王子様はイケナイ遊びをしている4
クイーンズカルテットとはトランプゲームの1種である。元はカルテットに端を発する。
ゲームの勝利条件は順番にカードをめくっていって4枚のクイーンを揃えた方の勝ち。クイーンが4枚揃っていなかったら手持ちのクイーンが多い方の勝ちである。
ルールは3つ。引いたカードは必ずその場で見せなくてはならない。ジャックを引いたら全てのクイーンを相手に差し出す。キングを引いたら全てのクイーンを相手から奪える。
ゲームの終了条件はジャック・クイーン・キングの全てが場に出揃うか、全てのカードをめくり終えるかのどちらかである。
ここにジョーカーが加わるとルールはそのままだが勝利条件と終了条件が変化する。
ジョーカーを引いた場合、手持ちのクイーンがどうであれジョーカーを引いた方の勝ちとなり、ゲームはその場で即終了する。
つまりジョーカー入りのクイーンズカルテットの決め手は、相手より先にジョーカーを引けるかどうかという事にある。故にこのゲームにイカサマを仕掛けるならジョーカーに仕掛ける必要がある。
それをよく理解しているゼルトナーは箱からカードを出すのをやめた。そしてマスターに向き直る。
「マスター、新しいカードはあるかい?」
「あ、ああ。取り締まりが緩んだ時のためにいくつかストックしてあるよ。」
「君が新品のカードを切ってくれ。それならイカサマしてないって皆にもわかるだろう。」
「ああ、かまわないよ。ジョーカーは?」
「1枚、入れてくれ。」
マスターが新品のカードを取り出して用意し始める。ゼルトナーはカードに何か仕掛ける気はなさそうだ。カイは黙ってカードが切られるのを眺めている。
「カイはこいつをやった事はあるかい?」
「何回か。運が良いのか悪いのかイカサマに当たった事はないけどね。」
「まあ単純で早く終わるゲームだからな。楽しむなら小細工なしで遊んだほうがいい。」
「意外だな。そういうとこ真面目なんだ。」
「こう見えても元冒険者でね。ルールもそれなりに守る方だ。」
「へえ…。」
マスターが切り終わったトランプを持ってきてテーブルに置く。
「真ん中は札置き場だから、テーブルの端っこに寄せとくよ。こっちはダイスだ。」
「ありがとう。ほら、ダイス振るぞ。」
「先攻は?」
「数の少ない方だ。俺は4だな。」
「俺は2。じゃあ俺からいくから。」
カイが1枚目を引いてすぐに札置き場に出す。ゼルトナーが2枚目を引き交互に手札を引いていく。
「やっぱり1枚目からクイーンは出ないか。」
「1枚目から出たら盛り上がるだろうな。」
「そういえば普通に始めたけど、裏に潜らないと取り締まられるんじゃないの?」
「小賢しいルール無法のゲームをするならね。こいつで遊ぶくらいならイカサマしない限り問題ないさ。」
「なるほどね。」
「ほら、クイーンが1枚だ。」
「残念、ジャックだ。」
意外と地味な展開に半数以上のギャラリーが立ち去っていたが、ロフトとクリスはテーブルの近くに陣取って様子を見ている。もっともイカサマを疑われたくは無いので相応に距離を取ってはいるのだが。
一方のカイはゲームに真剣になっているのか適当に遊んでいるのか傍から見てもわからなかった。
「クイーン。」
「取られてしまったな。」
「まだクイーンもキングも出揃ってないよ。」
「ジャックが全部出揃ったのが救いだな。少しはやりやすくなった。」
「あとはクイーンが2枚にキングが1枚と…ジョーカーが残ってる。」
「クイーンがどうであれ番狂わせが来るかもしれないな。」
「いいじゃん、面白そうで。」
ニヤリと楽し気に笑うカイにゼルトナーは何ともいえない顔でため息を吐いた。
「負けたら総取りされるうえに俺と一晩遊ぶんだ。あまり楽しくないと思うがね。」
「勘違いしないでくれる?勝っても負けてもゼルトナーさんで一晩遊ぶから。」
「それは怖いな。」
残りの枚数は20枚くらいというところか。少し緊張感を出すためにカイはゆっくりとカードを引く。
「怖くなったかい?」
「いや、さっさと終わったら寂しいって思って。何かおしゃべりしようよ。」
「ゲームが終わってからでもできると思うがね。別にかまわないよ。」
「何か面白い話ない?」
「そうだな…なら、羊の話でもしようか。」
「羊?」
「99匹と1匹の話さ。」
「それなら知ってるけど、あえて聞きたい。話してよ。」
こいつは本当にどうしようもないな、と思ったもののゼルトナーは話を始めた。
「100匹の羊を飼っている羊飼いがいた。ある日1匹の羊が迷っていなくなってしまった。羊飼いは残りの99匹を危険な山に残して迷った1匹を探しに出た。必死で探した結果その1匹は見つかり羊飼いは大いに喜んだ。…1匹のために99匹を危険に晒す理由が見つからない。俺だったら迷った1匹は見捨てるさ。君はどうだい?」
「俺も1匹より99匹を取るな。前提条件が違うなら違うけど。」
「と、いうと?」
「100匹が全部普通の羊だったら俺は1匹より99匹を選ぶ。でも…」
そう言ってカイは最後の2枚のカードを見つめる。
「迷った1匹が他の99匹を守れるような特別な1匹だったなら、俺は迷わず1匹を選べる。…ここでこの話を出すとか、そういう事だろ?ついさっきクイーン見せてくれたよね。」
「ああ、その通りだ。俺達の手持ちは互いにクイーンが2枚ずつ。残されたのは…」
「キングとジョーカー。たとえ総取りできるキングを引けたとしても相手がジョーカーを引いてしまったら自分の負け。俺達の場合迷った特別な1匹はジョーカーだ。違う?」
「そうなるな。」
「やっぱりね。そうだ、マスター。この2枚テーブルの上でシャッフルしてよ。」
「そうだな、頼む。」
「いいのかい?2人とも。」
「うん。元々どっちがどっちかわからないけど、念のためにシャッフルして。」
マスターは困惑しながらも言われたとおりにシャッフルして、2人がどちらでも選べるように並べた。
「恨みっこなしね。」
「ああ。」
2人はカードに手を伸ばした。




