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精霊の森は今日もやかましい。  作者: 森の民
本編
9/19

流行っているので乗っかってみた3

とりあえずリィは改めて悪役令嬢ものについて話の詳細を聞いてみた。

話の要点だけをまとめてもらうと『テンプレ』といういわゆる『お約束』があって、テンプレを改変したり改竄したり肉付けしたりした結果、それぞれの個性が出た悪役令嬢ものが増えていったという。それに伴って追放ものというジャンルも増えたとか。大体それも馬鹿王子がやらかすらしいが。

とにかく今すべき事は再確認である。


「ではテンプレのおさらいなのです。大体の事は分かったので簡単にいきましょう。」

「「「はい!」」」

「まず主人公は?」

「悪役令嬢です。」

「一番最初のイベントは?」

「婚約破棄断罪劇です。」

「敵は?」

「ぶりっ子悪役ヒロインと馬鹿王子です。」

「だめよ。取り巻きとか追加しなくちゃ。」

「そうよ。孤立した中で立ち向かうから。」

「とりあえず助けが来る系の話以外は主人公以外全員を敵とみなしてもよいのですね?」

「はい!」

「わかりました。で、断罪劇の最中か後に?」

「「「顔も性格も能力も地位も名誉も経済力も何もかもが馬鹿王子よりも優れている美形ハイスペイケメンと恋に落ちます!!」」」

「都合がいい事はさておき不必要な途中経過を飛ばします。ざまあについて。どうなります?」

「ぶりっ子悪役ヒロインが断罪されます!」

「王子も散々な目に遭って後悔しますがもう色々と手遅れです!」

「場合によっては国も危ういです!」

「内容は様々ですがとにかく主人公が勝ちます!!」

「………ほんっとーにこれをやりたいのですか…?」

「「「やりたいです!!」」」


リィは2度目の眩暈に襲われそうになったが何とか堪えた。全員の頭の中が満開の花で埋め尽くされているんじゃないかという疑惑まで生まれたが、それはエスペリトゥヴェルトの全員に言える事なのでこの際考えない事にする。

困った果てにレベッカをチラ見すると。


「悪い。リィ。ややこしすぎて何が何だかわかんねえ。」


…この始末である。もはやリィは馬鹿王子かハイスぺイケメンのどちらかをやるしかあるまい。なにより期待した全員の目が語っている。


『本物の王子様で悪役令嬢ごっこしたい!』と。


…ごっこ遊びなら本物でなくともよいのでは?と喉まで出かかったがまあ本物がいるなら本物でやりたいだろう。わからなくもない。大丈夫だ、馬鹿王子の時はハインリッヒの真似をすればいいだろう。


「そこまでいうのならいいのです…やりましょう…。」

「リヒトクローネ様!馬鹿王子とハイスぺイケメンどちらがよろしいですか?」

「どちらでもいいのですよー…。」

「…あの~…」

「どうしたのです?」

「とりあえず断罪劇だけに絞って両方やってもらうのは…。」

「「「それだ!!」」」


ついに少女達はノリノリで両方要求してきた。リィも覚悟を決める時が来た。

指をぱちんと1回鳴らす。白のロングワンピースに爽やかな空色のローブ。身長はアデルと同じ188cmくらいで年齢は20歳前後に見える。リィの髪型を光翠玉色のリボンで後ろで1本結びにしたような髪型。

青年の姿のリィがそこにいた。

少女達の黄色い歓声が上がる。それに悪い気はしないのだが今からやる事を考えるとあまり喜べないリィである。


「とりあえず落ち着いて。それで僕は誰と婚約破棄をすればいいのかな?」


リィにふんわりとやわらかく微笑まれて少女達が軽くうっとりする。

リィは別段美形ではないのだが顔立ちは整っている方である。それに爽やかではあるが少し男らしい顔つきだ。そして何より瞳の色と髪型以外が『フェアエンデルングで男になった時のアルべリアと瓜二つ』なのだ。大人気の女王陛下が男になった時の顔を見れるなんて機会はそうそう無いので、少女達がアルベリアの娘であるリィの男の姿にくらりとするのも仕方のない事だといえた。


「誰からいく?」

「ちょっと!もめないように存在しない人にしなきゃ!」

「やだ!私は婚約破棄されたい!!」

「私も!!」

「えー!ずるーい!」


皆が浮足立ちながら婚約破棄されたがっているのを見ると、ごっこ遊びであるにしろ嫌われてるような錯覚さえしてくるな、とリィは思った。


「みんな、聞いてくれないかな?」


リィの王子様スマイルに少女達がまた少しだけうっとりして口を噤む。

大したイケメンでもないのに言う事を聞いてくれるあたり、どうやらアルべリアの顔はかなりの効果があるらしい。ならばこの顔を利用して速やかに事を済ませるに限る。


「そうだな…君達の中の誰かを特別扱いするのは心苦しいから、さっきのツェツィーリア・アンネリーゼ公爵令嬢に婚約破棄を申し入れようと思う。それで僕の目の前には誰も立たないけどそこにツェツィーリア嬢がいるという設定はどうかな?」


少女達は顔を見合わせていたがやがて全員が頷いた。


「確かに…私達は断罪されたいというよりも断罪劇が見たいんですし…」

「ついでにざまあは見たいけどざまあされたくはないですし…」

「じゃあ異論はないかな?」

「「「はい!」」」

「抱きかかえるのは…そうだな、レベッカあたりがずるくないね。」

「そうですね、私達の中から決めるとなると喧嘩になっちゃいそうですし。」

「オレかぁ?何すりゃいいんだよ。」

「できれば僕の腕に抱かれてくれると嬉しいな。」


そう言ってリィがレベッカの腰を優しく抱き寄せるとまた少女達の黄色い声が上がる。一方のレベッカは頭に大量の疑問符を浮かべていた。


「さあ、配置について。断罪の準備をしよう。」

「あら、何を断罪するのかしら?」


にこやかだが圧のある声。

振り向くと――――――――


「ひ、ヒルダ姉様…。」

「ごきげんよう、リヒトクローネ殿下。今、断罪と聞こえたのですけれど気のせいでしょうか?」


15〜17歳くらいの外見に華やかで鮮烈としか言えない美貌を持つ少女。実年齢は630歳。

『断罪に一過言ある』ヒルデアリア・リッターアクスト伯爵令嬢こと、ヒルダが笑顔で腕を組んで仁王立ちしていた。

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