30 ランクD・ノア
演説終了後、ノアは車で先に帰宅していた。
この姿の快適なところは、パパラッチにすら追われないことだ。仮に10歳くらいの幼女にそんな真似をしたら、むしろ有名人追っかけのカメラマンそのものを法規制する流れを作られてしまう。
そんなこと、パパラッチ側だって百も承知だから、なんら追われることなくノアは会場を後にした。
「さて、あしたから私も高校生か」
入学手続きは済んでいて、後期からの編入となる。テストの結果は大学レベルだったらしいが、メリット・リベラの護衛という仕事をこなすには、やはり彼女のそばにいたほうが良い。それに、アーク・ロイヤルの監視もしておかなければならない。実益だけでも、ふたりの生徒が関わってくる。
それに、パーラやメント・コール、キャメル・レイノルズに会いたくないと言えばウソにもなる。ここら辺は同じ校舎にいればいつでも会えるが、どうせなら同じ教室にいたいと感じていた。
「しかし……〝ランクD〟っていうのが良く分からないな。D、C、B、Aってことか? なら、最下層か最上位? うーむ」
こういうときは尋ねたほうが早い。ノアは自身の邸宅に置かれたスマホへ電話をかける。
『なに? クソガキ』
「ランクってなんだ? ほら、MIH学園の」
『MIHのランク? アンタ、どうせランクAでしょ?』
「いや、ランクDだった」
『は?』
「なんだよ、その態度。生徒証にも書いてあるぞ」
『そういえば。アンタは悪魔の片鱗も使えない落ちこぼれだった。良い? それはつまり、その者の魔術力・魔力を実質4段階で計ってる。Dが最下位。C、B、Aと続いて、クールさんともうひとりのOB以外にランクSになった生徒はいない。アンタ、どこまで試験受けたの?』
「だいたい全部だと思うぞ。普通の身体検査から、健康診断もやった」
『なら、それはもう確定ね。私がランクAで、アークはDだけどほぼ確実に上がる』
「アーク? なんだ、そこにアークいるのかい?」
『……私がヒトのこと名前で呼んだらいけないの?』
「いや、メリー。親友として伝えておく。アークみてェなヤツはモテるぞ。私の第六感がそう言っている。彼は女難の雰囲気を醸し出していると」
『…………私が女難ってこと?』
「なんだよ、いつもの調子じゃないな。まぁ良いや。あした、みんなで登校ってヤツをしてみようぜ。駅で待ち合わせてさ。アークも誘っておくよ」
電話を切り、ノアは缶のココアを飲み干す。もう喫煙・飲酒・薬物への未練はなくなったが、代わりに甘いものが好きになった。自由に甘いものを飲んだり食べたりしていると、表稼業のアイドル活動に支障が出るのが残念なほどに。
(だけど、きょうは初の演説手伝いだったし……豪華にケーキでも食べますか)
ノアは知らず知らずのうちに、この姿の自分が好きになっているようだった。
*
「メリー、いるかー? いるのなら、オマエがなぜ鍵を開けたままなのかを聞きたいな」
一応、リビングまでの道に隠されている拳銃を手に持ち、ノアはそれの安全装置を外した状態で部屋へと向かう。
すると、返事が返ってきた。メッセージアプリで。
『今寝てるんだけど』
「不用心過ぎるだろ。アイツ、狙われている事実もう忘れた?」
とはいえ、寝起きのメリットの相手は面倒なので、
『次から気をつけろ』
と返事し、ノアはソファーにもたれる。スマホでSNS、テレビ中継も見た上で、今回の選挙キャンペーンの点数を出してみる。
(テレビのコメンテーターどもは、まだ私たちをピエロ扱いしているが、むしろそれで良い。ここでプッシュアップされたら、そちらのほうが困る。テレビ票は中盤に獲得すれば良い)
SNSアプリをひとつ開く。すると思わず、「へェ……」と声を漏らしてしまう返信で埋め尽くされていた。
(これは、想像以上だな……!!)




