格好良いよね!」
「あぁ、そうだな。ありがとう、パーラ」
「どういたしまして!」
戦闘向けとは到底思えないが、確かに有能な力だ。怪我人がいたら、パーラに頼れば治療してくれるのだから。
「でさ~、ノイちゃんくらい強いヒトにこんな深傷負わせたのって、誰なの?」
「パーラには言えないな。言ったら、パーラまで狙われる可能性がある」
「そうなの? 怖っ」
「そりゃ、この私に歯向かうだけの野郎だからな」
「んでね、ノイちゃん。学校へはいつ来られるの?」
「パーラの治癒がうまく行っているのなら、精密検査次第だけど……あしたにはいけるな」
「いぇーい! ノイちゃんと学校行けるの、楽しみだったんだよね~」
無邪気なパーラに、ノアも少し毒気を抜かれてしまう。修羅のような前世で、こんな邪気のない子はいなかったからだ。




