電光掲示板は口ほどに顔文字を語る5
さてハインリッヒの説明を聞くべく…というよりも、全員がアルべリアの指示に従っただけだが、ゲートエリア内は静まり返っていた。3分くらい経ったあたりでハインリッヒの説明が始まる。
『まず、僕は秘密の執務室にいます!魔力精査遮断フィールドをつけてるから探しても無駄だぞ☆』
頭が痛い。そのような特殊フィールドをつけているとなると、その秘密の部屋に着くまでの自分の魔力も遮断している可能性が高い。この広い王宮内から見つけ出すのは相当骨が折れそうだ。
「あいつ殺してもいいか?」
「陛下、平常心ですよ平常心。私も仕事の事を考えると殺意が湧きますが。"(-""-)"」
2人とも意外と怒りの沸点が低いように思えるが、日々の仕事量を考えるとこの無駄な時間に苛つくのは仕方がない。無駄なものにも意味はあるというが、これは本当に無駄しかない意味のない時間である。ついでに言えば精霊は不老不死で殺しても甦るから、正直1回の殺人につき相手を一発殴る程度の意味合いしかない。
それはともかくハインリッヒは唐突に話題を切り出した。
『みんなはプロジェクションマッピングって知ってる?』
その言葉に各々が顔を見合わせた。ハインリッヒの仕事の1つである異世界文化振興により異世界の情報はいくらでも手に入るが、仕事にもプライベートにも必要のない情報を喜んでかき集める者は少ない。
そんな暇があるなら自分の好きな事をしたい、が本音である。
『まずプロジェクションマッピングなんだけど、映像を作って、それを映す機械…プロジェクターなんかを使って、建物や家具や専用スクリーンに色んな映像を映すのがプロジェクションマッピングなんだ。で、今ゲートエリアにいるだろうみんなの頭の上にある電光掲示板。魔力精査遮断フィールドとプロジェクションマッピングの二つを応用して作ってみたんだ!すごいでしょ!?』
この発言に全員が顔に困惑の色を滲ませる。
「よくわからないがこの電光掲示板はプロジェクションマッピングとやらで作られているのか?」
「だが我々は映像を映す…プロジェクター…というのか?そういったものは持っていないぞ?」
ハインリッヒの説明が要領を得ないので全員が隣の者と互いの電光掲示板を見つめあったりしている。
「参ったな、ややこしい事になってる。師父…」
「待っていろ。会話が出来ないかスピーカーの通信魔術を改竄している。」
アルべリアが黙ってスピーカーの傍で何かしている。それを見ている間にハインリッヒの説明はさらにエスカレートしてきた。
『これはね!まず魔力精査遮断フィールドを応用して使用魔術の魔力を全部遮断!相手や周囲に魔力を感知させないようにね。それから後頭部の空間を固定して、そこに魔術で作った見えない板状のプロジェクターをはめ込んで、その空間から電光掲示板の映像だけを固定空間の上に表示。さらに鼻の周辺に小さい空間を作って固定、そこから表情を読み込んで後頭部のプロジェクターに通信魔術で伝達。本人の感情までは完全再現できないけど、顔の表情だけは再現できるから頭頂部の電光掲示板で顔文字を再現して…あ、その前に空間透視化現象を使ってまず物体の存在を把握されないように映像化してすり抜けを…』
話の内容はさらに難しくなっていく。もはや専門用語のオンパレードだ。
「なあ…俺は近衛騎士なのに何でこれを理解できないんだろうな…。」
「安心しろよ。第1騎士団の俺も理解できてないから…。」
「俺もだよ…。階級とか関係ねえよ…。」
次の瞬間、エリア内に容赦のない怒声が響き渡った。
「ハインリッヒ!黙れ!!」
その怒声に全員が肩を竦める。
女1人相手に何をと思われるような慄き方だが、かつてアルべリアが怒りに任せて起こした大惨事を知っている者は皆こうなっても仕方がない。口も噤もうというものだ。
『えっ!?アルべリアの声が聞こえる!?』
「貴様の居場所も掴んだぞ!大ブナ三番手通路奥脇の光の洞だな!!」
『待って待って待って落ち着いて!!何でそんなに怒ってるの!?』
「仕事に支障が出るからだ!!こちとら10徹なんだぞ!!」
これには流石にラインハルトの顔が引きつる。
「10徹…師父…また寝るのをサボったな…?」
「仕方ないね。ちなみに回復魔法で誤魔化しているが私も7徹しているよ。"(-""-)"」
「父上!?寝てください!!(;´・ω・)」
「いやこの騒ぎが無かったら真っ直ぐ仮眠室で仮眠だったのだがね…?( ゜Д゜)」
「お疲れ様です、シャルジェ団長…。アルス殿は大丈夫ですか…?(;´・ω・)」
「私はまだ1徹なので大した事は…。(;´・ω・)」
「わー徹夜が通常運転になってるー。」
わなわなと震えていたアルべリアだが号令をかける。
「総員出動!ここにいない者達にも伝達しながら大ブナ三番手通路奥脇の光の洞を目指せ!!」
『アルべリア!?ちょっと!?』
「最後に聞いてやる!何故こんな事をした!?」
『えっ…』
『面白そうだから暇つぶしでやってみたんだけど…。』
「…行け!!!全員ハインリッヒを逃がすな!!ラインハルト!!」
「あああ!もう!!出撃します!!」
「私も行きます!!(`・ω・)」
「当たり前だこの馬鹿!!あといい加減うさぎから元に戻れ!!!」
こうしてゲートエリア内外の者がそろって大ブナ三番手通路奥脇の光の洞を目指し無事にハインリッヒを捕縛した。
…もっともラインハルトに言われた事をうっかり忘れたアデルがうさぎの状態で事を成してしまったがために、エスペリトゥヴェルト王宮内ではしばらく巨大うさぎ達の騎士団が見れたんだとか。