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「誰? オマエ」
ノアは悪党らしく臨戦態勢に入っていたが、少年に敵意がないことを察してすぐに彼へ手を貸した。
「悪かった。悪意を感じ取れなかった私のミスだ」
「おぇ……、迷子なの? 君」
「そうだな」
「どこへ行きたいの……」
「私からやっておいてなんだけど、もっと自分を第一に考えるべきだぞ? 顔、真っ青になってやがる」
「殴られられてるから大丈夫……。けど、10歳くらいの子にボディーブロー喰らわされたのは初めてだよ……」
「殴られられている? いじめられているのかい。可哀想に」
「心にもないこと言ってるよね、その表情…………ふぅ。落ち着いてきた」
「そりゃ良かった」
その金髪の少年──いや、少年か? 男物の学生服だが、顔立ちも体臭もどこか女子に近い。制服越しからも分かる、華奢な身体つきがその疑念に拍車をかけていく。髪型も、男にしては長い天然パーマ。身長もノアがやや見上げるくらいで、160センチくらいだろう。
「で、裏庭に行きたいんだ。案内してくれるか?」
「良いよ」少年は服についた汚れをパンパンと払う。「ところで君、何歳? 見た目からすると10歳くらいだけど、喋り方が大人みたいだ」
「エイジレスの時代だからな。年齢は非公表ということで」
「まぁ、歳はMIHじゃなんの免罪符にもならないか……、僕はアーク。君は?」
「ノア・レイノルズだ」
「レイノルズ? もしかして、キャメルと親戚?」
「キャメルお姉ちゃんって有名人なんだな。そう、キャメルとは血の繋がっていない親戚だ」
「……ってことは、クールさんともつながりがあったりする?」
「クールは私の父だよ」
「…………は?」
「義理の親子だけどな。ほら、私って転生者だからさ」
ノアは取り付く島も与えない。別に金髪の女みたいな少年──アークが気に食わないわけではないが、事実だけを羅列すればどうしてもこうなってしまう。
「……てんこ盛りだね、君」アークは唇を尖らせる。「けど、どうやってクールさんと義理の親子になったの? あのヒト、誰かの親になれる人間じゃないでしょ」
「あぁ、喧嘩して引き分けたら、アイツから提案してきたんだ。いやー、細胞破壊はキツかったなぁ」
アークは目をこれでもか、と見開いた。「く、クールくんと引き分けた? あのクールくんと? アンゲルス最強って名高いクールくんと?」
「アイツ、そんな強ェの? いやまぁ、弱かったら私を圧せないか」
「……〝影の実力者〟だ」
「あァン?」
「正直、君からは魔力を感じ取れない。落ちこぼれの僕でも分かるくらい、魔力がない。そして、君が嘘八百を並べて自分を大きく見せているようにも思えない。だから多分、君は影の実力者なんだよ」
「ふーん」ノアは適当な相槌を討つ。「影の実力者、ねェ。それも悪くないが、私はどちらかといえば〝フィクサー〟だ。裏で暗躍し……仲間を守る。メリットやパーラ、メントにクール、全員出会ったばかりだが──コイツらは裏表がない。だから好きなんだな、多分」
ノアは徹底した実益主義者だが、この手の人間にありがちなサイコパスではない。ビジネスも暇潰しも、すべてヒトが絡んでくる以上、ソイツらを無下にはできないと考えている。
「おっと、話が脱線しちまったな。裏庭まで案内してくれ。メリーが呆れて電話切りやがった」
「う、うん」
そんなノアの、幼女が醸し出しているとは思えない気迫にやや圧されながらも、アークは彼女を裏庭まで案内するのだった。
*
裏庭は、やはり広大だった。そこらにタバコやハッパ吸い殻が落ちていて、誰かを殴打した痕跡がある酒瓶も散らばっている。
「メリー。待たせたな」
「……待たせすぎ。もうスマホの充電ないんだけど」
「悪かった」
素直な謝罪。メリットは目を細めた。
「アンタ、謝れるのね」
「私をなんだと思っているんだい?」
「まぁ良いや。で、そこの〝元王族〟はなんで着いてきたの?」
メリットはアークに目を向けた。




