26 頭ブルースクリーン野郎
そもそも、なぜノアは国盗りゲームという途方もない野望を打ち出したか。まずはそれを明確にしなければ、クールとポールモールの支持は得られない。なので、ノアは首を痛めつつも、クールとポールモールの目をしっかり見据える。
「友だち? そりゃ格好良いけど、誰のことだ?」
「メリット・リベラのためだよ、クール。連中が欲しがっている少女だ」
「メリット……あぁ、オマエと闘うきっかけになった子か。いやー、家出したガキを自宅へ返して100万メニーは、めちゃくちゃ美味しい仕事だったな~」そこまで言って、クールは訝るような表情になった。「いや、よくよく考えたら家出捜索で100万メニーはおかしいな。カネなかったから受けたが……100万メニーなんて大金、ポンと出せるわけねェ。それも家出非行少女のために」
ポールモールが発言した。「アニキ、聖女政策をご存知ですか?」
「知らねェけど」
「では、聖女という存在の本質は?」
クールは口を尖らせる。「それも知らん。海外情勢なんて興味ないけんな」
「要するに、聖女とは〝人間電池〟です。そして守護神は、第二次世界大戦で荒廃した欧州大陸の隙間に入り込んだ〝国家防衛システム〟。西側諸国は守護神というシステムを盾にして、旧ソビエトが築いた〝鉄のカーテン〟から核兵器が降ってくるのを防いでいたとも言われてます」
クールはソファーにもたれ、足を組んだ。
「なるほど。聖女ってのは、そのシステムを動かし続けるための装置ってわけだ。面白れェ話だが……西側諸国は、善人ぶって他人の土地で偉そうに指図するのが好きだろ? そのシステムを改造して、石油利権とか狙わなかったのか?」
「狙っていたと思われますが、それを行うには人員が大量に必要だったんですよ。防衛を攻撃に変えるのは容易くないですから」
「じゃあ、なんでアンゲルスは周りに仮想敵国もないのに、そんなシステムを導入したがってるんだ? 現大統領・サラトガが、誇大妄想こじらせた頭ブルースクリーン野郎なのは知ってるけど、さすがに官僚が止めに入るだろ。そんな無用の長物」
ノアは、初めからポールモールと打ち合わせていたかのように、彼と目を合わせ、クールへの授業を交代した。
「クール、もしそれが攻撃可能な戦力になれるとしたら、アンゲルスは核兵器なんて比にならない戦力を得られるよな」
「まぁ、そうだろうな。それができるんなら、アメリカやロシア、中国辺りも逆らえなくなる。アンゲルスは一気に超大国を従える超大国だ。となれば、政府のお偉方はシステムの再構築を進めてるってこと?」
「そういうことだ。要点をまとめよう。まず、聖女は国家防衛システム──守護神を起こすための電池。その防衛システムを攻撃に転用できるように、政府は研究を進めている。その進捗は……」
「あぁ、おれが一番詳しい。特殊魔術部隊〝セブン・スターズ〟にいる限り、情報は筒抜けだ」ポールモールはクールに向き直す。「政府の連中は相当研究を進めています、アニキ。サラトガは白痴ですが、権力にしがみつく方法だけは熟知している。移民問題・経済停滞を両方解決すれば、サラトガの支持率は一気に回復します。システムを攻撃型に変更できるのなら、資源大国を武力で従わせれば良い」
入れ替わるようにノアが言う。「しかし、そんな真似をしたら第三次世界大戦が始まる。サラトガは国内の権力闘争で勝てれば終わりだと思いこんでいるが、アイツはヒトの欲深さを侮っている。そんなシステムを作ってみろ。1年後には、世界各国がモノマネし始める。3年後には各々の攻撃型システムを用いた、不可逆的な戦争が起きるさ」
ここでサラトガを止めなければ、世界はいよいよ取り返しのつかないラインを超えてしまう。ノアとポールモールは、その危険性を良く知っていたのである。




