王子様はイケナイ遊びをしている5
酒場はあちらこちらで好き勝手に酒を飲んでいる客達で盛り上がっている。
クイーンズカルテットの結果、勝ったのはカイだった。
『マスター。これ全部、皆への奢りにして。』
こうしてカイの稼いだ分を全て店に戻されたマスターは安い酒を無料で飲み放題にした。おかげで大半の客が安酒を浴びるほど飲んでいる。中には自腹で高い酒を頼む者も出てきた。結果として店にいる全員が酒を飲んでいるので酒場はもはや宴会騒ぎとなっている。
カイは適当なテーブルでゼルトナーと一緒に飲んでいる。もちろんロフトとクリスも一緒だ。
「全部使うとは本当に豪気だね。驚いたよ。」
「だって俺が金を1人占めして帰るだけとか誰も楽しくないだろ。あと俺が稼いだ金を店で使えば売り上げとして返してあげられるし。それよりロフトとクリスは本当によかったのか?稼いだ中から好きなだけ取ってもいいって言ったのに。」
「別にいいよ。俺達はあのスロットに金を出さなかったし、カイ1人で稼いだんだから全部カイの金だろ?流石にもらう訳にはいかないよ。」
「それに俺達だけ金をもらってたらヤバい奴らに目をつけられたりするだろ。これでよかったんだと思う。」
「賢明な判断だ。公平な時には文句は出ないが誰かが得をしたり損をしたりすると必ず不満が出るからね。」
「うわ、こっわ…。」
ロフトは想像して空恐ろしくなったのか酒の入ったコップを両手で握りしめた。その様子にゼルトナーとクリスは苦笑してカイは少しつまらなさそうにする。
「そういえば99匹と1匹の話だが。他の99匹を守れるような特別な1匹…だったか。」
「正確には勝って勝負を全部白紙に戻しただけだから何かを守ってるわけじゃないけど、さっきのジョーカーは最後のキングごと場のカード全部を手に入れたような感じしない?特別な1匹が他の99匹を全部自分のものにしたようなもんだろ。」
「なるほど。他の99匹…つまり自分以外の全てのカードは自分の群れという訳か。ならジョーカーという1匹が他の99匹を守る、というのは言い得て妙だな。」
「だよね。あと、あのタイミングで羊の話を振られたから思ったことを言ってみただけ。」
「まあ俺も何となくで思い出しただけだから、羊の話に特に深い意味は無かったけどね。」
「無くてもいいんじゃない?楽しければ。」
「違いない。」
カイは周囲を見回して店内の様子を窺う。ゼルトナーの取り巻き達は宴会騒ぎに乗じて酒を浴びるほど飲んでいた。少し考えてから確認を取る。
「なあ、お仲間みんな飲んでるんだけど。ゼルトナーさんを勝手に連れてっても怒られないよね?」
「ああなったら大丈夫だな。皆はたぶん俺の事じゃなくて酒の事を考えてるさ。」
「どこ行こうか。ロフトとクリスはどうする?」
「いやいや2人のお邪魔はしませんよー。このままここで飲んで適当な頃合い見て帰るかな。」
「俺も。そういやカイはいつまでファインドラウトにいるんだ?」
「休みの最後の日は帰るのに使うから予定入れられないけど明後日まではいるよ。」
「じゃあ、また明日どこかで遊べるな。」
「いや俺らはともかくカイの明日の予定はどうなってんの。」
「予定は特にない。待ち合わせはエノテーカオルカにするか?」
「エノテーカオルカな、わかった。ロフトもいいか?」
「いいよ。夜までにはいく。」
「さて、と…」
話がまとまったところでカイは改めてゼルトナーを容赦なく不躾に見回した。
「どこに連れ込もうかな。壁の厚いとこがいいんだけど。」
「連れ込み宿なんて知らないからな!」
「真っ赤だぜ、ロフト。俺も連れ込み宿は知らないな。」
「安心して、俺は知ってるから。ゼルトナーさんはいきつけとかある?」
「いきつけの宿に美女じゃなくてカイを連れて行ったらそれこそ通報されるよ。未成年だろう?」
「…まあね。」
実は650歳である、というのは流石に言えないので見た目年齢で押し通すカイである。
ゼルトナーは軽くため息を吐くと改めてカイをじろじろと眺めまわした。
「なに?苦情は受け付けないから。」
「いや?苦情は無いよ。ただ本当に俺でいいのかと思ってね。」
「よくなかったら酒場に捨ててくところなんだけど。自信持ってくれない?」
「どういう励まし方だ。まあ、ありがたく受け取っておくよ。」
「どういたしまして。…そうだな。なら最後の逃げ道をあげるよ。」
「逃げ道?」
カイはおもむろにカウンターに移動した後で3人を呼ぶ。
「よし。マスター。」
「あ、はいはい。いやー、ありがとうね。全額使ってくれて本当に助かったよ。」
「別にいいよ。なあ、さっきのカードってまだある?」
「あるよ。ほら。」
「シャッフルして。」
「え?」
「最後の勝負するから。」
目を丸くする3人の前でカイはマスターにカードを切らせるとニヤリと笑った。
「カードを1枚だけ引く。ゼルトナーさんのカードが俺より大きい数字なら逃がしてあげる。俺より小さい数字なら諦めて。」
「いいのかい?」
「だって納得してないだろ。」
「納得してない…というか正直少し困ってるな。男は何回か経験があるが君みたいな子供じゃなかったからね。」
「場合によっては、その子供扱い後悔するかもよ?」
「怖いな。」
「どうする?最後のチャンスだ。」
「いいだろう。乗ってみようか。」
マスターは止めるかどうか迷っていた素振りだったが、やがて黙ってカウンターにカードを広げるように並べた。
「俺はこれにする。」
「なら、俺はこれだ。さて、どうなるかな。」
「自信はあるけどね。」
2人同時にカードを引いて裏返す。
ゼルトナーは8。カイは───10。
「はい、俺の勝ち。」
「2連続で負けたか。いいだろう。腹を括ろう。」
「やったね。」
「ついてないねえ、旦那。」
マスターの言葉にロフトとクリスが何ともいえない顔で2人を見る。
「じゃあ宿に連れ込んでくるから。2人ともまた明日。」
浮足立ってゼルトナーを入口へ連れていくカイを見て『いい趣味してるな』と2人は閉口した。




