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精霊の森は今日もやかましい。  作者: 森の民
本編
32/39

王子様はイケナイ遊びをしている1

「はあ…」


カイはため息を吐いた。今回の視察はあまり楽しいものでは無かった。

貿易の交渉材料を揃えるために貴族の令息令嬢達から必要な情報を引き出す。それはいいのだがパーティー中は大勢の少女達に群がられ根掘り葉掘り個人的な事を聞かれた。これだから歓迎パーティーというものは嫌なのだ。

外見こそ少年であるものの実年齢が約650歳のカイにとっては、10代の人間なんぞ赤子に毛の生えたようなものでしかなかった。人間の小娘達からすればカイは外国からやってきた同じ年頃の王子様なのかもしれないが、精霊のカイからすると外国の託児所にいる他種族の幼児達に囲まれたようなものだ。面倒くさい事この上ない。

しかしエスペリトゥヴェルトにとっての大人の基準である『外見年齢が成人に達しているかどうか』『2000歳を超えているかどうか』のこの2つ。このどちらにもカイは当てはまっていない。つまり彼はどうあがいても子供扱いされるのである。やっていられない。


「えーと…明日で公務は終わり。んで、陛下からもぎ取った休みは4日間…ね。サブゲート使うかな。アレ便利だし。」


エスペリトゥヴェルトには『亜空間を利用して好きな異世界に行ける門』である『ゲート』というものが存在するのだが、その持ち運び用のものが『サブゲート』である。本来のゲートと違って異世界に行くことは出来ないが、同じ世界の中なら自由に好きな場所へ行くことができる非常に便利な瞬間移動装置である。魔力はそれなりに消費するが。


「休みになったらウェストリアにでも行くか。」


カイは鞄からガラの悪そうな若者が着るような服を取り出した。




王子様はイケナイ遊びをしている




サブゲートを開けて少し大きめの港町に出る。ウェストリアでも貿易でよく知られた町ファインドラウト。ここには良いものや悪いものなど色々なものが集まりやすい。遊ぶにはもってこいである。


「…っはー。仕事キツかったわ。ちょっとありえない。」


カイは不良のような服装で道を歩いていく。見慣れた裏路地を曲がればこの街に来るたびにいつも立ち寄る食堂だ。店に入ると奥にいた2人がこちらへ視線を向ける。それはすぐに笑顔に変わった。


「カイだ!カイじゃんか!」

「うお、マジだ。久しぶり。何してたの。」


すぐに声をかけてきたのはロフトとクリス。2人とも18歳だ。

赤子に毛の生えたような10代の人間だとしても、カイにとってこの2人はその枠組みには入らない。気軽に遊び歩く気楽な仲間である。この2人と遊ぶ時ばかりはカイの精神年齢も外見年齢に合った17歳の気分になる。自分が長く生きている精霊である事はもちろん彼らには隠してあるのだが。


「ああ、適当にやってた。お前らは?」

「俺は仕事してたよ。稼いだ金を取られそうになって危なかったけどなー。」

「何?泥棒?それとも、ダイス?カード?」

「ダイスー。中々当たらなくてさあ…でも無理して素寒貧になったら生活できねえし…」

「そこは一か八かに賭けろよ。」

「カイみたいにできないよー。」


泣きつくロフトとは対照的にクリスは何ともいえない顔でカイを見た。


「…いや一か八かって言うけど、お前は勝っても負けてもどうでもいいんだろ?」

「まあね。面白く遊べて酒飲めてあとは誰かひっかけられればそれでいい。クスリはやらないけどな。説教なんてくだらない真似するなよ?」

「俺達も未成年なのに賭博して遊んでるんだ。同じ穴の狢だよ。」

「わかってるじゃん。…まあ20歳まであと2年しかないんだから、大人と大して変わらないけど。」


カイが口角を上げるとクリスは困ったようにため息を吐いた。

ロフトはそんな事は気にならないのかカイと遊べるのが嬉しいのかそわそわとしている。


「で、今日はどこ行くんだ?白鮫亭?エノテーカオルカ?」

「それなんだけど、ロフト。クリス。新しいとことかない?」

「最近は貿易にも特に変化は無いし、街の金の流れだって潤ってるわけじゃない。だから新しい店とかは出てないよ。」

「へえ…エアステリアにいたから知らなかった。」

「カイ、あっちに行ってたのか!?あの大陸って何にも無いじゃん!!」

「あまり大声あげるなよ、ロフト。でもエアステリアか…確かに遊び場も酒場も少ないし、つまんなかったろ。何でそんなとこ行ったんだ?」

「…スローライフに憧れて?」

「嫌だよ…スローライフとか飲んだくれてる暇ないじゃん…。」

「金も稼げるわけじゃないから賭博もできないだろ…。俺もごめんだわ。で、真実は?」

「仕事だよ。仕事とかじゃなかったら俺も行かないって。」


ああ、と納得した後でロフトは訝し気にカイを見てきた。


「そういやカイは仕事であっちこっち行ってるみたいだけどさ、何の仕事してんの?」

「秘密。探ったら友達やめるから。」

「ええー!何でだよ何でだよ気になるじゃん、いいだろー。」

「いや、うざい女みたいだから。やめてくれる?」

「そこまでにしておけよ。いいから何して遊ぶか決めるぞ。」


あまりしつこくするとカイがあっさり帰ってしまう事がわかっているためロフトを止めるクリスである。


「相変わらず物分かりいいじゃん、クリス。俺のカノジョになる?」

「やめろよ、カイ。俺はお前と違って女にしか興味ないから。」

「残念。お前、意外と俺好みなのに。」

「はーい!ロフト君はどうですか!」

「お前はうるさいから女だったとしてもやだ。」

「ひっでー!!」

「何?俺に抱かれたいの?」

「やだ。俺も女にしか興味ねえもん。」


ふへへ、と笑うロフトの頭を軽く小突いてカイはクリスに話題を振る。


「で?一番いいのは?」

「適当なのがいいならダイス。稼ぎたいならスロット。…カードは今は駄目だな。取り締まりが厳しくなってるから裏に潜ることになる。」

「裏…ね。どうなってんのかな。」


その言葉にロフトとクリスは心配そうに顔を見合わせた。


「…いや危ないぞ?ただのごろつきじゃなさそうな奴もいるし。冒険者崩れとか…」

「気になる。面白そうじゃん。」

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