23 証拠はない、罪悪感は残る
「……恐ろしい」メリットは呟く。
アークの身体は、魔力の奔流に耐えきれず高熱を帯びている。まるで湯たんぽでも抱えているような熱さだが、不思議と不快ではない。周囲を見渡せば、裏庭は見る影もなかった。爆撃でも受けたかのように地面はえぐれ、木々はなぎ倒され、三下トリオは黒焦げになってピクピクと痙攣している。
「……信じらんない」
魔力によるガードを解除したメリットが、瓦礫をまたぎながら歩み寄ってきた。その表情は、いつもの不機嫌そうなものを通り越して、どこか呆然としたものであった。
「あぁ、確かにすげェもの見られた」
「そういうことじゃない」メリットはノアに抱えられるアークを、信じがたいように眺めた。「アーク・ロイヤルといえば、王族出身の癖してランクDの落ちこぼれ。この学園の最底辺に位置する、ナード野郎。それなのに……」
「なのに?」
「〝レクス・マギア〟が使えるなんて」
「レクス・マギア? 王様の魔法ってか? 偉そうな響きだねェ」
「いや、名前負けしないくらい恐ろしい術式なのよ……。私もこの歳くらいのヤツが使ってるのは、初めて見たくらいだし」メリットは身体をわずか震わせていた。「……レクス・マギアは大気にある魔力を吸収して、それを放つ術式。適応者はアンゲルスでも限られてるけど、このナードは自覚なくそれを振るった。末恐ろしい」
メリットの真剣な口調から、ノアはこれがただ事でないと悟るが、それを踏まえた上で彼女は邪気溢れる笑みをこぼした。
「そうかい。ただ、こんな丸焦げにしたらコイツ退学じゃねェか?」
「それはない。MIH学園は実力至上主義だから、この歳でレクス・マギアを使える化け物を手放すわけがない」
「そりゃあ良かった。根性のあるヤツは好きだからな。裏表がないヤツと同じくらいに」
ノアはアークを揺さぶり、彼を無理やり起こす。アークは、アーク・ロイヤルは、目を緩やかに開けた。
「……あれ、一体なにが」
「そこの馬鹿どもを見てみろ」ノアは元イジメっ子を指差す。
「え? ノアがやったの?」
「違げェよ、オマエがやったんだろう? なぁ、メリー」
「そうね」
「え……。僕、捕まるの?」
「なーに惚けているんだい。だいたい、こんな馬鹿どもは関係ない」ノアは称賛の言葉を惜しまなかった。「オマエ、大したヤツだな。ヘタレの根性無しとか言って悪かった。二度と言わないよ」
「ぼ、僕がやったの? 本当に?」
アークは自身の両手を見つめ、わなわなと震わせていた。無理もない。つい数分前まで、彼はただのイジメられっ子だったからだ。それが突如として、学園の広大な裏庭を更地にしてしまうなにかを振るったのだから、脳の処理が追いついていないのであろう。
「あぁ、レクス・マギアってヤツらしい。誇りに思えよ」
「で、でも……こんなことしたら退学だよ!? アイツらが死んでいたら……」
ノアは長年の勘で、彼らが死んでいないことを知っていた。あと数十分以内に救急搬送すれば、おそらく死なない。そして、この場に意識のある者はノア・アーク・メリットしかおらず、メリットのスマホは充電が切れていて、アークは恐怖のあまり通報という概念が消えている。もう一押しすれば、彼は不良どもが死んでいると錯覚するだろう。ならば……、
「もう死んでいるんじゃねェか? まぁ、防犯カメラも壊れているようだから、証拠はどこにもないみてェだが」唾を呑み込んだアークの目を見据える。「大丈夫だよ、アーク。私の傘に入れ。私ならオマエを守れるし、オマエなら私を守れる。なぁ?」
メリットは、呆れ気味にノアとアークに目を細めていた。
(……このクソガキ、ナード野郎の弱みを握ってなにするつもり?)




