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「ぐほォッ!?」
追撃してきたクール・レイノルズは、口から血を流した。内蔵が焼けてしまったかのように、吐血が止まらない。
「こちらも直接浴びている分、ダメージをくらっちまうが……!!」
しかし、本当に苦しいのはノアのほうだ。翼は背中から生えている以上、一時的に効果を示す放射線を発射し続ければ、その光線を直接くらってしまうのはノアなのだ。
「根比べ、ってわけか……!?」
「ああ、これ以外に勝ち目はなさそうだ……!!」
一時的に細胞すらも破壊してしまう放射線が、ノアとクールを苛む。ふたりはヘビに睨まれたかのように動けず、どちらが先に倒れるかの勝負となった。
そして、
「……ぐッ!!」
ふたりは同時に倒れ込んだ。
*
メリットは闘いを見届けるしかなかった。クール・レイノルズは、この国でも数少ない、実力で治外法権を勝ち取っている者だからだ。
であれば、警察機関なんて役者にすらなれない。なので、メリットはどこか他人事のように、タバコまで吸いながら眺めている始末であった。
「……ん?」
そのとき、
倒れていたふたりが、同じタイミングでムクリと立ち上がった。ふたりはなにかをすることもなく、距離を詰め合っていく。
「──、」
「──、」
「聴こえないし」
ノアとクールは、普通に会話しているようだった。最前の殺し合いはなんだったのか。
やがて、ふたりは思い出したかのように、メリットのもとへ歩み寄っていく。メリットはやや身構えるものの、クールには敵意がないようだった。
「よう、嬢ちゃん。仕事は破棄するよ、君はもう自由さ」
怪訝な表情になるメリットにノアは、
「良かったな、メリット」
メリットはあんぐりと、間抜けに口を開けるしかなかった。
「……アンタら、喧嘩の中で友情でも芽生えた?」
「おお、そんなところだな。このおれと引き分ける幼女なんて、最高過ぎるじゃねェか!!」
「ああ、そう……」
もはや呆れている。なぜ戦闘狂という連中は皆、こうも単純なのだろうか。
*
あのあと、ノアはクールと連絡先を交換した。ついでに、住む場所がないのなら自分が所有している家に住め、と言ってくれた。ありがたい申し出だったので、ノアは二つ返事で承諾したのだった。
「はあーっ、疲れた」
ノアはマーキュリーホテルのベッドに寝転がる。きのうは魔術を使おうとして気絶したので、まともな睡眠は久しぶりだ。
傍らにはメリット。彼女は理由こそ知らないが、家出中なので帰る場所もない。さも当然のごとく、ノアについてきた。
「なあ、メリット。寝る前に訊いて良いか?」
「やだ」
「ガキか、オマエは。匿ってやっているんだから、せめて家出した理由くらい訊かせろよ」
「……、」メリットはうつむく。
「なにか言えないことでもあるのか? まあ、どうだって良いけど」
「どうだって良くない」
「なら、教えてくれよ」
「……、私は人身御供にされるの」
「神様とやらの生贄にされるのか? それとも、誰かの利益のために売り飛ばされると?」
「その両方の意味を持つ」メリットは口を尖らせる。「アンゲルスは、欧州世界で唯一〝守護神〟を持たない国。その神に仕える身になって、自由を奪われる」
「そりゃ、神に仕える身なんて自由はないわな。聖女、ってヤツかい?」
「でも、それを……聖女になることを私が納得すると思う?」
「思わないな」
「だから、逃げ出した。幸いなことに私に聖女になれる資格、要は人間性を失う代わりに神に仕えられるのは、親と最高指導者しか知らない」
「学校に行ったらバレると思うけど」
「メイド・イン・ヘブン学園は親でも立ち入り禁止だし、口止めを頼めば通ってることもバレない」
メリットにはかなりの葛藤がある。当たり前だ。高校生程度の子どもに、これから自由を捨ててくださいと言って、素直に受け入れられるわけがないからだ。いや、大人であろうとも首を縦に振る者はいない。
「なるほど……、大変だな。メリット」
「遅かれ早かれ、そうなると思うけどね」
「だったらさ、私がなんとかしてやるよ」
ノアは愛らしい破顔を見せた。彼女は続ける。
「国のために聖女が必要だっていう法を、捻じ曲げてやろう」
メリットは目を見開き、信じがたいものを見たかのごとく、
「……アンタ、本気で言ってるの? これはアンゲルス大統領の勅令よ。さらなる国家武力強化のための、国策よ? アンタみたいな……、いや、なんで私を助けようとしてるのよ──」
「友だちだろ、私たち」
ノアは含み笑いで答えた。
「友だちを傷つけるヤツは、絶対に許さないのが美学なのさ」
「……友だち。誰と誰が?」
「強がるなよ。弱い自分を隠すな」
「……!!」
「ほら、人間らしい表情になれた。メリット、私とオマエは友だちさ」
はにかむノアに、メリットも毒気を抜かれたのか、
「……そうね。私たちは友だち。共倒れする、友だちよ」
一応嫌味は言ったが、どこか身体から余計な力が抜けたようだった。
「さて、なんとかするにしても情報が必要だ。手っ取り早く大統領を脅すほうが私らしいが……、いかんせんいまの私じゃ届かない。だが、必ず届かせてみせるよ」
ノアは国家権力に挑んでいく。前世ですら起こしたことのない大台風が、間近に迫ってきている。
シーズン1おしまいです。
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