33 ノアVSエアーズ
「なるほどねェ……!!」
空気が波動のごとく辺り一面を破壊し始める。これでは邸宅も倒壊するだろう。しかし、ノアもこのままやられっぱなしでわけにはいかない。彼女は羽を生み出し、それを巨大化させて風のうねりを吸収した。
「へェ。掃除機みたいだな、その羽」
風のうねりが消え去る頃、ノアはエアーズの背後で浮いていた羽の元にテレポートした。咄嗟の動きに、エアーズが反応し切れないと踏んだからだ。
が、
それすらも読まれていたかのように、ノアはエアーズから肘打ちを喰らった。頼りない幼女の身体が悲鳴を上げ、ノアはその場にへたりかける。
「……!!」
「辞めておけよ。その身体じゃ、そもそも後ろに回ったところで攻撃できないだろ?」
やはり、羽で勝敗を決するしかない。だが、エアーズのような手慣れが、馬鹿正直に羽を翼にするまでのタイム・ラグを待ってくれるわけがないのも事実。これでは八方塞がりだ。誰かが注意を逸らしてくれれば、まだ勝機はあるのだが──。
「おいおい、ひとりだと聞いてたんだけどな」
ノアとエアーズは邸宅内で戦闘していた。そしてそこには、もうひとり住民がいる。大あくびしながら、その同居人は現れた。
メリットは、なにやらレーザービームのような現象を、エアーズに喰らわせながら。
「アンタら、うるさい。馬鹿騒ぎは私の昼寝が終わってからにして」
エアーズは愉快そうに笑い声を張り上げる。
「なるほど、なるほど。大変結構! 聖女候補もいっしょに暮らしてるのか!」
レーザービームを喰らったはずのエアーズは、それでも全くの無傷。まるで実体がないかのように。
「メリー……」
「クソガキ、早くあの翼を作って。それまで私が時間稼ぎする」
思いも寄らない、無表情な援軍はそう断言した。
「あぁ……、ありがとうな」
「礼は終わってからにして」
エアーズは危険性を振り分け、あくまでもノアを戦闘不能にしようと瀕死のノアに攻撃を仕掛けようとするが、
メリットがそれを許さない。彼女はエアーズとの間合いを狭めて、肉弾戦に挑む。
「おいおい!! おれ相手に肉弾戦とは、頭使ってるとは思えないなァ!!」
「これ以上、寝床を荒らされたくないもんで」
魔力をまとう術式〝悪魔の片鱗〟がぶつかり合い、設置されていた家電や絵画が次々壊されていく。
その隙をつき、ノアは羽を背中に集結させた。
「メリー! 伏せろ!!」
ノアは忠告し、翼が妖しく光る。すると、エアーズはヘビに睨まれたかのように動けなくなった。
「オマエは掴みどころのない、風そのものだ。なら、ねじ込むルールも単純であるべきだろう……? さぁ、気体を固体にしてしまうルールにどうやって抗うつもりだい!?」
エアーズとメリットに向けられた気体は、すべて固体になった。ふたりは呼吸すらできない。友軍射撃になってしまうが、勝つためなら致し方なしだ。
「……法による支配からは、誰も逃れられない」
ノアは、単なる鈍器と化した羽をエアーズの身体に直撃させた。
「ぐぅッ!?」
しかし、ノアの体力はすでに限界だった。鼻・口から血が流れ、肩で呼吸しているのだから。
「はぁ、はぁ……」
ノアはその場にへたり込む。これでもエアーズが攻撃してくるのなら、正直勝ち目がない。トドメを差してきれていないため、撤退させることが最大の目的だ。
「ぜぇ、ぜぇ……。勝ったつもりでいるのか?」
ノアの背筋が、ぞぉっと凍った。コイツ、まだ戦意がある。その証拠に、スーツの裏から拳銃を取り出しやがった。
「オマエ、魔術による防衛ができないだろ……? いや、そこの聖女候補もその域に達してないか。ちょうど良い。報酬3割カットだが、ここで始末してやるよ──!!」
エアーズは固唾を呑み込んだ。圧倒的な魔力を感じ取ったからだ。
「おいおい、そりゃひでェな。こんないたいけな子どもをぶち殺すなんて」
イタリア製の洗礼されたスーツから、上半身だけタンクトップ姿になったクールがそこに立っていた。




