王子様はイケナイ遊びをしている3
古いスロット台にいるカイの後ろでロフトとクリスは唖然としていた。
『ロフト。他の台は使わないから出た金は好きに持ってけよ。クリスも。俺の奢り。一覧表やりきるまでこの台で遊ぶつもりだから。終わるまでここから離れないから、無理に俺に付き合わなくていいよ。』
カイがそう言って一覧表に書いてあるシンボルの組み合わせを次々と埋め出したのである。
しかも当たりをやたらと叩き出すためマスターは頻繁にこの台に金を継ぎ足す羽目になった。外れの回数があまりにも少ないので『台にイカサマでもしたのか』と疑われチェックまでされた。もちろんそんなことはしていないしカイ達がシロである事はチェックしたマスターも認めた。
結果としてロフトとクリスはカイが当たりばかり出すスロット台と右往左往するマスターを眺める羽目になった。もっともそれだけではない。
「すごい、アレ。目押しできる?」
「いや俺は普通の台じゃないと無理かな。」
「あの古い台あんなに金が入ってたのか?」
「違う違う。あのガキが当たりばかり出して中身が無くなるから、マスターが足してるんだよ。」
「俺なんかマスターが金をプレゼントしてるのかと目を疑ったぜ。」
「表の穴埋めしてるらしいわよ。」
「ええ…?いつ終わるのよ。いや、あの台は使わないからいいんだけど。」
「これだけのギャラリーに見られてるのに、ほとんど外さないとか…どんだけ肝が座ってんだよ。」
カイの後ろに座っていたせいでロフトとクリスは老若男女問わず集まったギャラリーに囲まれてしまっていた。カイは気づいているのかいないのか黙って当たりを叩きだしている。ちなみに一覧表はもう少しで終わりそうだ。
それにクリスが胸をなでおろしていると、ロフトがクリスの服の裾をつまんで引っ張ってきた。クリスが何事かと思ってロフトを見ると、ロフトは目だけで酒場の隅のテーブルをチラ見している。
そこにはごろつきらしき男達がいた。体つきからすると冒険者崩れも混じっていそうだ。彼らの視線を辿るとカイのいるスロット台の両脇に積まれた金貨の山を見つめている。ロフトは小声でクリスに呼びかける。
「…なんか不味くない?」
「カイの性格からいっても極端な揉め事にはならないだろうけど。…ただ、因縁はふっかけられるかもしれないな。」
「無事に帰してもらえると思う?」
「わからない。」
何ともいえない顔で2人がカイの方を見るとカイが手を止めたところだった。
「ん。たぶんこれで終わり。マスター、どう?一覧表の中身、全部埋め終わったと思うけど。」
途中から一緒に組み合わせの数を数えていたであろうマスターが安堵の表情を浮かべる。
「ああ、終わったよ。肝が冷えたよ、こんな…」
「回す時に大金とか入れてないから、心配するほど店は損してないと思うけど。2人とも。スロット終わったから。」
その言葉にギャラリーからも拍手が起きる。しかし───
「ずいぶん儲かってるようじゃないか、坊や。」
ごろつきの男達の中にいる、一際体格のいい壮年の男がカイに声をかけてきた。店の空気がガラリと変わって辺りは静まり返る。
男はうっすらと粗野な笑みを浮かべた。
「なに。少しくらい幸運にあやかりたくてね。」
カイが自分の少し前に立つロフトとクリスに小声で呼びかける。
「…悪いけど。この金、全部好きにしていい?」
「お前の金だろ?全然いいよ。俺達は1銭も出してないし。」
クリスの言葉にロフトも頷く。2人の確認を取ってからカイは男を見た。
「おじさんが俺と遊んでくれるならコレ全部賭けるけど。どうする?」
「俺が相手なら簡単に勝てると思うかい?」
「思ってないし、勝つか負けるかは関係ない。」
カイが真面目な態度で返すと男達は虚を突かれたような表情を浮かべた。
「どうせやるなら面白い方がいいだろ。勝ったら今ここにある金が全部手に入る。悪い話じゃないと思うけど。」
「賭けの中身によっては俺に都合のいい話になるんだが。君は…勝負に勝つか負けるかはどうでもいい、金も全部手放したってかまわない…ってところか。随分と豪気な話だ。君が金を全部賭けて俺が勝ったらそいつを貰える。それはいい。だが俺が負けたら君は俺から何を貰うつもりなんだい?あいにく君と同じだけの金は持ち合わせていないんだがね。」
するとカイは壮年の男を足のつま先から頭のてっぺんまで眺めてニヤリと笑った。ああ、こういう男は好みだな。
「金はいらない。一晩、俺と遊んでよ。」
その言葉に一瞬、時が止まる。
途端にギャラリーはざわつき出し男の取り巻き達は予想外の提案に困惑した。
だがロフトとクリスはドン引きする事も馬鹿にする事も無かった。むしろ呆れている。カイはこうして誰かを引っかけては一夜の遊び相手にする。前も荒くれ男を引っかけて泣かせたという事があった。泣いている理由はあまり知りたくないので詳しくは聞かないが。
「どうする?」
「勝ったら金を貰えて君と遊べる。負けたら金は貰えないがやっぱり君と遊べる。坊やは自分の顔をしっかりと見たことはあるかい?女の子みたいに綺麗な子だ。俺にとっては勝っても負けても得しかないよ。…一晩遊ぶっていってもゲームで遊ぶつもりじゃないんだろ?本気かい?」
「そのつもりだけど。俺はカイ。おじさんは?」
「俺はゼルトナーだ。」
「ゼルトナーさんと一晩遊びたいんだけど。駄目なの?」
やや熱っぽい視線に少し困惑しつつもゼルトナーはどこか納得したように頷いた。こちらもその手の輩には慣れているらしい。
「…悪い子だ。いいさ、俺を賭けよう。お前ら、勝っても負けても坊やに手を出すんじゃないぞ。」
「わかったよ。」
「滅茶苦茶だ。」
面白半分、呆れ半分、といった感じで取り巻き達は離れていく。一方でギャラリーは何か珍しいものが見れそうだと集まってきた。ゼルトナーは中央のテーブルに歩み出る。
「カイ、こっちにおいで。」
ゼルトナーがテーブルに置いたもの。それは。
「カードをしよう。クイーンズカルテットだ。」




