伊勢海斗の異世界回顧録3
3連休1日目。今日はヤヤさんと一緒にアルべリア女王陛下の調査に同行する事になった。
断られるかと思っていたのだが陛下曰く『調査と言っても歴史館を見て確認するだけだから同行しても特に問題は無い』との事である。
そんな訳で俺達はエスペリトゥヴェルトの国の中でも端っこの方にある歴史館に足を踏み入れた。ここに入るのは訪問体験以来だ。
「うわー…やっぱり広い!」
「楽しそうね、海斗。」
「こう広いとつい。俺ここに来るの2回目なんですよ。休みの日はもっとあちこち行った方がいいかなあ…。」
「そうね。精霊に転生するならまだしも人間のまま寿命を全うするつもりなんでしょう?なら生きている内に色々と見て回った方がいいわ。」
「2人とも。転生する時は申請が必要だぞ。」
「はい、女王陛下。それで今日はどこをご確認なされるのですか?」
「国の成り立ちだな。2人ともこちらへ来てくれ。」
俺とヤヤさんが陛下に続いて館内の奥へ足を踏み入れるとそこは円形ホールになっていた。
壁には建国の歴史が左から右へとロール状に年表となってイラストと共に描かれている。年表の重要そうな場所にはボタンが設置されていた。
「ボタンを押すと映像と音声が出力されるんでしたよね。」
「ああ。子供向けのものしか作っていないがそれでも十分なはずだ。」
「大人向けのものは作らないのですか?」
「興味を持つのは子供達くらいのものだからな。試しに大人向けのガイダンスを作ったが誰も興味を持たなかった。倉庫行きになってしまったな。」
「もったいないですね。でも興味を持ってもらうだけならわかりやすい方がいいのかしら…?」
ヤヤさんが首をかしげながら年表をまじまじと見つめる。なるほど。イラストも確かに子供向けだ。
「じゃあ俺でも理解できるかな…いや、難しいかな…?どうだろう。こういう事は初めてな気がする。」
「学校行事でこういった施設に来たことは?」
「あ、いわゆる体験学習的な…いや…ううん…工場見学は行った事があるけどなあ…。歴史館はちょっと無いかもしれません…。」
「そうか。なら体験していくといい。今日はここの音声の確認をするだけだから、他のコーナーに行ってもいいぞ。」
「その…俺が1人でうろついて問題を起こすって思わないんですか?」
「別に思わんな。それに監視カメラが回っているから何か妙な事をしたらすぐにバレるぞ。防犯ブザーもサイレンも鳴るし。」
「なるほど。いや何もしませんけど…。そうだな…じゃあここにいようかな。」
「海斗、もう少しまともな敬語を使わないと陛下に失礼よ…?」
「あっ…!」
ヤヤさんの指摘に思わず焦る俺だったが陛下は何でもないというように俺達に言った。
「今は私達だけだからな。砕けた態度でもかまわん。ただ外交などがあった時は他国の者の目がある。その時に今の話し方だと困るからまともな敬語も使えるようにしておいてくれ。」
「わかりました。」
「わかりました。陛下。」
「ありがとう。まあ、お前達が外交に関わる事はないと思うが…。」
「確かに。それもそうですね。」
ヤヤさんが少し困ったように笑う。陛下も苦笑しながら年表の1番左端に立った。
「ではゆくぞ。」
陛下がボタンを押すとアナウンスと共に映像が出てくる。
エスペリトゥヴェルトの最初の歴史は魂が自然発生したことから集落が生まれたらしいという話だった。
「魂が自然発生…体を持ったのはずっと後…じゃあ、幽霊の集団みたいなものですか?」
「どうもそうらしい。私はエスペリトゥヴェルトの生まれではないため、よくわからないが。この話もかなり昔から口伝で伝わってきたことだから、今生きている最年長の者に聞いても確認が取れない。私としては確認できていない事柄を確定した事として記録したくは無いのだが。」
「最年長の…その方は今、おいくつなんですか?」
「9804歳だな。」
「約10000歳!?」
「そういう事になる。彼が子供だった時の記憶と城に保管されていた国の記録を照らし合わせてみて、内容が合っていたからこの情報を出しているわけなんだが…。記録によると体を持った精霊が初めて現れたのは…今から約50万年前か。」
「原始人の時代かあ…。」
「お前の世界で言う前期旧石器時代に該当するからな。そう考えるとその時代に国があり文字があり記録がなされている…ある意味ではすごい事だ。記録がおざなりなのが残念だが。」
「おっしゃる記録に関しては確かに惜しかったですね。それでも城に保管されていた文献は希少価値が高いと思われますが。」
「そう思うか。」
「あの文献すらなかったら、いつからこの国があるのかということ自体がわからなくなってしまいますので…とても重要だと思います。」
「私もそう思わないでもないが、もう少し詳細が欲しかったところだ。」
「昔の文献はどこもそうですよ。」
「なるほどな。」
「それでも10万年前には国から森になってしまったんですよね。」
「ああ。ゆるやかに寂れていったようだ。」
「それを陛下が2520年程前に国に建て直して…今の状態にまで引き上げたと聞いております。」
「すごいなあ…」
「それほど大したものではない。それに海斗、私が行った建国方法は学校で習う社会科にある基礎を応用したものだ。お前でも出来るはずだが。」
「え。」
「だから、歴史と地理と公民だ。」
「本気ですか?」
「当たり前だ。嘘をついてどうする。私はこの世界に飛ばされる前の知識を使って国を再建したんだ。」
「じゃあある意味…」
「まあ学習して身に着けたものをこう言いたくはないが…それでもこの世界の者からすると異世界チートというやつか。」
「チートは無いって言ってたのに…」
「私が何1つ学んでいない状態で国の再建を出来たならチートと断言してもいいがな。死ぬ前の知識を引っ張り出して組み立て直すのは大変なんだぞ。」
それでも学校の勉強の範囲内でここまでのことが出来るのならそれは十分チートでは?
…と顔に出ていたらしく陛下は不機嫌そうに俺を睨んでいた。




