10
だが、クールはスーツのポケットから手を出すことすらない。
「分かった、空の覇権は譲ってやる。だけどな、地上に王はひとりだけだ!!」
クールは、自身の周りから火の粉を出し、その羽根を焼き払っていく。こちらもまた、意思を持ったレーザービームのように、ノアの羽根と激しい応戦を繰り広げた。
(埒が明かないな……。コイツ倒すには、デカい攻撃が必要だ。ただ──)
「そこォッ!!」
ノアの眼前に、巨大な火の粉が現れた。大砲のように、その火はノアを貫きかける。背中に生えた翼が自動反応を起こし、その攻撃を防御した。
「クソッ……」
攻撃は振り払えた。ところが、ノアはすでに息切れを起こし始めていた。まだ戦闘が始まってから1分程度しか経過していないのに。
「どぉした!? もうオネムか!? それとも、永遠に眠りてェか!?」
心臓をトントンと叩き、ノアは嗤うクールを睨む。
「ぜえ、ぜえ……。心配無用だよ」
「その割にはキツそうじゃねェか! どれ、トドメ刺してやろうか……!!」
なにかが、おかしい。異世界に無理やり超能力という概念を持ち出しているため、ガス欠が早まっているのか。
でも、そんなことを考えている余裕もない。
超能力を使うには相当な集中力が必要である以上、このままだと地上へ落下死だ。能力がなければ、足がすくむほどの高さにいるのだから。
そんな状況で、
クール・レイノルズは、情けも容赦もない一撃を繰り出した。炎の槍のような現象が、銃弾並みの速度でノアへ飛んでいく。
その結果は、
「はあ、はあ……」
ノアが地上にはたき落とされるというものだった。
「翼ァもいだらもう飛べねェよなぁ!? こりゃ、おれの勝ちだな!! ──ん?」
ズシャ、とノアはアスファルトに手の形を埋め込む。到底幼女の握力ではない。
しかし、クールにとって重要なのは、そんなことではなかった。
「クソ。このガキ、まだ戦意あるのかよ……」
空に散乱する羽根が、クールの足を切り裂いた。骨までは斬られていないが、その場で立っているのがやっとだ。
そして、
「なあ、クール……。オマエが種明かししてくれたのに、こちらがしないのは失礼だよな」
ノアは口と鼻から血を垂らし、あわや出血多量になりかけているのに、
「薄々気づいていただろ? 私が〝理論上あり得るが、実際に使うのは困難な法則を操る〟と。だけどな、私は〝理論上は存在するかも曖昧〟な力も操れるんだ」
それを訊いたクール・レイノルズは、
「えーッ! オマエ、理論操れるの!? そりゃ、このおれに傷をつけられるはずだ! ……面白くなってきたぜェ!!」
なんと、引き裂かれる寸前だった足に炎をまとわせ、半ば無理やり再生させた。足にまとった火が消えるとき、クールはノアとの間合いを狭めた。
「……!!」
「だけどよォ、オマエの力は〝羽根〟がトリガーになってるんだろ!? こうも近接しちまえば羽根は当てられないよな!?」
190センチを越えるのであろう巨漢は、炎をまとった右拳を幼女ノアの腹部へねじこませた。
「ぐはあッ!!」
たまらず、ノアは近くの羽根を操作して自身の腹部に当てる。だが、クールの追撃はいまだ終わらない。受け身をとっても、骨まで焦げる炎の拳の前には無力だ。おそらく、メリットが言っていた〝悪魔の片鱗〟を使っているのであろう。
「〝悪魔の片鱗〟こそ、魔術の本質くさ!!」
殴られ再生を繰り返していく中で、
ノアはゲームのように2段ジャンプして、その場から一瞬離れる。どのみちクールは追撃してくるはずだ。この数秒の間に、対処法を思いつかなければノアの負けが決まる。負けず嫌いのノアに、負けるという概念はない。
ならば、後先など考えていられない。ノアは黒い鷲の翼を広げた。
その瞬間、




