12
ノアとメリットの奇妙な同居生活の次の日。
ノアはシャワーを浴びていた。髪が長いので、洗うのに苦労する。綺麗好き、というより潔癖症気味なノアは、根本から先端までしっかり洗わないと気がすまない。
「髪、切りに行くかぁ」
身体を清め、ノアは愚痴を垂れたくなるのを我慢し、タオルで身体を拭く。
こちらは比較的簡単だ。身体そのものが小さくなっている分、すぐに拭き終わる。
「ドライヤー、ねェ。マイアミみたいな天候だし、自然に乾燥させたほうが良いかもな」
ノアの転生した国『アンゲルス連邦共和国』は、カラッとした天候が売りだ。外は汗ばむほど暑いが、30度をゆうに超える温度の割には過ごしやすい気候である。
というわけで、自然乾燥を選んだノアはホテルのメインルームに戻っていく。
そこには当然、メリットがいる。コイツいつまで寝ているつもりだ? とツッコみたくなるほど、シングルベッドを占拠しながら眠りこける黒髪ショートヘアの陰気な少女が。
「メリット、起きろよ。もう朝の9時だぞ?」
「……チッ」
「ビリビリ棒ぶっ刺したくなるな……。だらしないヤツだ」
舌打ちという素敵な返事をされ、ノアは呆れながらカーテンを開ける。遮光カーテンというわけではないので、そこまで明るい空が隠れていなかったが、まあ開けないよりは目覚めやすくなるだろう。
と思っていると、
『ノイちゃん、きょう何時から遊ぶ?』
愉快な獣娘から連絡が来るわけだ。そういえばパーラと遊ぶ約束をしていた。それにしても、『ノイちゃん』ってあだ名までつけられる辺り、ノアは本当に生まれ変わってしまったらしい。
『10時くらいにホテル前に来てくれ』
すぐ既読になった。しかも返事も早かった。
『分かった! 友だちも連れてくね!』
ノアは溜め息をつく。前世では最強最悪だったマフィアが、女子高生たちと幼女の姿で遊ぶのだから、すこしばかり葛藤も生まれる。
「メリット。そろそろ飯が運ばれてくるし、ここが安全じゃないことも分かっているだろ? 起きて飯食ってシャワー浴びて、パーラとその友だちといっしょに遊ぶぞ。私の傘にいたほうが安全だろうし」
「…………分かったよ、クソガキが」
「口が悪いな。こちらは善意で動いているのに」
というわけで、メリットがようやく起き上がった。彼女は早速メガネをかけ、洗面所へ向かっていく。シャコシャコ、という音が聞こえてきた。どうやら歯磨きしているようだ。
そんな中、モーニングコールが鳴る。ノアは万が一に備え、近くにあったペンを手に持ち、それを背中に隠してルームサービスを迎えた。
「おはようございます」
しばし黙り込んで、ノアは相手を覗き込む。従業員が怪訝そうな顔になったところで、ノアは、
「ありがとうございます」
と返事する。目つきから悪意は感じ取れなかったので、問題はない。
食事が運ばれてきた。フランス式のパンにバターとジャム。普通のパンの他にも、クロワッサンがある。カロリー値の高そうな代物だ。
(まあ、動いていれば太ることもないか)
ノアはタイミング良く、というよりホテルマンがいなくなったことを察知したメリットが出てくる前に、テーブルに並べられた朝食を食べ始める。
「甘いけど、うまい。こりゃ良い朝食だ。でもメリット、オマエの分が少なくなっちまうな」
「私、朝飯食べない派だから」
「強がるなよ。ほら、クロワッサンやるから」
「……太りたくない」
「そんなにカロリー高いの?」
「そりゃ、アンタが3つも渡してくるから」
「幼女の腹には多すぎるのさ。ホテルマンもなに考えているんだか」




