後日譚 —波の向こうの約束—
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翌年の八月一日、若狭高浜は再び海上花火大会の準備で賑わっていた。
夕方の城山海水浴場。白い砂浜は、去年よりもずっと人で溢れている。
蓮は海の家「しらはま」の前で手ぬぐいを首にかけ、忙しそうにかき氷を作っていた。
ふと視線を上げると、人混みの向こうから浴衣姿の女性が歩いてくる。
紺地に白の朝顔柄。去年と同じ……いや、少し丈が短くなった分、大人びて見える。
「……来たんだな」
「もちろん。約束したでしょ?」美空が笑う。
蓮はその笑顔に、一年前の涙の夜を思い出す。
あの時の痛みはまだ完全に消えていないはずなのに、美空の目には新しい光が宿っていた。
「民宿は大丈夫なのか?」
「今日はおばあちゃんが見てくれてる。たまには遊んでこいって」
「そりゃいい」蓮は頷き、空を見上げた。「もうすぐだ」
やがて、夜空に一発目の花火が咲く。
去年と同じ岩山の上——
二人は並んで腰を下ろし、海を照らす光を見つめた。
美空がふと呟く。
「去年は、この花火が苦しかった。でも、今年は……綺麗だって思える」
「それが悠真への答えだと思う」蓮は笑った。
「……そうかもしれない」
大輪の花火が連続して打ち上がる。海面に映る光の中で、二人の影が寄り添うように伸びていた。
「来年も、ここで見ようか」
「うん。絶対」
その約束の声は、波に運ばれて夜の海へ溶けていった。
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