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「はっ、魔力もないガキが、あのクールさんとやり合えるわけないだろ」
「そう思うなら、私とサシでやるか? 小指ひとつで黙らせてやるよ」
雲行きが怪しくなってきたことを悟ったパーラは、
「ちょ、ちょっと待って!! ノイちゃん、メントちゃん、メリットちゃん、みんな落ち着こう?」
と、平和の呼びかけをする。だが、パーラの言葉が届くことはない。
「やってみろよ!! ガキだからって容赦しねぇぞ!?」
「ギャーギャー吠えるな。負け犬みたいだぞ?」
すっかり喧嘩モードに入ったノアとメントを見て、パーラは諦観しメリットへ近づく。
「ね、ねえ。ノイちゃんって、ホントにクールさんと引き分けたの?」
「まあね」
「え……。ハッタリじゃないんだ」
メリットはあの場にいた。だから事実を述べただけだ。
「上等だ!! 裏路地来い! ぶちのめしてやる!!」
「やってみろよ、小物」
というわけで、ノアとメントはマーキュリーホテルの直ぐ側にある、薬物依存者が寝そべる裏路地に入っていってしまった。
「と、止めなきゃ」
「良いんじゃない? クソガキも本気で殺そうとはしないでしょ」
*
それから1分後、
「ッたく、手間取らせやがって」
ノアは、気絶するメントを引きずりながら表路地へ現れた。
メントに目立った外傷はない。それどころか、怪我すらしていないようだった。
「の、ノイちゃん、なにしたん?」
「体内電気をいじくってやったんだよ。そうしたら、もうオネムになってしまったらしい」
「それで? この木偶の坊、どうするの?」
メントはどこか幸せそうな表情で気絶していた。良い夢でも見ているかのように。
ノアはまたもや溜め息をつき、
「先ほどクールから連絡があった。新しい家の鍵アプリと位置情報が送付されていたから、そこでコイツが目を覚ますまで待とう」
「移動手段は?」
「タクシーでも使えば良いだろ……、あ、諸君らは学生か。ならカネもないな」
「アンタだってクソガキでしょ」
「なら、クソガキらしくカツアゲでもしてくるかな」
と言い、ノアはメントをパーラとメリットを渡す。
そして、近くを通りかかった不良風な学生たちにわざと肩をぶつける。そこから先は、思わずパーラが目をそむけてしまうほどの虐殺だった。
「詫び金出せ。肩外れていたらどうするんだ?」
「は、はい!! 申し訳ありません!!」
そりゃ、幼女に因縁つけられて苦笑いしていたのに、いきなり拳銃を奪われればこんな態度にもなる。
「さて、行こうぜ」
ノアはさっさと流しのタクシー拾う。
「ねえ、メリットちゃん」
「なに?」
「ノイちゃん、なにかに苛立ってるみたい」
「そりゃ、あの絶壁三白眼に喧嘩売られたらムカつくでしょ」
「いや、それ以外のなにかに」
「……?」
「なんだか、もどかしい感覚があるみたいな、そんな感じがする」
「獣娘の嗅覚でそれを感じ取ったと?」
「ううん」パーラは怪訝そうな顔をしつつ、「だって、初めて会ったときはこんな短気じゃなかったもん。なんなら、私に気を使って暴力性を抑えてたくらいだし」
確かに、盗まれたカバンを取り返してくれたとき、ノアは愉悦に浸ったような表情だった。
心底楽しそうに、甘美な贅沢に溺れているかのような顔つき。
パーラはあのときを思い出し、わずか震える。
「おい、早く来いよ。招待状は渡さないぞ?」
そんな10歳低度の転生者の心境など、誰にも分からないようになっている。
「まあ、本質的に暴力主義者なんじゃないの?」
タクシーに近づくわずかな距離で、メリットは淡々とそうつぶやいた。彼女は続ける。
「楽しいから、暴力に溺れていく。自分が負ける可能性だって完全には否定できないのに、それでも暴れることでしか自分を発散できない。そんなところじゃない?」




