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くりくりした碧い目、童顔、Tシャツにジーパンというラフな格好、150センチ程度の身長、女性のロングヘアにあたる銀髪。
これでは誰がどう見ても、10歳程度の幼女だ。喉仏も、長年連れ添ったムスコもないことからも、それは確定事項である。
「悪いクスリでも食っちまったか? ああ、クソ。そりゃ、あのガキも迷子かなにかだと思うさ」
ノアは意気消沈しながら、女子トイレから出た。
そして、猫耳と尻尾を生やす少女へ問いかける。
「なあ、名前は?」
「パーラだよ!」
「……、私はノアだ。パーラ、ひとつ質問良いか?」
「なーに?」
「ここはどこだ?」
どうせ、ノアが幼女になってしまった理由などパーラが知っているわけない。なら、せめてここがどこなのか訊いておくのが吉だろう。
「ホントに記憶喪失なのかな? ここは、〝アンゲルス連邦共和国〟だよ」
「アンゲルス、ねェ……」
当然だが、知らない。直訳で〝天使〟という意味? それとも、〝天使を失った〟? どうだって良いが、ここはいわゆる異世界のようだ。
「どしたの? ぼんやりしちゃってさ」
パーラはきょとん、といった態度だった。なぜノアが訝っているのか分かっていないようである。
「なんでもないよ。もう、どうにもならないことを知っただけさ」
ここからは推測になるが、ノア・コーバという人物は死んだ。死んで、輪廻転生した。ただし肉体はまったくの別物だし、前世の記憶もあり、赤子というわけでもない。奇妙な話もあったものだ。
「うーん。どうにもならないことってさ、案外どうでも良いことなんじゃない?」
「……、ああ。そうかもしれないな」
「そんなことよりさ、ノアちゃんはホントに孤児なの?」
「そんなことで片付けて良いことか?」
「だって、10歳くらいの子を放っておけないもん! ……まあ、私にできることも少ないけど」
「そりゃあ、そうだろ。大丈夫。こちらも高校生くらいの子に助けてもらうほど、落ちぶれちゃいないよ」
「ねえ、ノアちゃん」
「なんだ?」
「ノアちゃんって、転生者でしょ?」パーラは微笑みを浮かべる。「話し方とか振る舞いが大人っぽいもん! 多分、実年齢は私より上だよね?」
「まあ、そうだろうな」
「だったら、転生者の特例措置を使うべきだよ! 孤児院送りになるより良いでしょ?」
25歳元男性が、ガキどもの巣窟に行くのは苦痛でしかない。まあ実際の性別まではパーラも分かっていないかもしれないが、それでもノアのほうが年上なのはなんとなく理解しているらしい。
ただ、転生者の特例措置とはなんぞや?
「なんだ、それ」
「えーとね、アンゲルスは転生者たちの国なんだ! 人口の5パーセントが転生者って言われてて、そのヒトたちがこの国で生きられるように、連邦政府が支援してくれるんだよ!」
「へェ。良い制度だな。具体的には?」
「えー、んー、あー、分かんない……」
「分からないなら、役所でも行って訊いてくるか?」
「そうしよ! 近くにバス停あるから、市役所まで行こ!」
そんなわけで、ノアはパーラとともにバス停まで向かう。
街を見てみると、発展しているという印象を受ける。道路があり、車やバイクもあり、ビルやマンションも建ち並んでいて、21世紀とさほど変わらない発展具合だ。
「ノアちゃんは何世紀から来たの?」
「21世紀だよ。2022年」
「じゃあ、いまと同じ西暦だ! 簡単に慣れると思うよ!」
「なるほど……」
アメリカのマイアミみたいな街並みを歩いていき、ヤシの木の下でノアたちはバスを待つ。
「あ、でも、たぶんひとつ違うところがあるかも!」
「なにが?」
「アンゲルスは〝魔術〟の国なんだ! 色んなヒトが色んな魔法を使えるんだよ!」
「魔法か。素敵だね」




