プロローグ
「魔獣の毛皮に魅せられまして」
目の前の、二十歳になったばかりの青年が嬉しそうに語る。
冒険者ギルドの面談室、俺――トルファン・クロフト――はこれから部下になるかもしれない人物の、採用面接の最中だった。
「ロス君、期待するのは悪くないが配属されるのは受付カウンターだから、魔獣素材を目にする機会はそう多くない。もちろんほかの業務を希望して、その業務に欠員が出れば異動は可能ではあるが、年単位で待つことになる」
「はい、大丈夫です!」
すごく良い返事だ。
常に笑みを絶やさず相手に不快感を与えないよう気を配っているのは、今まで商人見習いとして働いていたからだろうか。学校を出たばかりといっても納得しそうな、やや幼い顔立ちも相まって完璧な好青年に見える。
「見た目がいかつくないと、問題のある冒険者から絡まれることもあるが?」
「大丈夫です。これでも腕には自信があります」
十代半ばでも通りそうな童顔と、柔らかな物腰からは想像がつかないが、D級冒険者でもあるのは先ほど資格証を確認したから知っている。
やる気があるのはよくわかる。それでも懸念があった。
「商人としては得だと思う君の見た目は、受付カウンターでは苦労の原因になると思うが、やっていけそうかな?」
先ほどからネガティブな話しかしないのは、過大な期待を抱いて入った結果、こんなはずじゃなかったと失望して去っていくのを避けるためだ。
採用する側としては、できるだけ長く勤めてもらいたい。
ただその一言に尽きる。
「華やかな見た目だけど、実際は裏方仕事ばかりなのは経験済みです。想像と違ったというのも。僕は今よりもっと魔獣素材と接する仕事をしたいだけなんです。そのつもりですっぱり仕事も辞めてきました!」
すごく、思い切りがいいな。採用されるとも限らないのに……。
「わかった、そういうことならよろしく頼む。いつから来られる?」
「明日からでも!」
そうしてロスはギルド職員として採用され、俺の部下になった。
面接で言い切っただけあって、充実した毎日を送り、絡んでくる冒険者をあしらうのも余裕。
採用した直後、冒険者向け講習やダンジョン保全業務を行う職員に欠員が出て異動させたときは、採用時よりも更に嬉しそうだった。「仕事でダンジョンに潜れるなんて!」と目をキラキラさせる。支部長や副支部長からも可愛がられ、職員としてすくすくと育っていく、将来有望な部下だった。
だが――。
ロスは四か月で居なくなった。
退職ではない。別の部署に引き抜かれたのだ。
優秀過ぎる部下はほかの部署でも求められ、もっとも能力を活かせる部署にと請われたのだった。
トール:冒険者ギルド職員。カウンター業務、ダンジョン保全、冒険者講習等を担当する部門のトップ。B級冒険者