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この姿になってから、まともな食事にありつけていなかったノアであったが、すこし手をつけただけでもう空腹感がなくなってしまった。幼女になって胃袋も大幅に小さくなっているのだろう、と割り切るしかない。それに、この姿で大食いしても意味がない。
「幼女だからって忖度しないだけでしょ」
「そうかもな。それくらい気を使ってくれても良いんだけどさ」
「そんなことより、クソガキ」
「なんだよ」
「これからどうするつもりなの? きのうは大見得を切ってくれたけど、いまのアンタじゃ大統領を納得させることはできないでしょ」
「ああ、それか」ノアはコーヒーの苦みに舌を出す。「苦いな、これ。子どもにはキツイぜ」
「話、逸らさないで」
「そんなに気になるか? だったら、いまのところの案を教えてやるよ」
「どんな作戦?」
「まず、国を乗っ取る」
「やっぱりこのクロワッサン、アンタが全部食え」
メリットは冗談を言われた気分になったらしく、少し苛立っているようだった。その証拠に、ノアの口にカロリーの塊を無理やりねじ込もうとする。
「ちょ、落ち着けよ。私は大真面目に言っているんだぞ?」
「なにをどう思ったら、国盗りを大真面目に語れるの?」
「現大統領、サラトガの支持率を見て思ったんだよ」
ノアは役所で渡されたスマートフォンに、ニュースアプリの画面を映す。それをメリットに見せつけ、
「支持率15パーセント。支持しているヤツのほうがマイノリティだぞ? どんな政治したらこんな支持率になるんだよ、ってくらいに」
「経済停滞が続いてるし、移民難民問題も片付いてなくて、アンゲルスの歴史を掃き溜めに捨てるかのように、守護神誘致に躍起になってる。まあ、低くて当然ね」
「そこだよ。私も一晩使って調べたんだ。まあ、オマエの寝相が悪すぎて眠れなかったのもあるけど」
サラトガ大統領。彼は無能だ。民主主義国家において支持率が低いということは、無能であるなによりの証明となる。
経済的な発展もできず、前世のヨーロッパ諸国のように移民や難民も片付けられず、過剰な改革路線──本来守護神とやらがいない国にそれを導入しかけている。
おそらく、彼は歴史に名前を刻みたいのだろう。守護神を誘致するという改革を成功させた男として。
だが、刻めるとしたらそれは悪政王としての悪名だ。
「そこで、こちらが政治家を立てる。まだ完全に候補は決まっていないが、選挙になれば勝つのはこちら側の政治家だ」
「アンタ、なに言ってるの?」メリットは首をかしげる。「10歳くらいの幼女に誑かされて、政治の世界に出てくる酔狂なヒトがいるなら、逆に見てみたい」
「いや、本人の意志はともかく、適任者ならいる」
「誰?」
「クール・レイノルズだ」ノアはメリットの目をしっかり見据える。「アイツ、先祖がこの国の王族だったんだろ? 血筋としては充分過ぎるほどだな。それに、アイツは私と似たような考えを持っている感じがする。世の中を本気で変革してやろうってな」
類は友を呼ぶと言うが、まさか転生一日目で似たものと出会えるとは思っていなかった。野心溢れるマフィアとして、いつかはどこかの国で指導者になろうと思っていた前世に、思いを馳せたくなるほどだ。
「まあ、クールさんが出馬すれば選挙は盛り上がるけど……」
「けど?」
「あのヒト、そもそもマフィア」
「マフィアはバレていないから活動できるんだぞ? アイツがヘマ打って捕まらない限り、問題はない」
メリットは鼻でフッと笑う。「世も末ね。マフィアが一国の大統領になるなんて」
「けど、問題はアイツが納得するかどうかだ。そこは私が説得するしかないな。裏社会の掃き溜めの中で生きたいのか、それとも表社会の栄光を手にしたいのか」
そんな折、おしゃべりな獣娘パーラからのラブ・コールが届いた。




