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「つか、入学手続きを済ませるために、私はわざわざここへ来たんだよな」
「……アンタら、なにしてたの?」メリットは目を細める。
「キャメルっていう……姉みてェな子と話していた」
「なにを?」
「父と……いや、キャメルお姉ちゃんからすれば兄か。ともかく、兄とのパイプを作ってあげた」
「そういえば、キャメルとクールさんは血が繋がってるのね」
「同じ苗字だしな。つか、オマエらの苗字は?」
「私はスマーフ。メリット・リベラ」
「あたしはコール。メント・コールだよ」
「へー」
気の抜けた反応に、メリットとメントは顔を合わせる。
「興味ないなら聞かなきゃ良いのに」
「知っておいて損はないだろ、メリー」
「つか、早く手続き済ませてこいよ。もう夕方になっちまうぞ」
「あぁ、そうする。君らは女子らしく、中身のない会話で盛り上がっていてくれたまえ」
厭味ったらしいノアに文句をつける前に、彼女は姿を消していた。透明人間か、能力か。ノアの全力を見た者と、ノアに一瞬で気絶させられた者は、首をかしげる。
「アイツ、なんの原理で魔術を使ってるんだ?」
「当人いわく、超能力ってヤツらしい」
「超能力? だからなんだよ、それ。SFじゃあるまいし」
「市民の半分が魔法使える国で、SFもなにもないでしょ」
アンゲルスという国の特異性は、意外と当人たちも自覚していない。生まれたときから魔術があるのだから、必然ともいえるが。
*
ノアは入学手続きを済ませ、学生証と転生者特権での高等部からのスタートを決めた。
(ランクってなんだ?)
学生証は至って普通(ただし、転生者としっかり書かれている)だが、同時に発行された〝ランク〟というシステムに首をかしげる。メリットが言っていた、実力至上主義という言葉は、このランクとやらが関係しているのかもしれない。
(というか、もう空が暮れているな。確か治安が悪いから、おれみてェなガキは18時以降に外出できないんだっけ。いや、もう高校生扱いだからセーフ……でもねェか)
高校生なんて、所詮はお子様だ。ノアは中身25歳の男性だから、余計にそう思ってしまう。それに、欧米諸国の治安レベルであるのなら、やはり高校生はそろそろ帰る時間であろう。魔術があるのは、悪い連中も変わらないからだ。
というわけで、メッセージアプリを開いてパーラとメントが帰宅したか確認してみる。彼女たちも(中身はともかく)女子高生。いつ襲われるか分かったものではないので、もう自宅へ帰っているかもしれない。
『ノイちゃん、お母さんに言われたから先に帰ってるね! あした、楽しみにしてる!』
パーラからそんな連絡があった。一方、メリットからのそれはない。ノアはパーラへ適当に返事し、メリットへ電話をかける。
「おい、一報くらい入れろよ。パーラは帰ったらしいが、メントも帰ったのかい?」
『とっくに帰った。今、学校の裏庭でタバコ吸ってる』
「タバコなんてやめろよ。良いことねェぞ」
『アンタは私の親でもなんでもないでしょ』
「親友の言うことくらい聞けよ」
『出会って2日目で親友なんて、意味分かんない』
「分からないことに色をつけられると、人生楽しいぞ」
『ホント、意味分かんないこと言わないで』
「まぁ良いや。裏庭だな? そっちへ向かう──いや、場所が分からねェ。というか、そもそもここはどこだ?」
入学金だけで5万メニー……要するに5万ドルは伊達ではない。学校内で迷子になるくらいだからだ。
『呆れた。どうせ教員用の第3校舎でしょ。私がそっちへ向かう』
「そうしてくれ──ん?」
肩を叩かれそうになったので、ノアは振り返って道具を取り出そうとしたが、そもそもワンピースのポケットにはなにも入っていなかった。だからひとまず、肘打ちを喰らわせてみる。
「うぐッ!?」
ノアの肘が腹部に直撃し、悶絶して倒れる金髪の少年がそこにいた。




